狩りの前
「どうやって分かったんだメリル?驚かせようと思って隠していたのに」
「魔力がみれると言っただろ」
たしか言ってあったはずだが。
僕は生物や道具に宿る魔力をみることが出来るのだ。
一般的には魔力は不可視なものとされていて、自分の体内の残存魔力などは感覚で測るしかないのだが、どういうわけか僕は魔力を直接視認できる。
「…あれ、本当だったのか」
「おい、どういう意味だ」
「メリルぐらいの年頃の子は、なんか右腕に封印とか、左目に隠された能力とか、成せなければならない使命がーとかいうからその類かと思っていた」
思わず顔が引きつる。……屈辱だ、中二病だと思われていたらしい。
「じゃあ前に僕がペルーダの魔石を見ていた時はどう思っていたんだ?」
「芸術を理解していることを装って、著名な作品の前で長い時間立ち止まって魅入っているフリをしている奴」
「表出ろハゲ」
「ここが表だ。あと牛の獣人に元々髪の毛はない」
「じゃあその角をへし折ってやる。」
「怖いこと言うなよ。悪かったって、機嫌直してくれよ!」
「それでなんでデミグもいるんだ?まさかついてくる訳じゃないよな。」
「そこまで分かるのか。そのまさかだ」
「冗談だろう?」
ペルーダの群れがいるというリスクをうまく回避したとしても、僕らが狩りに行くのはモンスターである。
ペトスコスは強いモンスターではない。何匹かかってこようがアスタにとっては脅威にならないし、それは僕も同様。
剥ぎ取る素材の状態を無視していいなら、<ダーク・カッター>を適当にバラまいているだけで容易く全滅させられる程あっけない獲物だ。
だが武術も知らず、魔法も扱えずと戦う力のない子供が対峙するには危険すぎる存在だ。
多少は剣の練習をしている様だが、デミグの腕じゃあペトスコスに刃を通すのは厳しいし、そもそもモンスターと対峙させていいような年齢じゃない。
アスタは何を考えている?
「デミグは強くなりたいと願っている。だから見せてやろうと思ったんだ」
何を?命の奪い合いとかか?それとも冒険者の狩りの姿を?
「スパルタすぎないか?いきなり魔境に放り込むなんて。」
生還できるかも怪しいぞ。
「安心しろ、戦わせたりはしないさ。後ろで見ているだけだ。…それに今回馬車を引くモンスターは守る事に特化しているからな」
今回馬車を引いているのはぺシャノと呼ばれる牙獣種モンスターだ。
たしか長い年月かけて家畜化したモンスターで、持久力が高いから運搬業によく使われるモンスターだったけな。
あと自分が引いている馬車や荷車を死守する性質を持っている。
なんと自分の主人よりも荷物を優先するぐらいだ。その気質のせいでぺシャノを好まない商人も少なくないが、今回の場合においては最適なモンスターだ。
僕もアスタもこのモンスターに守ってもらわなきゃならない程弱くは無いし、馬車に座っているデミグはか弱い。
ぺシャノのランクは…たしかCだっけな。
鱗が頑強で防御性能に秀でているし、ペトスコスが数匹程度ならなんとかデミグが守れるだろう。
ペルーダが一匹でも向かって来たら怪しいが。ペルーダの群れに出会わないことを祈るしかないか。
「てっきりアスタはこういう事しないとは思っていたよ。」
弱い奴は後ろに隠れていな!っていう主義かと。
「俺は一人で全てを守りたいもの全て守れるとは思っていない。だから強くなる意思がある奴を鍛えるのさ」
「そういうもんか」
「それに弱い奴を強くしてやるっていうのも「守る」って事だと思うんだ」
「…そうだな。いい考えだと思うよ」
「弱さ」か。正直僕とは無縁のものかもしれない。
無力感に苛まれることはこれまで無かった──いや、友人関係の構築において無力だったわ。いつもなんかうまい具合に失敗している気がする。
コミュ力に問題はないはずなのになんでだ?
