降格、解雇
今のはこの話題はやめようと言ったのにまだ続けるハイネケンが悪い。
ていうか主を折檻に誘うとは頭のねじ飛んでいるのか?変態の考えは分からん。
それにしても、だ。
「カレルってハイネケンの事嫌がらないよね」
普通だったら嫌悪してもおかしくないのに。自分のストーカーに隣に座られても眉一つ動かさないカレルの精神はどうなっているのか。
「純粋な能力は評価していますから」
能力、ね…。
頭の中で駆け巡るのはアスタに正体を隠せと言っておいたのに、2秒も経たずにバレそうになった事。
魔法一発でダウンしたり、カレルにパシられるみっともない姿。
仮にも大貴族に仕え、戦闘系に携わるこいつのカッコいい姿を僕は見たことない。
「…本当に?」
「ええ。…あと扱いやすいですし」
そこが本音じゃね?
「…気絶しているこいつを外に放りだしても誰も拾わないよね?」
「その可能性はありますね」
「じゃあさ、放り出して誰かに新しい護衛隊長になってもらおうよ。ほら、シオンの護衛みたいなのがいいな」
文武両道、主のために剣を捧げますっていう感じの人だ。
メイドにうつつをぬかすどこぞのビール野郎とは大違いである。
「…少し検討してみます」
「いやちょっと待ってくださいよ!?」
そういって急にビール野郎が覚醒する。
「お前こそ待て。確実に気絶していたのになんでもう復活しているの?」
「職と恋の危機だったもので」
「はいはい…はぁ、分かったよ」
「えっメリル様。何が分かったんですか?」
「新しい護衛隊長が来たらお前を副隊長にしてやろう」
「えっ?」
「それはいい考えですね」
「えっ、カレルさん?」
「お前の執念に免じて、な」
えっなんで降格するの?みたいな顔になって慌てているハイネケン。
「…メリル様。仮にそうなったらカレルさんと業務連絡とかするのは…」
「その新しい護衛隊長だな」
「カレルさんと関わる機会は?」
「当然少なくなるだろうな」
「じゃあ嫌です」
きっぱりと決め顔で断ってきやがった。
「決定権お前に無いけどな」
「…いいんですかメリル様。ああいうのが来ると脱走するのが面倒になりますよ」
懐柔策に出たか。
「別に誰が来たって脱走する自信あるよ。ああいう頭硬そうなのは出し抜きやすいしな」
「…ああいう頭硬そうなのだと勉強厳しいですよ」
「何か言ってくるようなら満点のテスト叩きつけてやるよ」
「…毎日厳しい所作の訓練が待っていますよ」
「それはカレルの役目だな。護衛隊長は関係ない」
「どんなときでも監視されるようになりますよ」
「そこまで厳しいわけないだろ。お前みたいなストーカーじゃあるまいし」
「……私とメリル様の仲じゃないですか。」
もう言う事なくなってきたのか。
「今までありがとう、楽しかったぜ」
「……カレルさん、長い付き合いですよ「今話しかけないでください。」…え?」
思い人のセリフに固まるハイネケン。
「頭の中で最適な人員がいないか考えているのです」
「ちょっ…カレルさん、ああいうのがタイプなんですか!」
お、それはちょっと興味あるな。
「いえ、別に。ですがメリル様が求めているので」
「カレル、実は興味あったりしない?家柄もいいし、真面目だよ?」
「メリル様、なんでそんなやつ薦めるんですか!」
そんなやつというがむしろ一般的な女性からしたら魅力的な男性だと思うが。
カレルの友人達みたいのがダース単位で釣れるだろう。
「悪くない男だと思ってな。ほら、カレールの件で慰めようと思ってだよ」
変な噂が流れたカレルの心中は分からないが、良い記憶では無いだろう。
男にでもすがって忘れるといいさ。
「なんですかそのカレールって?」
「闇を纏い、あらゆる物理攻撃を反射する化け物さ。あと夜な夜な男を貪り「メリル様」
「そんな化け物が…。そんなのが街にいたのですか!?」
「ああ、そして今お前のとなり「メリル様」…にいたら怖いねー」
この話題を嫌がったのか、カレルに止められる。また苦いお茶飲まされるのは嫌だし、ここいらで終わりかな。
「…そんなモンスターがいるとは。帰ったらすぐに騎士団に依頼しましょう!」
「お前の口から騎士らしいことが出てくるとは驚きだな」
「…騎士ですよ私」
普段の行いがあれじゃん。
「大丈夫だよ。討伐しておいたから。」
カレールじゃなくてエリーニュスだけど。
「おお、流石!やっぱり今回も余裕でした?」
「いや、生まれて初めて死にかけたわ。一人で挑んでいたら負けていたな。」
「えっ!?本当ですか!?」
今までそんなことなかったのでハイネケンが驚いている。
カレルも少し意外そうな雰囲気だった。
碌に挫折を経験しないと本人ばかりか周りもこうなるのか。
たまには人に隙を見せたほうがいいのだろうか?
