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手帳ー昔の話ー

 

「こっちの手帳は違う人が書いたものらしいね」


 こちらの方が先のものより、字がきれいなように思えた。


 それに書体が整っていて幾分か読みやすい。


「…部下の二人がついに最高のロボットを開発した。おかげで私の評価もうなぎのぼりだ。給料と待遇アップは間違いない。あいつらも褒めてやらないよな」


「これはさっきの奴の上司ってところか」


「みたいだね。…部下たちはあのロボットにデルヴィアと名付けたらしい。しかし妙な偶然もあったものだ。まさか私の妻と同じ名前だとは。…まじかよ」


何回登場するんだデルヴィア。


 「まさかここでその名前が出るとは思わなかったぜ。ところでロボットってなんだ?」


 アスタがロボットが何なのか疑問に思っている。まあ、素直に説明してやる訳にはいかないな。

古代文明は滅びた今、「ロボット」が何なのか知っていたらおかしいし。


「まあ、大昔の事だし気にしないようにしよう。たぶんあのゴーレムの事だよ。…部下どもが給料と待遇を上げろと言ってきた。私が褒めてやっただけで満足しないとは欲張りな奴らだ」


 おっと、上司も相当なクソ野郎っぽいな。呼び方も部下たちから部下どもに変わっている。


 間違いなくブラックな職場だ。功績を挙げたのに、上がるのは上司の給料だけとか理不尽だ。


「…昨日は夜通しで飲み明かして帰ったら妻がいなかった。実家に行ったのだろうか?」


 たぶん貯金持って逃げたんだろうな…。何人もの男を誑かすなんて、デルヴィアは一体どんな人だったんだろう。


「なぁ、メリル…」


「ああ。この手帳もダメだろうな。これもただの愚痴日記だろう」


「じゃあ、次はこれだな」


「もう一冊見つけていたのか」


 しかも今度は大きくて分厚い、いかにも研究記録というものだった。


「始めからそっちだしなよ…」


「小さなことから片付ける性格でな。ほら」


アスタから記録を受け取り、広げる。


「…んん?」


「どうしたメリル?」


「…読めん」


「さっきまで読んでいたのと何が違うんだ?」


「専門用語みたいなものが多すぎて解読できない」


古代文字の勉強は知っているが、さすがにそこまでマニアックな分野の言葉は知らない。


「このレベルだと、学者に研究してもらうしか無いね」


「そこまで難しいのか」


「今の技術体系が異なる昔の記録だし、一から研究しなきゃならない可能性もあるね」


「なんだか難しい話になってきたな」


 冊子をパラパラめくり、図や絵を眺めるとこの冊子はあの機甲ゴーレムと忌命の宝玉についての記録だと分かる。


 写真がついてないのは、古代文明では写真は希少価値が高いからだろうか。<記憶>の世界でも写真を大量に印刷できるようになったのは、かなり後の事だ。


 文章を半分くらいしか理解できていないので、推測になるが忌命の宝玉はどうやらモンスターが嫌がる何かを発する装置らしい。


 僕が今眺めている絵は、不思議なオーラでオルトロスらしき二つの頭を持つモンスターを追い払っている場面だ。


この不思議なオーラが何なのか分かればいいのだが。




「お、アスタ。このページなら読めそうだよ」


 今開いているのは前の方の設計図や原理説明では無く、観察記録の様なページだ。


「おお、そうか。頼む」


「…忌命の宝玉には致命的な欠陥があった。…おいおい」


 これは暴走した技術で滅びましたってパターンか?


