結局秘密は…
「…途方に暮れた我々だが、悪いことはさらに続く。ドラゴン型のシャドウが大量の雑魚シャドウを引き連れてこちらに襲い掛かってきたのだ。おそらくは決死隊の仲間たちを皆殺しにしたうえで」
囮というのは生存確率が非常に低いなんて誰もが知っている。だが、生き残って再開するのはもう不可能だと告げられるのはつらいものだ。
もしかしたら――というわずかな希望にすがったところをへし折られるのだから。
「…戦いはデルヴィアとドラゴン、二体だけのものになった。彼らの攻撃の余波だけで我々の仲間や雑魚シャドウが傷ついていく。喜ばしいことに我々の技術の粋を集めたデルヴィアは強く、ドラゴンにも終始戦いを有利に進めていた」
強すぎたせいで止められなくなっているのだが。たしかにデルヴィアなら本物のドラゴンをも圧倒しそうだな。
「我々の技術の粋」ということは、最初の手帳の持ち主が「兄弟」と呼んだ同僚がこの記録を書いたと推測できる。
「…シャドウとデルヴィアが戦っている隙に我々は忌命の宝玉の停止を決行した。皆は身を削って道を切り開き、迫りくるシャドウどもから私を守ってくれた。そしてついに宝玉までたどり着いた私は、もちうる知識を持って宝玉の機能を完全に停止させたのだ」
「おお、やったか!」
「アスタ、なんかワクワクしながら物語を聞いている少年みたいだよ」
「ああ、途中で話が面白くなってきてな」
「まあ、分かるけど。…停止したことで、私に託された使命が終わった。これで私を庇って死んだ兄弟も浮かばれるだろう」
最初の手帳の奴、人を庇って死んだのか。クソ野郎とかいってすまん、かっこいい死に方じゃないか。
「…そうか」
アスタはアスタの方で何か感慨深そうにしている。ここはそっとしておいた方がいいだろう。
物語を読み終えた時の余韻は決して邪魔してよいものでは無い。
それにしても――
「あれがそんなにやばいものだったとは…」
改めて忌命の宝玉を見つめる。僕らはここに踏み込むべきでは無かったのかもしれない。あんなものは番人とともに永遠に地中深くに封印しておくべきだ。
――いや、そうでもないかもしれない。あんな危険な代物を早期に発見できたのだから。またいつ暴走しだすかも分からないし、何かしらの対処をすべきだろう。
そこまで考えて、何か気味の悪い違和感が自分を襲う。まだ何かを見落としているような…。
「あっ!」
自分の見落としたことに気付いて、忌命の宝玉を再び見つめる。そこには莫大な魔力を蓄えた危険な代物があった。
デルヴィアは自らを維持するために細々と魔力を使い続け、僕らと戦う前からもう残存魔力は枯喝寸前だった。だが大体同じ時期に稼働したはずのこの忌命の宝玉の蓄えている魔力はまだ莫大だ。
まるで少しも消費していないように――なにもおかしくない、この装置が止まっているのは一人の研究者とその仲間の決死隊のおかげなのだから。
僕が見落としていた事、感じていた違和感、そしてあの研究記録から読み取れること。
「…現在、忌命の森にモンスターがいない事と忌命の宝玉には何の関係も無い」
そう結論せざるを得ない。
「何!?」
僕の呟きが聞こえたからか、アスタがはねるように顔をこちらに向ける。
「メリル、今なんて?」
「森にモンスターがいない事と、この宝玉は何も関係が無いよ」
「…だってこれは」
アスタがすがるように僕に反論する。だが彼も言われてみれば頭では理解したのだろう、納得がいっていないだけだ。
それだけ彼はモンスターに脅かされる人々を救いたいのだろう。
「この装置は決死隊のおかげで止まっている。つまりただの置物だよ」
動いていたらいたらで「忌命の森」は「シャドウの森」に名前を変えるような事態が起きているはずだ。
少し合間が立ち、やっと飲み込めたのかアスタが顔を上げる。まあ、無理もない。アスタにとっては人生でこれ以上いないだろう強敵と戦い、力ない人々をモンスターの被害から守れる素晴らしい魔法道具が手に入ると思ったのに、結局何も成し得なかったのだから。
「…メリル、じゃああの宝玉は破壊したほうがいいのか?」
「やめておいたほうがいいと思うよ。攻撃に反応して暴走したらとんでもないことになるよ。この時代であれの構造を理解している人物はいないだろうしね」
この時代にあの研究者たちの様な技術力を持つ人物は存在しないはずだ。つまり止め方が分かる人物はいないという事だ。
それにもし破壊に成功してもどんなことが起きるか想像もつかない。残った魔力をすべて使って、とんでもない化け物シャドウを生み出すかもしれない。
