対イコン戦
「──参る!」
気迫みなぎった動きでイコンが斬りかかってくる。だが脅威というほどではない。
僕は少し身をよじってその斬撃を躱した。
剣筋を見るにやはり修練は怠っていなかったのだろう。というか結構いいレベルだ、さすが騎士団長補佐に上り詰めただけはある。
連続して斬りかかってくるイコンの攻撃を躱し、時には剣ではじく。速さはあるし、型としては完成に近いのだが少々威力が足りないな。
その年齢でここまで出来るのは称賛に値するのだが。
自身の成長がいつまでたっても理想に届かないと嘆いていたらしいけど、十分才能あると思う。
「──やっぱり剣だけじゃ無理か!」
いつまでたっても有効打を与えられないことに痺れを切らしたのか、イコンが叫ぶ。
こちらとしては当たってやるわけにはいかないのだが。あっちはそれなりの防御力があるだろう軽鎧をつけているのに、こっちはろくな防御力の無い、殆ど生身と変わらない状態だ。
こんなことになると思わなかったので普段着で来たのが仇になったか。
まあ彼の技量では僕に当てるのは無理なので、心配しなくていいか。
ん?なぜかイコンの手に魔力が集まっていくような…
「ウォーターウォール!」
おいいいいいいいいい!?
イコンが発動させた魔法<ウォーターウォール>が僕の周りを囲み、動きを阻害する。
おかしいな、たしか試合のきっかけは僕の「剣を抜け」だったはずだ。なんでこいつ魔法使っているの?
剣って言ったのだから剣術の試合に決まっているだろ?
「よし!」
よくねぇ!
先ほどまで見たいに機敏に動けなくなった僕を見て、イコンは技が通じたという喜色満面な顔で斬りかかってきた。
「どうですかメリル様?俺の魔法は!」
「驚いたね」
こちらの世界の魔法と言えば球か槍状にして飛ばすだけのお粗末なものばかり。<記憶>の漫画やライトノベルのような多様性は無いのだ。
工夫を凝らした魔法を使える者は極僅かである。
魔法の講師(一日で消えた)がさもすごい技を見せびらかすように槍状にした魔法を飛ばすところを見て、もっと色々工夫すればいいのにと思ったものだ。
そう考えるとイコンの魔法は工夫を凝らした高水準のものだな。
だがもっと驚いたことがある。
──剣の試合で使うとは思わなかったよ。
魔法そのものよりもお前の思考にびっくりだわ。
「だが、まだ届かんぞ」
だがいくら動きを阻害しようともイコンの剣の振るう速度よりも僕の反応速度が全然上なので対処は容易だ。
<ウォーターウォール>に触れないように立ち回りながら、彼の剣をさばくのは難しくない。
横払いで斬りかかってきたイコンの剣を受け止め、大きく後ろに吹き飛ばす。
「そんなことは分かっていますよ!試してみただけです、機甲無しでどこまで通じるかを!」
機甲無しでも十分強かったよ、あとなんか雰囲気明るくなったな。もしかしてバトルジャンキーだったのか?
元気になったら帰ってほしいのだが。
「ですが!ここからが本番です!」
……ん?
「ラディブロン!」
イコンが光に包まれ、機甲を顕現させた。
……こいつ、今度は魔法どころか機甲まで持ち出してきやがった。
こっちはまだ顕現できる年齢ですらないというのに!
