後ろからの攻撃の避け方
アスタとともに安全な後方で待機していた馬車の方に戻ると、僕らが帰ってくるのをみつけたデミグが馬車から身を乗り出して出迎えてきた。
「遅かったな!」
「見ていただけの奴が何言っているんだ」
「見ていただけじゃないぞ、ちゃんとどんな動きしているか観察していたぞ!メリルって なんで後ろから来る攻撃を避けられるんだ?普通はそんなの無理だろ?」
「それぐらいは出来ないと乱戦になったらすぐ死ぬぞ」
「ええ~、じゃあどうすればいいんだよ」
……教えてやってもいいけど僕のやり方はデミグじゃ出来ないんだよな。
「アスタはどうしているんだ?なんかコツでもあるのか?」
「俺か?俺はほぼ勘だな。こう背中に悪寒を感じると攻撃が来るって合図なんだ」
「そんなの真似できないよ!」
「たくさん経験を詰めば分かるようになってくるって聞いたぞ」
「経験積む前に死んだら意味ないじゃん。……アスタおじちゃんはどれくらい経験積んで今の様に避けられるようになったんだ?」
「そうだなぁ……」
目をつぶって過去を哀愁しているような雰囲気を醸し出すアスタ。歴戦の戦士──は言い過ぎにしても短くない冒険者人生でアスタは様々な相手がいたのだろう。
戦ってきた自分の過去を振りかえっているのかもしれない。
「…俺がデミグ位の時から勘は良かったな」
「……経験は?」
さっき戦いの経験うんぬん言っていた割には生まれつきの能力かよ。
「昔から本当に勘が良かったんだ。いたずらで掘られた落とし穴や飛んできた花瓶を勘だけで避けていたな」
ちょっと待て。
「……え、何。いじめられていたの?」
落とし穴とか花瓶が飛んでくるって割と露骨ないじめじゃないか?
「いや、こんなもんだぜ獣人は」
「…お、おう」
アスタはおおらかな性格だ、本人が気づかなかった可能性もあるか。…考えすぎだといいんだけど。アスタはいじめを受けるような性格じゃないと思っていたのだがな。
「他にも模擬戦で囲まれて袋叩きになりそうになった時とか、授業前に教科書を隠された時とかも勘が無かったら危なかったぜ。…そういえば教科書はすぐに見つかったけどなぜか濡れていたな」
「……」
……まごう事なきいじめですね。もしかして俺って…とか気が付く前に話題変えたほうがいいのかもしれない。真実に気が付かない方が幸せな類の話だこれは。
隣で俯いているデミグを使うか。
「デミグが沈んだ表情しているよアスタ」
「どうしたんだデミグ?」
「……生まれつきじゃん。俺はそんなに勘良くないよ」
「獣人は勘がいいっていうしなぁ。そのおかげかもしれん」
「…俺も獣人になりたい。なんか方法ない?」
「いや、無理だろ…。種族の差はどうしようもないぞ。」
アスタにそれは獣人だからというレベルでは無い気がする……
「はぁ、どうすればいいんだ…」
「メリルはまだ言っていないだろ、後ろからの攻撃の避け方。最初デミグはメリルに聞いていたんだ、種族も一緒だし教えてやってくれよ」
こっちにくるか。
「教えてもいいんだけど、これ以上デミグを傷つけるだけだぞ。」
「そう言うなって、一族秘伝の技とかなのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「デミグも聞いてみたいだろ?何か参考になるかもしれんぞ?」
「ああ、そうだな。教えてくれ師匠!」
……まあ、いいか。ボタンを押したのも傷つくのもこいつだ。
「馬車の中で話すよ。これ以上ここにいてもしょうがないだろ?」
「それもそうだな。ペルーダの群れに出会っちまう前に帰ろう」
「それで!どうなんだメリルは!」
馬車が進みだしてすぐに興奮気味にデミグが質問の続きを聞かせてくれと詰め寄ってきた。この機会を逃したくない、必ず何か聞きだしてやると意気込んでいる顔だ。
「僕は相手の魔力を視ているよ」
「魔力?」
「全方位にどんな魔力があるか分かるんだ。だから不意打ちとかは僕には通じないって事」
「おお、なんかすげぇな!それってどうやって覚えるんだ?」
「デミグ、これは生まれつきのものだ」
「えっ」
「つまりお前には無理だ」
「……メリルもアスタおじちゃんもズルい。俺はそんな特別な能力なんて何も持っていないよ」
「デミグが余計落ち込んじまった」
「だから言ったのに」
「ほら、元気出せよ!街に帰って俺が冒険者たちに色々聞いてみるぜ。もしかしたらすごく使える技術があるかもしれないぞ!」
「……うん」
「それに諦めたらラスが遠ざかるぞ!」
「…う、うん!諦めないよ、俺!特別でなくても頑張れば報われるって院長が言っていた!」
うわっ、デミグちょろい。ラスの名前出すだけでこれか。ラスは眼中にないみたいなこと言っていたし、脈は無さそう──なんて本人は言えないな。