「…忌命の宝玉のおかげでモンスターが寄り付かなくなった代わりに、忌命の宝玉自身がモンスターを生み出すようになった」


「…モンスターを生み出すだと!?」


 アスタは驚愕した表情で叫ぶ。命そのものを生み出すのは魔法的にもほぼ不可能の事なのだ。


 それに生命をいじくりまわす様な実験は、現在どこの国でも禁止されている。そのような魔道具を所持するのも禁止だ。


 暴走したら危険というのもあるし、倫理的な問題もある。そういう部類の情報からは一般人は隔離されているのだ。


 一般市民はそんなものの研究は存在すら示唆されていない。だが、物事に裏があるように、国家には暗い部分もあるのだ。一般市民などではない僕はそういうものがあると知っている。


 延命やら肉体強化、人体改造は軍事や医療などの分野での使い道は考えだせばキリがない。そういう研究はどこの国でもやっている。


「…そのモンスターどもは瞬く間に周辺に広まり、人々を攻撃した。軍は必死に応戦したが、被害は食い止められなかった。避難が遅れた者から次々と襲われた」


「それは…」


 アスタが痛々しく拳を握る。弱気を守るが信条のアスタには聞くに堪えられない話だったのだろう。


「落ち着いてよアスタ、大昔の話なんだよ」


 だがこれは昔話だ。


「悪いな、つい…」


「…そのモンスターは魔石をもたず、倒すとまるで初めからいなかったかのように空気に溶けるのだ。これでは研究もなにもあったものでは無い。ただ分かったことはそのモンスターはすさまじい破壊衝動があることだけだった。影の様に黒い体をもつから我々はこいつをシャドウと名付けた」


「厄介なモンスターだな。凶暴なうえに増え続けるとか」


 忌命の宝玉が存在する限り、無限増殖する…ということか。


「この文章だけじゃどれくらい強いか分からないけど、対処が難しそうだよな。…我々はこれ以上の被害を出さないために決死隊を募り、忌命の宝玉を破壊することにした」


 妥当な判断だろう。無限に湧く厄介なモンスターを相手にするより、元凶を破壊したほうがいい。


「…だが忌命の宝玉付近に湧くシャドウどもの強さは尋常じゃなかった。ドラゴンの様な形をしたシャドウが特に強く、決死隊の半分を囮にする事で我々は前に進んだ」


「囮か…」


 アスタが感慨深そうにつぶやく。おそらくは囮となった人達のその後を想像しているのかもしれない。

決死隊の全員でかかっても倒せないとふんだからこその囮。


 死んでいった者達はどう思って死んだのだろう。仲間のため、人々のために死ねたから良しとしたのか。それとも最後の最後で後悔したのか。


 そんな事を考える暇も無く殺されたのか。今となっては分からない。しかしシャドウにも色々な種類がいたという事か。


「シャドウっていうモンスターは今でもいるのか?」


「そんなのがいるとは聞いたことは無いけど。…我々は多大の犠牲を払い、ついに忌命の宝玉のある広間にやってきた。そこで我々が見たのは剣で貫かれて今にも消えようとしているシャドウと、最強の番人デルヴィアだった」


「…どういうことだ?」


「たぶんデルヴィアもシャドウにとって破壊対象でしかないんじゃないの?」


 忌命の宝玉はともかく、デルヴィアはシャドウにとって自分たちの根源の近くにいる異物に過ぎないからな。


「なるほど、そうだな。そして返り討ちにあったと」


「…ここまでたどり着くまでに数多のシャドウをいたが、この空間では不気味なぐらいシャドウがいなかった。おそらくデルヴィアに恐れをなして逃げたのだろう。シャドウには殆ど知性を感じられなかったが、恐怖という感情は知っていたらしい」


たしかにあの機甲ゴーレムの性能は極めて高い。堅固な装甲にとんでもないパワーまで備えている。

凶暴なシャドウでも破壊するのは匙を投げたのだろう。


挑んだところで自分たちの死体が積みあがるだけ—いや、死体は消えるんだったな。


「…シャドウがいないこの空間で我々はすこしばかり休息がとった。落ち着いた心と冷えた思考によって我々は再び困った事に陥ったのを悟った。最強の番人デルヴィアがいる限り、忌命の宝玉を破壊できないということを」


「だろうな。ゴーレム相手じゃ囮を使っても宝玉の周辺から引き離せないだろうな」


 アスタはそういうが、僕は違う事を考える。ロボットなんだから緊急停止装置とか万が一の備えは無かったのか、と。


 命令に従わせる機能ぐらいは付けておくべきだっただろうに。強すぎるロボットを造ったばかりに、自分達の首を絞めることになっている。


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