そうなったら誰が止められるだろうか。
「ここの事は僕に任せてよ、コネでなんとかするさ」
「へぇ、お前にそんなすごいコネがあるのか?」
「そうでもないよ、僕よりちょっぴり上の立場の人にお願いして、その人がさらに上の人にお願いしてその更に…って方法」
まあ、嘘である。すぐにでもこの場所を封印できるように手配する予定だ。
「なんじゃそりゃ。気の長くなる話だな」
「まあまあ、ここはシュティーア領だし、あの大貴族なら大丈夫でしょ」
ここだけは本当だな、動くのはシュティーア家だ。
「それもそうだな。シュティーア家に繋がっている——そう考えるとお前のコネも大したもんだな!」
「…だろう?」
最後の返事は少しだけ口ごもってしまった。
「じゃあこれからどうする?」
「そうだね…これ以上僕らに調べられることは無さそうだし外に出ようか」
「それもそうか。まあ今は動いていないし、大丈夫か」
……なんかフラグっぽく聞こえる。
まあ長い間再び稼働することは無かったんだ、今更動き出すことも無いだろう。それにしてもこんな代物をここで発見できたのは僥倖だ。
もし他の貴族の領土なら、気づかれずにこれを回収しなくてはならなくなっただろう。ここなら他の貴族の介入など無いし、アスタさえ黙っていてくれたら話が漏れることも無い。
そしてアスタはこんな災いを呼びそうなものを、軽口で人に漏らすタイプでもない。こんなものが悪人の手にでも渡ったら碌な事にはならないだろう。
何も知らないやつが触ってもし動き出しても厄介だ。国を守る役目を持つ一家としてはこれらのことも考えなくてはならない。それにシュティーア家が知らない技術を他家に持たせるのも面白くないしな。
デルヴィアも忌命の宝玉も解析する価値は大いにある。とそこまで考えると後ろから不穏な音が漏れてくる。ブオン、ブオンと重々しい音が鳴り響くのを聞いて、僕は背筋が凍りついた。
「まさか、シャドウが!」
急いで背後を振り返ると――
――そこには唇を尖らせてブオン、ブオンと鳴らせるアスタがいた。
「…は?…何やっているの?」
「いや、なんか思い詰めた顔していたから緊張をほぐそうと…」
「余計緊張したよ!」
「そうか、それはすまんな」
アスタが軽そうに笑う。
「子供がそんな顔するもんじゃないぞ」
「…もう子供じゃないけど?」
この国では成人していると言われる年齢にもう近い。アスタの考える子供の年齢は<記憶>と同じ――平和な世界なものだろう。
「そうだな、うん」
そう軽く流されると色々言いたくなるのだが…。ここで声を上げても笑って流される未来しか見えない。
話を切り替えよう。
「子供と言えば、孤児院の子に良い土産話が出来たね」
「…ああ、そうだな。こんな強敵は初めてだ」
「ドラゴンよりも?」
「ドラゴンのほうが可愛いぞ」
だろうな。結局僕らはデルヴィアを傷つける事すら出来ていない。相手の息切れを待っただけだ。
「何も手に入らなかったのもあれだから国にお願いしてみようか?」
「国からなんか貰えるのか?」
「事前に災厄を食い止めたしね、たぶん貰えるよ」
「そう簡単に貰えるのか?」
「貴族はよくやっているよ。ああいう功績を残したとか、国のためにどう貢献したとかでね」
中にはやってもいない嘘や、騎士団の配置を左右入れ替えただけの案を提出し、功績を残したとか言い張るやつもいる。
そういうやつには褒賞どころか制裁が下りるのだが。今回は証拠もあるし、物が物だ。それに僕が申請すればほぼ間違いなく通るだろう。
何ならシュティーア家から褒賞を出すのも良い。
「貰えるもんなら貰いたいが、そういうのは後で考えようぜ。今日は疲れた」
「それもそうだね。ひとまず街に帰って休もうか」
まあ、今は置いておこう。大きな戦いを経た後、戦士には休息が必要なのだ。
アスタとともに来た道を戻り、地下道から出て行く。そしてようやく入り口付近まで戻ってきた。
「ほら、メリルが先に上がれ。俺は後から行くよ」
「分かった」
アスタの身体能力なら跳べば届くのだろうが…僕は流石に無理だ。闇魔法で足元を包み、押し上げる形で自分を浮かす。
まるでエスカレーターにでも乗っている気分だ。
「便利なもんだな、魔法って」
「アスタも使えるはずなんだけどね…」
なんであんなに下手なんだろう。
「それじゃあ、お先」
そういって地面までたどり着くのと見慣れた面々が僕を出迎えた。
「「「お待ちしておりました、メリル様!」」」
やっべ、完全に存在を忘れていた。
僕の護衛達である。




