後始末
「くっ!……そろそろ限界か。」
大掛かりな魔法発動し、機甲まで持ち出し、さらには機甲技を何発か連続して発動したせいでラディブロンの動きに衰えが見られてきた。
あれだけ激しく動いたのでさすがに魔力が尽きてきたのだろう。むしろこれだけ動いてまだ機甲の顕現が解かれていないのはすごい事なのだ。
さて、ようやく終わりが見えてきたな。そろそろ顕現状態を解除して帰っていただこう。
彼は何らかの強い思いを抱いて戦っているらしいが、こっちとしては茶番劇である。もう十分付き合ったし、もういいだろう。
「だが、まだだ!この身に残る力を最後の一滴まで絞ってでもあなたに食らいつく!」
……限界までやるつもりらしい。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ラストスパートをかけてラディブロンの剣がさらに激しくなる。そのせいで躱すのが難しくなってきた。
こちらだってずっと機甲の剣戟を生身でさばき続けてきたんだ、万全の調子ではない。
しょうがない、こっちも魔法使うか。
「エクリプス・カルチェレム!」
得意の闇魔法を発動させ、ラディブロンを牢獄に閉じ込める。
「これはあの時の!」
……こいつに見せたことあったっけ?まあ、いいか。
閉じ込められたラディブロンは脱出しようと牢獄を攻撃するが、消耗した彼じゃとても無理だ。
「くっ!ならばランドスピア!」
イコンは最後の残った魔力で機甲技を発動させようとするが──
──剣は地面に突き刺さらず、牢獄の底にはじかれた。
どうやらラディブロンの<ランドスピア>は地面に剣をささないと発動できない技のようだ。だが牢獄の底が邪魔で剣が地面に刺さらない。
そうしているうちでも<エクリプス・カルチェレム>の閉じ込める以外のもう一つの凶悪な効果でみるみるイコンの残存魔力は減っていき、ついに機甲の顕現が解かれる。
そして顕現解除と同時にイコンはその場に倒れ、それを見届けて僕は魔法を解除した。
イコンは結構強かったな。もしかしたら僕の護衛連中ともまとも戦えるかもしれないと思えるほどに。彼らはあれでも選りすぐりの精鋭だ。少なくとも戦闘面、護衛能力に関しては。
さて、全て終わった事をアスタに告げるか。
「メリル!」
孤児院に入るとアスタがこちらに飛んできた。
「なんだそんなに慌ててさ」
「なんだもなにも急に外で戦闘音がしたからだ!何があっても出てくるなと言っていたから肝を冷やしながら待っていたんだぞ!」
そういえば権力でごり押すためにアスタには中にいてくれと言っていたんだっけ。
シュティーア家であることはバラしたくないしな。
僕はそんなに派手なことしていないし激しい戦闘音というのはラディブロンの暴れた音だろう。
「けがはしてないか?かなり激しい戦いだったんだろ?」
「ああ、大丈夫だよ。すべて無事に終わっ──」
……そういえば忘れていることがあった。
チラリと外を一瞥すると中々ひどい惨状が広がっている。
イコンの魔法で濡れてぬかるんでいる地面や激しい斬撃の痕……はまだいい。
一番ひどいのは魔力消費が少ないからと連発された<ランドスピア>の被害だ。
孤児院の壁や道路にまで多くの穴が開いていて、壁は崩れかかっている。
イコンも戦いの後の事まで考えていなかったのだろうな…
……これ、ひょっとして僕が後始末するのか?
あの一番の元凶の木っ端役人をまだ縛り上げていないし、倒れているイコンもそのままにしておけないだろう。
……魔法の選択を間違えたな。
魔力と体力を奪う<エクリプス・カルチェレム>じゃなくて、単純に拘束する魔法を使えばよかった。
イコンが気絶したせいで彼がやるべき始末までこっちにまわってくる羽目になっている。
<エクリプス・カルチェレム>は使いやすい上に効果が強く、多用するので反射的に使ってしまった。
……今度から魔法使う時は注意しよう。
「ひどい状況だな。」
「かかった時間より後始末の方が時間かかりそうだ」
「俺の属性を忘れたのかメリル?こういう時こそ俺の土魔法が火を噴くぜ!ようやく出番が来たな!」
「ネタが寒すぎて凍りそうだよ。あと出番は絶対にない」
砂まき散らすしか出来ないだろうに。
昨日は街の役所や冒険者ギルドからも応援を呼んであの周辺を整備して終わった。
今日はアスタが冒険者ギルドに応援を呼びにいった時に良さげなクエストを依頼されたらしいので、アスタに誘われてディータニアン湖の方面に行くことになった。
なんでもこの時期に繁殖するためにディータニアン湖の周辺にある湿地帯に集まってくるモンスターの素材を取ってきてくれというクエストだそうだ。
だが繁殖期のモンスターは通常時よりも気が立っていて凶暴な傾向があるし、同じ場所に集結しているせいで数も多く、危険性が高い。
アスタは何をもってよさげのクエストと判断したのだろう?
