クイズ
「じゃあアスタは答え分かる?」
「当たり前だろ?ここはシュティーア領で、領主は統括騎士団長であるバデルダ・シュティーア様。機甲は最強と名高いラータウロだ!」
「…アスタってもしかして領主のファンか?」
急に鼻息荒く興奮しだしたのだが。
「ああ、そうだぜ。人々を守る騎士団のトップで昔からその豪快な冒険譚を読むのが好きだったんだ!貴族なのにたった一人の妻だけに愛を捧げ続けるっていう所もカッコいいしな!」
……ノーコメントで行こう。口滑って我が家の恥を晒したら大変だ。
「それにラータウロが牛の獣人に似ているっていうところが良い!」
「そこかよ」
たしか似てなくもな……いや、二本の角ぐらいじゃないか似ているのは。生身の人間と機甲が似ていると言われても僕はあまりピンとこない。
「…というか見たことあるのか?」
「昔王都に行った時パレードかなんか見たぜ。あんな機甲を顕現出来たらいいなメリル。」
「うーん、どうかな。ラータウロはスピードが足りない気がするけど」
「でもそれを補って余りあるあのどっしりと構える防御力!そして剛腕から繰り出される大地をも砕くパワー!……十分じゃないか?」
「たしかにあれだけ防御力高ければ色々楽だろうね」
攻撃をものとせず反撃するラータウロの姿を思い浮かべる。あのパワーから繰り出される機甲技<ブレイクスマッシュ>で罅が入った修練場の修復はもう済んだのだろうか?
「一時期あれを真似しようとして体に鉄板を取り付けたことがあるんだ」
「何やっているんだよ。……結果は?」
言わずとも知れているが。
「動きにくすぎてすぐにやめたよ。鉄板程度じゃあれほどの防御力を得ることは出来ないし」
「突進で同じ大きさの鋼をひしゃげさせたからなぁ。相当硬いんだろうね」
「お、そんな催しもやっていたのか!俺も見たかったな!」
「……あ、ああ。機会があるといいな」
あっぶね、見たのは家でだったわ。つい口が滑って言わなくてもいい事まで口走ってしまった。
「デミグはシュティーア家の騎士になるんだろ?もしかしたら見る機会があるかもな!」
「うん、俺もそんなすごい機甲見てみたい!」
「今の話で領主の最低限の情報は覚えたか?」
「機甲の名前はラータウロ、この領地はシュティーア領、そして領主の名前はバルデダ・シュティーア様!」
「バデルダだ」
「もう間違えないからセーフ!」
「本当に間違えるなよ?信者みたいのが騎士団にいるから気を付けろよ」
「分かった」
「大体デミグは目上への対応ができるのか?ちょっとやってみろよ、僕は貴族だし見てやるぞ?」
「えー、メリルに目上の態度とりたくない。あんまり貴族って感じしないし」
「はったおすぞクソガキ」
「まあまあ落ち着けよメリル。デミグはメリルに懐いているから、そんな他人行儀の態度とりたくないって事だ。メリルも別に貴族らしく扱われたいわけじゃないんだろ?」
「…懐いて…いる?…デミグが?」
そう言われると──全然悪い気がしないな。
「社交界に君臨する闇」とか恥ずかしいあだ名つけられ、破滅を恐れるなら近づくな、覚悟なきものはただ散るのみとか陰で言われて曇っていた心が少し晴れる。
デミグとは初対面からこんな風だったし、あまり怖い貴族って印象がないから仕方ないな。それに孤児に礼儀とか作法とか求めすぎるも無茶な話か。僕も貴族らしい接触の仕方をしなかったし、デミグがこれで慣れちゃっのならしょうがない。うん、しょうがないな。
「……メリルって結構ちょろいね」
「しっ、あまり大きな声で言うな、聞こえるだろ」
「デミグ、僕はいいけどやっぱり貴族への対応は覚えるべきだぞ」
「大丈夫、院長にそこらへんは気を付けろって言われているから」
本当に大丈夫か?