しかし特別な能力か。
「機甲を顕現出来ればデミグも一発逆転を狙えるんだけどなぁ」
「ああ、純人族はそれがあったか!」
「機甲?」
「え?知らないのか?」
嘘だろ一般常識だぞ。
街にはギルドマスターという有名人も顕現できるというのに。
「ちょっとまって。頭の中からなんか出てきそう」
「おい」
「……思い出した!ギルドマスターの奴か!」
「純人族なのに機甲の事が頭から抜けているとか大丈夫か?」
純人族最大の強みだぞ。
「ちょっと忘れちゃっただけだ!街のみんなはあれをいつも<エルディーン>で呼ぶから…」
ああ、「機甲」じゃなくてその機甲の名前って呼んでいたって事か。慣れ親しんでいない言葉だったから忘れただけ、と。
本当に機甲について知っているか心配になってきたな。
「ちょっと怪しいからいくつかクイズ出すぞ」
「…クイズとか言って本当は勉強させようとするんだろ?」
「その通りだ。頭が足りない間抜けな騎士なんてどこも採用してくれないぞ、一般常識ぐらい身につけろ」
「分かった!」
「じゃあ第一問!機甲を顕現出来るようになる年齢は?」
「…いつなの?」
「……孤児院じゃこんな事も教わらんのか?」
これは孤児院にまともな教育を導入する政策を打ち出したほうのがいいのか?こんな事も知らないとか私空気の吸い方知りませんって言っているようなものだぞ。
「いや、メリル。孤児院はちゃんと教えているぞ」
「じゃあなんでデミグは答えられないんだ?」
「デミグは授業を上の空で聞いていたり、寝ていたりしているからな」
「おい」
「うっ…」
「目を背けるな、こっち見ろ」
「ラスがいなくなった最近じゃ急に真面目になっているんだよな。皆驚いてデミグがおかしくなったとか言っているぜ。」
「なんで言うんだよアスタおじちゃん!」
「こうすればもうデミグは寝ないだろう?」
たしかいい薬だな。
ラスがいたころは不真面目で何の取り得もない孤児で密かにラスに恋する少年だったデミグ。たぶんそのまま成長してもデミグが望むような未来は来なかっただろう。
だが今の逆境なような状況で目標に向かってやる気を出しているデミグを見ると、むしろ今の状況は逆境じゃなくてチャンスの様な感じがするな。
少なくともラスがいなくなる前よりは脈があるように状況は動いている。
……もしかしてデミグって主人公属性があったりするのだろうか。
「もう!メリル、答えは!」
「15歳だ。正確には15歳よりも後に顕現した例もある」
「前は?」
「それはないな。少なくとも15歳までは待たないと顕現出来ない」
「15歳か…長いなぁ。メリルって何歳?」
「14だな。そしてもうすぐ15歳になる」
「もうすぐだな!顕現できるかやっぱ不安になるのか?」
「いや、そうでもないさ。貴族は大体顕現できるしね」
「えーやっぱ貴族ズルい!」
「…街中でその発言するなよ?騎士に目を付けられるぞ」
「ええっ!?そうなのか…」
「話の続きだけど…機甲を顕現できるかどうかって血筋も関係あるんだ。だから貴族は昔から機甲を顕現できる血を取り入れていれ続けて、代々機甲を顕現し続けられるようにしているって訳」
「えっと、どういうこと?」
「…簡単に言うと親が機甲を顕現できる人だと、その子供も顕現できる可能性が高いって言う事だ」
「そういう事か。…でも、俺は孤児だから希望は無いのかな」
「そんな事ないさ。平民だからって顕現出来ないって言う事はない」
「メリル…!」
「期待しすぎるのも良くないけどな。自分にはきっと力が──って信じ続けたけど結局顕現出来なくて絶望する例の方がはるかに多い」
「…どっちなんだよ。期待していいのか?」
「あったらいいな程度に考えとけ。機甲ありきで余裕ぶってももし顕現出来なかったら心に傷を負うだけだ」
こういうのは<記憶>の世界だと捕らぬ狸の皮算用って言うんだったけな。
「機甲か…」
デミグは頭を悩ましている様だ。普段機甲なんて見ないせいでどういうものかやはりよく分かっていないらしい。そこは生まれというか取り巻く環境の問題だ、本人を責めるのは酷だろう。
せっかくの機会だ、無知の平民に機甲のすばらしさを語ってやるのも悪くない。
あの重厚の装甲がぶつかり合った時の金属音が、互いに一歩も引かずに攻め合う姿勢が僕は好きなのだ。同好の士を増やすという目的もあって話を続けることにした。
「じゃあ第二問!」
「なんかテンション高いねメリル」
「そんな事ないさ。じゃあ問題は──ここの領主の機甲の名前は?」
「え~と、そもそも領主は誰だっけ?」
「…領主の名前も知らない領民ってどうなの?」
「院長がその話をしていた時もデミグは寝ていたぞ」
「もういいよそれは!これから頑張るから!」