イコンの機甲<ラディブロン>を観察する。白と緑を基調とした、細身だと感じさせる機甲だった。
装甲は並みの機甲よりも薄く、武器も細長い剣の2刀流なところをみるにスピード特化型だろう。
よりにもよってスピードタイプか。
機甲同士の戦いよりは生身の相手に強いタイプだ。
ちょっとまずいかもしれない。
「改めて──参る!」
生身の時並…いや、それ以上の速度で<ラディブロン>が剣を振りかぶりながら接近してくる。
僕は振り下ろされた剣を受け流し、威力を殺した。まともに受けることはしない。
スピードタイプとはいえ機甲だ、生身で受け止めるには危なすぎるパワーを持っている。
今度はこちらからだと攻撃を仕掛けるが、もう片方の剣で受け止められた。鍔迫り合いに持ち込まれる前にその場を離れ、体制を整える。
二刀流は扱いが難しいはずなのだが、うまく扱えているな。
普通は片方の剣ばかりに意識がいって、もう片方がおろそかになるのだがイコンは完璧に両方の剣を扱えている。
自分が優勢だからかラディブロンが再度こちらに接近してくる。
しかも今度は剣を両方とも構えていた。
同時に受け流すことはできないので、同時に振り下ろされた剣を後ろに飛び去る事で回避する。
そして剣を2本とも振り下ろしたせいで隙が生じたので、胸部に一太刀を入れた。
やはりスピード特化型だからか、それともそもそも装甲の硬度が低いタイプなのか、結構深い傷が入った。
だがそれだけだ。ラディブロンの顕現が解かれることも無ければ、動きにも支障はない。はぁ、やっぱり生身と剣一本で機甲に対抗するのは無茶だったな。
「まさか機甲相手に傷を入れるとは!…それでこそ俺が追い求めた「強さ」だ!」
……動きに支障ないどころか更にギアが上がった様な。
あとちょくちょく敬語抜けて素に戻っているね。まあ彼が敬語使うところに違和感を感じていたし別にいいのだが。
「さあ、まだまだ行きますよ!」
今度は最初の様に剣を一本だけ構えながらラディブロンが突撃してくる。胸部に傷を入れられたのを警戒して、もう片方は防御用に残すつもりか。
ラディブロンの激しい剣戟を躱し、受け流しながら考える。
さて、どうするか。
本体にダメージを蓄積させて、顕現を解除させるの……無理では無いだろうが結構手間がかかるな。魔法無し道具なしで機甲を相手取るのはやはり火力が心もとない。
今でも隙を見ては装甲に傷を重ねているのだが、ラディブロンの動きに衰えはない。
関節を狙うか?……いや、さすがにそこまでの隙は無いか。
さっきの一撃のせいで警戒されているし、こちらも機甲用の威力重視の一撃を放たらなければならない関係上、あまり精密な所は狙えない。
武器を狙うか?……こっちの剣で機甲の剣を破壊するのは難しいか。
さっきは細長い剣と表したが、あくまで機甲基準だ。
そもそも機甲の武器は頑丈なのだ。生身の人間では扱えない重い武器も持てるし、そのおかげで武器に用いられている素材も密度が高く、硬度が高い素材が使える。
僕の剣は切れ味が高く、頑丈さも優れているが何度も機甲の剣とぶつかれば流石に欠損するだろう。
アスタの魔剣でも借りればよかったな。
「機甲技!」
そんなこと考えているといつまでたってもこちらを捕えられないからか、イコンが機甲技を持ち出してきた。
機甲だけが使える必殺技。間違っても生身の人間に使う技じゃない。
……おっかしいな、恨みを持たれているようなつもりはなかったし、殺気も感じていないはずなのだが。
「ランドスピア!」
ラディブロンが地面に剣を突き刺すと、突如地面から飛び出してきた土の槍がこちらに襲い掛かってきた。
横に回避すると、土の槍は勢いよく孤児院の壁に突き刺さる。孤児院の壁はレンガ造りだ、ただの土を固めただけじゃ貫けない。
おそらくあの槍は土を纏っているだけで、中身の硬度は土とはかけ離れたものだろう。
なんて初見殺しの技だ、もし当たっていたら間違いなく穴が開いていたところだ。
それなりに硬度があり、飛ばす場所も調整できるとなると防御や牽制にも使えそうな使い勝手のいい技だな。
しかも大掛かりな技でもないので、消費魔力も少なくて済む。
「もう一発!ランドスピア!」
……でも生身の相手に使ってほしくないなぁ。
再び発動された<ランドスピア>しゃがむことで回避する。
あっぶね、顔狙っただろこいつ。
頭に穴空いたらポーションとかでも助からない。
「飛ばす場所は選べよ」
「もちろんです、決して孤児院には当てませんよ。」
……違う、そこじゃない。
「力無き民を、寄る辺ない子供に被害を与えるなど騎士として言語道断!……私が言えた義理ではありませんがね」
「少しは騎士らしくなったな」
あとは剣の試合で魔法や機甲を持ち出さなかったら合格だ。
「まだですよ。償いをして罪を雪いでからでは無いと騎士を名乗れません」
「そうか」
「それにこんなチャンスを貰えたんだ、もう俺は歪まない!」
気迫の籠ったラディブロンの重い剣の一撃を躱す。……よく分からないが、何かうれしい事でもあったのだろう。
これなら満足して帰ってくれそうだな。