これが運命という奴か、ならばこう言うべきか。
僕は悪くねぇ、世界が悪い。
「大丈夫かメリル?なんだか遠い目をしていたぞ」
「ちょっと世界を呪っていた所だ」
「本当に大丈夫か?これから狩りだぞ」
「問題ないさ。デミグがついてくるという不安要素ぐらいしかない」
そこまでいうと突如馬車の扉が開き、中からデミグが飛び出してきた。
「なんだよ二人して弱い弱いって!今に見ていろ、強くなってやる!」
「へー、あと何秒待てばいいんだ?」
「出来るかっ!そんなに早くねぇよ!」
「まあ落ち着けよデミグ。そもそも僕は弱いなんて言っていないぞ」
心の中で考えただけだ。
「……でも思っているだろ?」
「うん」
「くそっ!いつか吠え面かかせてやる!」
「はいはい」
僕に何言っても効果がないと感じたのか、デミグの矛先が今度はアスタに飛んでいく。
「アスタおじちゃんも!メリルを驚かせるって言う作戦はどうしたのさ!俺ずっと待っていたぞ!」
「悪い悪い話こんじゃってさ。あとデミグが潜んでいた事には気がついていたらしいぞ」
「ええっ!?じゃあ俺は何のために早起きしたんだ!」
涙目でアスタに食いかかっているデミグを見るとからかいたくなるな。
「…デミグ、水の泡って知っているか?」
「メリル!」
「ほら、メリルもあんまりデミグを煽るなよ。」
「分かったよ、アスタおじちゃん」
「……まだおじちゃんじゃない。まだ、まだ…」
アスタはやっぱり挑発に乗らなかった、でも結構ダメージあるみたいだ。
ちょっと思う所があったらしく、ぼそぼそと何か呟いている姿を見ていると効果はあったと実感できるが。
「出発前からこんな調子だと心配だな」
「メリルのせいじゃねぇの?」
「おまえもアスタおじちゃんって呼んでいるだろう?」
「え、おじちゃんって呼んじゃダメだったのか?」
「いや、全然かまわないよ。大丈夫、全く問題ない」
「なんでメリルが決めつけているんだ!ダメだ!」
「復活したかアスタ。じゃあなんで自分で子供たちに言わないんだ」
「ラスのせいでいつのまにかそんなキャラ付けになっていたんだ。気づいたらもう修正できないところまで来ちまった。おじちゃんじゃないというと皆首をかしげるんだ…笑えるだろ?」
「そんな悲観そうな顔しても少ししか笑えないよ」
「性格悪いなメリル!」
「おいおいそんなこと言うなよ。子供を泣かすような真似は感心できんぞ」
「お前は子供じゃない!」
「年齢的には子供だぞ?まだ成人していない」
「俺が庇うのは弱い奴だけだ。お前は横で戦う戦友だろ?」
「…………急に照れること言うなよ」
今のはぐっと来たぞ。
交友関係がズタボロだったせいでこういうセリフに僕は弱いのかもしれない。
照れている顔を見せないように、視線を逸らすと自分の世界に籠っているデミグが目に入った。
「…ラス、元気でやっているかな」
デミグにとってラスは禁句かもな。すぐに上の空になるし。
「おーい、そろそろ行くぞ」
体を揺さぶっても返事がない。これだけでデミグがどれだけラスに心奪われているか分かるものだ。
脈は無さそうだが。
「ラスは元気だからさっさといくぞ」
「え!?なんでメリルは知っているんだ!?」
「大人だからさ」
「そっか。大人ってすげーんだな…。ならアスタおじちゃんも分かるのか?」
「いや、分からんが…」
「え?大人なんだろ?」
「デミグ、アスタは大人じゃない。おじちゃんだ」
「そっか。間違えてごめん、アスタおじちゃん。」
「おいメリル。…っていうかなんかそのやり口はラスにそっくりなんだが、もしかしてなんか聞いたのか?」
「偶然だろ。僕とラスは碌に会話していない」
「……俺ってそんな老けて見えるか?」
「獣人の年齢は見分けつきにくいから良く分からん。せめて大きな髭でもはやしてくれれば分かりやすいのに」
「そんなに年食ってねーよ!こんなことしていないでさっさと行くぞ!日が暮れる!」
女性でもないのにアスタに年齢の話はダメらしい。そんな事を考えながら僕は馬車に乗り込んだ。
「機甲」に関してどのようなものか分かりにくいと感想を頂いたので、11話にて少し説明を追加しました。