アスタに視線をやると──
「ああ、本当だ。孤児は後ろ盾がないからな、危ない目に会わないようにしっかりとそこらへんは教えている」
「ならいいんだけどね。……じゃあ第3問!領主の息子の名前を述べろ!」
「ええっ!?機甲関係なくない?」
「一般常識を身につけろと言ったけど機甲関連の事しか聞かないとは言った覚えはないな」
「うう、なんかズルい!」
デミグはすがるようにアスタの方に顔を向けるが……
「アスタ、答えを言うなよ?」
「分かっている、デミグの勉強だろ?」
釘を刺して事前に制止させることで助けが来ない事を教えてやる。一応習っているのならデミグ自身が頑張って思い出すべきだ。
「……まさか分からないのか?」
父の名前が頭からすっぽり抜けていた奴だ、僕とシオンの名前を憶えてない可能性は大きいか。
「いや、一人は分かるぞ!」
「ほう」
やっぱり優秀で卓越している長男の僕のせいでシオンの名声が霞んでいるのか。少しシオンに悪い気もするな。だが仕方のない事だ、シオンの名もいずれ広まるさ。
「まずは次男のシオン様!」
「おい」
「長男からの方が良かったか?…でも名前覚えていないんだよな」
「……」
「なんか怖いって聞いたことはあるんだよな。たしか気まぐれで社交界に現れては人々を闇に叩き落とすってギルドで聞いたことあるぞ!」
「……」
なんでそんなデマだけはちゃんと平民にも知れ渡っているんだ。
「メリルは貴族だし、出会う危険があるんだから気を付けろよ!危ない奴には近づかないのが一番だ!」
「……」
……泣きたいんだけど。
諦めるな、心を強くもて。誤解が広がっているなら地道に自分で修正してやる。
「まあまあデミグ、それは誤解だ。シュティーア家の長男は人格に優れていて、文武両道で、社交界で人気があって、フレンドリーで気さくな人だぞ。婚約者とかいないけどいつも友達に囲まれていてまさに最高に出来た方だ」
ちょっと勢い余って若干捏造っぽい所が出てしまったが、大体あっているだろう。……ちょっとだけ虚しくなるのはなんでだろうな。
「…まさかメリル!そう広めるように脅されているのか?」
「いや、そんな事ないから。全部本当の事だから。」
「あっはっは!もういいだろメリル。答えはメリル様だぞ、デミグ」
「えっ?メリルとメリル様…?メリルがシュティーア家の長男なのか?」
「……いや、違うぞ?同じ名前のメリル様が、だ」
「そうなんだ、ちょっとややこしいな」
「そう言う事もあるさ。この世界のどこかに別のデミグやラスもいるかもしれないぞ」
「へぇー不思議な話だな!」
「じゃあ第4問いくぞ。お前が住んでいる街の街長は?」
「ドウルプダ様だろ、それくらいは分かるって。ようやく一問目の正解だ!」
あの街長が様付けされているのはなんか違和感あるな。ドウルプダが覚えられていて僕の名前が忘れられていたのは何か癪だ。
「良かったな、やっと1点獲得だぞ」
「ひっく!っていうか街長の問題1点だけなの!?」
「ああ、問題は重要性と難しさによって点数が変わってくる」
「えっと……つまり3問目までは全部5点だったって言う事?街長だけ点数低いの可哀そうだな」
「違うぞ。1問目2点で、2問目が3点、4問目が10点だ」
「4問目おかしくない!?…あれ、俺4問目片方合っていたよな、その分は?」
「メリル……様が答えられなかったから減点だ」
「うう~厳しいな。両方あっていないとダメなのか…」
……実はそんな事ないのだが。もし合っていた片方がメリルだったら半分の5点あげていた。
「5問目だ」
「よし、どんどん答えてポイントを貰うぞ!」
「デミグが好きな子は?」
「ラス!──っていきなりなに聞いているんだよ!」
「はい正解。1点やろう」
「間違えるわけないじゃん!しかも低い!」
「これで2点だな」
「もっとポイントの高い問題出してくれよ!」
「難しすぎたら答えられないだろう?」
「大丈夫、正解するから!」
「その自信はどっから来るんだろうね。……6問目、この国の名前は?」
「ヴァルダース王国だろ!今の問題は何ポイントだ?」
「0点だな」
「なんでだよ!高ポイント問題はどうしたんだ!」
「出すとは言っていないけど?」
「メリルのやり方ってなんかラスに似ている…」
「じゃあ第7問、ディータニアン湖付近に駐留している騎士団は?」
「駐留ってなんだ?」
「その場に留まる事みたいなもんだ。つまりディ―タニアン湖周りで働いている騎士の名前は?って事」
「う~ん、ディータニアン湖の周りか…。」
「分からないみたいだな。よし、この問題は5点問題にしよう」
「……それって増やしたの、減らしたの?」
「増やした」
「質問する人の性格が悪すぎる!」
「答えられないのか?じゃあまだ2点だな」
「……答えは?」
「ディータニアン騎士団だ。街でも紋章とか見かけるはずだけど」
「問題文の中に答えがあったのか!」
「はい、じゃあ第8問──」
「そろそろつくぞー」
御者席にいるアスタは街が見えてきた、僕らに声をかけた。
「はぁ…疲れた。やっとかー」
「馬車の中にいただけなのに疲れるとは情けないなデミグ」
「メリルのせいでずっと興奮していたからだよっ!」
「あれぐらいで興奮するようじゃ駄目だな」
「なんでだよ?」
「騎士になりたいなら否応なしに貴族と関わることになる。……いちいち過剰反応していたらやってられないぞ」
「……そんなに大変なの?」
「話通じないのかこいつとか思わせるようなのもいるし、こっちがうんと言うまで何度も同じ話を繰り返そうとする奴もいるから」
「うわぁ……やっていけるかな、俺。」
「別に口が回るようになれとは言っていないさ。そういう奴をあしらえる心を持てというだけだ」
「……そっか。メリルって意外と」
「うん?」
「俺のために色々考えてくれていたんだな!さっきの質問も勉強すると同時に心を鍛えてくれていたんだろ!」
「……いや、暇だったから普通にデミグで遊んでいただけだよ」
「一瞬でもメリルに恩を感じた俺に謝れ!」
「ほらすぐ怒る。これだから……」
「くっそー!」
「仲良くなったじゃねぇか、お前ら!」
「別に普通だよ?」
「誰がこんな奴と!」
「あっはっは、そうかそうか!」