「まず物理が反射されるから剣術が使えないだろう?かといって相手も闇属性だったから魔法の通りも悪くてさ」
「そう聞くとメリル様とは相性悪そうですよね」
「連れが魔剣持っていてよかったよ」
「魔剣…アスタさんですか?」
「ああ。魔剣カラドボルグ、良い武器だったよ」
こうしっくりくるというか手に馴染むのだ。重さと大きさ的には僕には合わないはずなのに。
実際あの大剣を振るのは少しきつい。だが触ると異様に手に馴染む感覚がするのだ。
「メリル様も魔剣貰えばいいじゃないですか。倉庫に何本もありますよね?」
魔剣は希少だがうちは大貴族、所有数はかなりのものだが──
「いや、なんかいまいち良いなと感じたのが無くてな。どれ触っても魔剣に拒まれている感じがするから自分は魔剣と合わないと考えていた。だから今回は驚いたよ」
「魔剣って人拒むのですか?そんな話は聞いたことないのですが」
「そんな感じがするだけだ。別に魔剣が語りかけてきたわけじゃない」
「剣が喋りだしたら怖いですよ!それで…女性型のモンスターだったんですよね?」
「ああ」
「…その、美人でした?」
こいつも男なのか、こういう事が気になるようだ。
「いや、顔のパーツが一つも無かったよ。そのくせ不気味な声出すしちょっと怖かったよ。まるで。カレルみたいな雰囲気だった」
「いやぁ、すごい偶然ですね!カレルさんとカレールかぁ」
ああ、すごい偶然だな。
「でも顔が無いのですよね?顔があるなら絵で描いて見せてもらおうかなと思ったのですが」
「…絵?」
もしかしたら実は全く才能が無いかもしれない分野だ。アスタに下手糞と言われているし、人に披露したくない。
「メリル様って何でもできるじゃないですか?」
「…ああ、もちろんだ」
「だったら絵もうまいかなって。私メリル様の絵を見たことありませんし」
「……エリーニュスは顔が無かったし、また今度の機会にな」
「楽しみにしていますね!」
無い機会を永遠に楽しみにしてろ。
「…ああ。で、そろそろ話を戻そうか」
「…えー、戻るってどこにですか?」
ちゃんと分かっているのか少し冷や汗をかいているハイネケン。
「もちろんお前の解雇の話だ」
「話飛躍していません!?副隊長への降格ですよね!?」
「ちゃんと覚えているじゃないか」
「嫌ですよ!?真面目な勤務態度だったじゃないですか!」
「嘘つけ、どの口が言うんだ。カレル…誰か良い人思い付いたか?」
「ええ、がんばって考えましたよ」
「えっ!?まさか本当に!?」
「考えた結果このままでいいと思い至りました」
「カレルさん!」
感慨極まったのかカレルに飛びつこうとする変態──あ、また鉄拳の餌食になった。
「メリル様も別にハイネケンさん嫌いじゃないですよね。なら別にこのままでいいと思いますよ」
「…それもそうだ「痛ぁ、やっぱカレルさんのご褒美は効くなぁ。」…カレルっていつもSMプレイで遊んでいるの?」
「誤解です。ハイネケンさん、そろそろ持ち場に戻ってください。部下に示しがつきませんよ」
もう十分ついていないと思う。なんなら上司の威厳っていうやつも自ら捨てているレベルだ。
一応僕も窘めておくか。
「もう十分楽しんだだろ、仕事しろ」
「分かりました、カレルさんがそう言うのなら!」
そういって元気に飛び出すハイネケン。
すぐに自分の持ち場に戻ったようだ。
……最後思いっっっきり無視されたのだが。
やっぱ降格させようかな。




