護衛達
「お前ら…なんでここが?」
「ここに怪しげな穴があったのもので」
「ハイネケン、答えになってなくない?」
こいつはハイネケンという名の僕の護衛隊長だ。僕と不定的に鬼ごっこを繰り返している護衛達のリーダーである。
ちなみにこの名前、<記憶>の世界ではかの有名なビール会社と同じなので、僕は心の中でビール野郎と呼んでいる。
「好奇心あふれるメリル様なら、ここにいるだろうと思っておりました」
「ほう、それは俺が怪しい穴があったら入っていくやつ…とでも言いたいのか?」
ちらりと面々を眺めるが、だれ一人欠けていない。 つまり絶対にここにいるだろうという確信で全員待機していたのだ。
「実際にここからでてきましたし」
……そこを突かれると弱い。
だが僕が怪しい所があれば突っ込んでいくと思われるのは癪だ。今回だってこの穴はアスタが見つけた…というか掘ったものだし。
僕はアスタについていっただけ、決して無鉄砲ではない。うん。
「さあ、お覚悟は良いですか。残念ながらカレルさんからの折檻をメリル様にお譲りすることになりそうです」
本当に残念そうな顔をしているな、こいつ。それに反して後ろの面々は色めき立っている。これまで全て逃げ切っているので、彼らが折檻を受けた回数は計り知れない。
だが、ようやく復讐するチャンスに恵まれたのか皆生き生きとした悪い顔をしている。 全く、主にそんな顔を向けるなんて護衛としてどうなのだろうか。
そして残念そうにしている護衛隊長ことビール野郎はカレルに思いを寄せているらしい。以前彼から打ち明けられたことある。
あの笑顔仮面メイドのどこが好きなのか分からないが、人の好みはそれぞれだ。
──その前から彼の部下たちから彼がカレルの事が好きだとバラされているので僕は知っていたが。
まあ、僕に不定期的に逃げ出してとかのたまった上で、自分の部下諸共カレルの折檻を受けようとする変態だ、部下達は軽い報復する権利はあるだろう。
ちなみにあの発言後、部隊内で下克上を狙った戦いが起きたらしいが、彼が今でも護衛隊長なところを見るに、相応な実力者なのだろう。
僕としては部下に思い人をバラされたり、下克上を挑まれる彼が少しだけ心配だ。
「そんなにカレルに折檻されたいなら、今回も譲ってあげるけど?」
「部下たちも十分にカレルさんの愛を受けたので、そろそろメリル様も味わうべきかと」
折檻の内容を思い出したのか、その部下たちはげんなりとした表情をしている。本当にどんな事をされたのだろうか、口止めされているのかこいつらに聞いても教えてくれないのだ。
あとこれだけは絶対に声を大にして言いたい、その折檻に愛は無い。
さて、どうしたものか。この後絶対面倒くさい展開になる。
「おーい、メリル。知り合いか?」
ほら来た。
後ろを振り返るがアスタはいない。まだ穴の底にいるのだろうか。
「アスタ、上がってこれないの?」
「足を少し痛めちまったみたいで無理だ。魔法で何とかしてくれないか?」
「分かった」
とそこまで言って穴から離れる。
護衛達に絶対に正体をバラすなと言い含めておかないと。
「集合。今からお前達は知り合いの騎士団って言う事にしてくれ」
「了解です」
こういう事は珍しくもないので、これだけ言えば分かるか。後ろの護衛達も頷いているので心配は無いだろう。
「おーい、アスタ」
「おお、メリル。急に言っちまったから置いて行かれると思ったぜ」
「そんな事はしないさ、ちょっと人助けしてくるって話しただけだよ。ほら」
そういってアスタを縛り上げて、地面まで引きずり出す。
「紹介するよ、知り合いの騎士団の人達だよ」
「どうも我々はシュティーア家長男直属の護衛です」
…ん?
……ん!?
周りの護衛達は顔を青くしている。当たり前だ、僕も同じ顔色になっているだろう。馬鹿か、どうせわからないのだしそこは適当な騎士団名をでっちあげろよ!
なんで正体ばれること言うのさ!?