「待たせたね、アスタ。」
「俺も今来たところだ。」
デートの待ち合わせかよ。
いつもの場所である噴水前でこんなやり取りをすると、周りの視線を感じた。
こちらに注目しているのはご腐人達だろうか?いや、きっとアスタが有名人だからだ、うん。そう考えないとが精神衛生的悪い。
「…あれ、リノセスは?」
いつも馬車を引いているモンスター、リノセスの姿はどこにもなかった。
「ああ、なんか他にやる事があるらしいから今回は借りられなかった」
そういや一番大事にしているリノセスをほぼ毎回貸してくれるドウルプダってかなり太っ腹だな。それだけアスタと仲がいいのか、信頼しているのか。
お互い街の主要人物としてそれなりの交流はあるだろうし。
「まあいいや。それで今日は何を狩るんだ?」
「おいおいまだ狩るとは言ってないぞ?もしかしたら巣に忍び込んで素材をかっぱらう依頼かもしれんぞ」
「かっぱらうだけならもっと適任がいるだろ。戦闘能力に特化したAランク冒険者に依頼する事じゃない」
アスタみたいなパワー型じゃなくてもっと足の速い人や潜入に長けた人物もいるのに、わざわざ依頼料が高くなるAランク冒険者に頼むという事はそれなりの理由があるという事だ。
「…まあ、狩るのは合っているんだけどな。今回の狩る予定の相手はペトスコスという蛇竜種だ。聞いたことあるか?」
「ああ、あるよ。」
たしか4本の短い脚と長くて強靭な顎をもっている青い蛇竜種だっけ。
絵で見た限りではぶっちゃけると青いワニである。
ペトスコスは普通の鰐型モンスターよりも水中にいる時間が長く、繁殖期か天敵から逃げるときぐらいしか地上に上がってこないらしい。
鰐は水中ばかりにいるイメージに反して地上での機動力は侮れないものだが、ペトスコスは水中が主な生活環境のせいでその能力を殆ど失っていると聞いたことがある。
その代わりに首の筋肉はよりしなやかになり、可動域が普通の鰐よりも広い……つまり噛みつける範囲が広いという事だ。
幸いというべきなのはとくにこれといった特殊な能力がない事か。群れるという所は狩る側として厄介だが、群れるという事は個々の能力が優れていないという事だ。
それを表すようにペトスコスはDランクモンスターである。
僕の知っている特徴としてはそれぐらいか。この世界では蛇っぽい奴と鰐っぽい奴は大体蛇竜種だ。
<記憶>の世界ほど細かい分類はしていない。
蛇と鰐が同じくくり放り込まれるとは、感性が<記憶>の世界よりの僕としては違和感が──いや、同じ爬虫類と考えると違和感ないな。
「対峙した経験は?」
「無いけど。アスタは?」
「俺は何度かある」
「それで?DランクモンスターにAランク冒険者様が出向く必要がないんじゃない?」
明らかな過剰戦力だ。
「いく低ランクでも群れたらその危険性は定められたランクを超えるぞ」
「それでもだよ。群れを全滅させて来いという依頼であってもアスタは過剰戦力だ」
「近くにペルーダの群れも来ているらしい」
ペルーダは以前戦った甲羅を持った蛇竜種か。たしか甲羅にも自意識があって、蛇の部分と共生関係を築いているんだっけな。
「ペルーダのランクはB、それが群れるとなると確かに並みの冒険者じゃ近づけないな。」
Bランクが群れるとなるとその厄介さ、危険性はAランク以上とも考えられるか。
「そうだ、だから今回俺が──」
「並みの冒険者でも危ないのに子供はもっと危ないと思わないか、アスタ?」
「……分かるのか。流石だな」
お茶目に舌を出すアスタを尻目に、僕は知り合いであるだろう子供が中にいるであろう馬車に視線を向けた。