ハイネケン、いやこのビール野郎を信じた俺が間抜けだった。
「ほー、この近くにシュティーア家長男のメリル様が来ているのか?」
……アスタが天然で助かった、今回はその鋭い勘も発動しなかったらしい。
「ええ、また脱走しておりまして。困ったものですよ」
もう黙れお前。
カレル愛が足りないから脱走してくれとかいつも言っているくせに、どの口で今のセリフが言えたのだろう。
「良かったなメリル、顔も知っているんだし見かけたら挨拶していけばいいじゃないか。貴族ってそういうのが大事なんだろう?」
「…ああ、うん」
自分で自分に挨拶しても何の利益も無いよ…なんて言えないから頷くしかなかった。
しかしここでビール野郎が更に余計な一言を放つ。
「…え?メリル様はメリル様だろう?」
こいつはさっき何に了解したのだろうか。知り合いの騎士団のフリをしろと言ったはずなのだが。
「…ん?よくわからなくなってきた」
ああああああ、やばいアスタもなんか変だと感じき始めた。
「メリル様ならここn…」
絶対に最後まで言わせてはならんと彼に急接近し、少しだけ回復した魔力をすべて使い切り闇魔法を発動させる。
「ぐへっ」
良かった、なんとか気絶してくれた。魔力量は心もとなかったが、彼が完全に油断していてよかった。あとはこの場を速やかに去るだけだ。
「ああああ、大変だよアスタ!隊長が体調不良で倒れた!」
急な演技にも護衛達は着いて来てくれた
「隊長、ご無事ですか!」「ああ、持病の発作が!」「カレルさん不足だ!」
若干余計な事を口走ったやつもいたが、アスタが気にしていなさそうなのでいい。人助けが根幹にあるアスタの事だ、人が倒れたからそれどころではないのだろう。
「急いで街へ行かないと!」
「そうだね!早く…へぶっ!…あれ?」
足を踏み出した僕は急なけだるさに襲われて派手にすっ転んだ。ああ、そういえばビール野郎沈めるのに魔力使い切っていたわ。
「おい、メリルまでどうしたんだ!?」
「魔力使い切った…」
「さっき俺を引き上げた時は平気そうだったじゃないか?」
「あの時使い切ったんだよ、うん。実はフラフラしていたんだ」
「おお、それはすまねぇな。街まで負ぶさってやろうか?」
「結構です」
そんな姿をカレルに見られたら300年は馬鹿にされる気がする。いや、誰にだって見られたくない。
「ちょっとここで休んでいくから、アスタはその変態長を街まで連れて行ってやって」
おっと、ちょっと口が滑った。
「でも、お前が」
「メリルさんなら大丈夫です、ここは我々がいますから」
そういって護衛達から二人ほど進んで出てくる。
「我々はここの地理に詳しくないので、変態長をお願いします」
「分かった!」
護衛達のボケにも反応せず、アスタ達一行は即座に出発した。
「それでメリル様、転んだフリしてまで残った理由は何ですか?」
なんか僕に都合のいい方向に勘違いしてくれている。まあ、この護衛達は何でもこなすメリル・シュティーア様の姿しか見せてないのでそう思うのも仕方ないのだろう。
実際、ここまで疲弊したのは人生でも初めてだと思う。
自分から恥をさらすことも無いので、その勘違いに乗っかかることにしよう。話があるのは本当だし。
「可及的速やかにあの穴への立ち入りを封鎖しろ。人数が整い次第、この森への立ち入りも禁止だ」
いきなり森への立ち入りを制限できるほどの人員は連れてきていない。だからまずは穴だけでも──という訳だ。
「…それほどまでの措置を?あの穴にそんなとんでもないものが?」
「ああ、そうだ。厄介な古代遺物だよ。しかも禁忌に関わる類のものだ。」
そこまで考えて、森だけの封鎖では足りないことを思い出した。
僕らが入った方の地下通路は忌命の宝玉のある広間に繋がっているのは分かっているが、もう片方はどこに繋がっているか分からないのだ。
急いで調べなくてはならない。やるべきことは多くある。
「封鎖次第、騎士団の精鋭と研究者の準備もしろ。冒険者はダメだ」
どこから話が漏れるが分からない以上、なるべく信頼できる身内で固めたいものだ。
冒険者が全く信頼できない…という訳でもないが、酒が入れば口が滑る者が多い。投入する人員は信頼できる者、それもシュティーア家の息がかかっている者が望ましい。
「「はっ、直ちに」」
「あとで報告書を書いておくから、それを参考にしてくれ」
「了解しました。…それでメリル様、あの者にも監視を?」
あの者とは言わずと知れている。
シュティーア家の人間以外であの穴の存在を知っている者──アスタだ。
正直、監視はつけなくとも大丈夫だと思…いや、これは客観的ではないな。 一週間も共に過ごしていない者を信頼するのは貴族として甘過ぎる。
騙し騙されが常識の貴族社会で甘えなど許されない。今回は物が物だし万全を期さなければならない。
シュティーア家は国の守る事を任される「武」の頂点、国の大黒柱なのだ。子供を冒険に放り出すという変な風習があろうとも、これだけは揺るがない。
国に罅を入れないためにもにも万が一は許されない。
「……ああ、頼む」
だがたまにこの立場が煩わしく思うのは──
──僕がまだ子供だからだろうか。




