悲鳴の先に
過去の作品を見返していたらダッシュ記号が「ーー」になっている致命的なミスを発見しました。(´Д⊂ヽ
書き手としてありえない……
だから今日は2回更新します。
悲鳴が聞こえた方角へ走っていくと、異様な建物がそこに建っていた。悲鳴はこの中から聞こえるようだ。
だが僕とアスタは突入せず足を止めた。様子がおかしいからである。
悲鳴というものは恐怖や驚愕の感情によって一時的に引き起こされるものだ。だが先ほどから途切れずに鳴り響き続けているこの悲鳴に違和感を感じる。
それにこんな所に堂々と建物が建っているも不可解だ。もっとモンスターに見つかりにくい所や街の目と鼻の先ならまだしも、ここではすぐにモンスターに襲われても人知れず滅び去ってしまう。
「アスタ、これは何の建物?」
「俺も知らん。昨日もここを通りかかったはずだが、こんなものはなかった」
街周辺のパトロールをやっているアスタが知らない建物が急に湧き出るとなると──
「ダンジョンか」
「ああ、そうだろうな」
〈記憶〉の中の小説でも幾度と出てきたダンジョン。
小説ごとに様々な設定があり、ただの金稼ぎの場だったり、戦闘訓練、果ては世界の秘密が隠されていたりとなんとも楽しげなものだ。
この世界のダンジョンも小説の中のダンジョンに負けず劣らず、冒険するには最適な存在である。まあ、昨日まで無かったという事はまだ出現して間もないダンジョンだと推測できる。
「まだ誰も発見していないダンジョンだ。潜ってみる?」
「お前なら大丈夫か。よし、行くぞ」
すでに発見されているなら冒険者ギルドに報告されているだろう。だがその情報がないとなると、おそらくここはまだ手を付けられていない。
誰も知らないダンジョンに潜る意義は僕とアスタでは違う。
意識の高いであろうアスタはここがどれほど危険なダンジョンかを測るために、そして僕は純粋な楽しみのために。
ダンジョンと思われる建物のドアに手をかける。
中から悲鳴が聞こえるのはなんとも気味悪いものだが、初めてのダンジョンだ。今までに無かった冒険する機会に恵まれて、僕の胸は心躍っていた。
心躍っていた…はずなのだが…。
「「グギャッッ」」
アスタの剛力によって振るわれる魔剣に切り裂かれ、体が両断されながら吹っ飛んでいくゴブリンを見て、僕は眉を顰める。
ゴブリンはDランクで、最も生息数が多いと言われているモンスターだ。
そこそこ知能が回り、集団になれば厄介になる可能性のあるやつらだが、ダンジョンの中では数匹ずつしか出てこず、かといってその知能が役に立つようなものはダンジョンには落ちていない。
つまりダンジョンにおいてのゴブリンは最弱格のモンスターなのだ。
<小説>の中には最強の化け物に進化したり、罠を張ることで主人公たちを思わぬピンチに陥れたりと活躍する場面も多かった。
しかし今、目の前で転がっているゴブリンは最もイメージしやすい最弱の魔物に相応しい醜態を晒している。
「こんなのしか出てこないのか…」
思っていた冒険と全然違う結果に眉を顰める。
「安全でいいじゃないか。これなら弱い冒険者が間違って踏み入っても死ぬことはない」
「冒険しているって感じしないなぁ」
「ここを初心者用のダンジョンとして宣伝すれば、街にもっと人が集まるかもしれんな」
アスタとしては大した危険が無くて安心しているようだ。
挙句の果てに街を発展させるために人を集める事まで考えている。それは一冒険者ではなく街長の仕事だと思うのだが。
出来たばかりのダンジョンに期待をしすぎたようだ。このダンジョンは残念なことに、特に冒険するような楽しさは見当たらない。
罠も無ければ、道はほぼ一本道で迷路のように迷うことも無い。強いて厄介な事と言えば奥に進むほど、入り口から聞こえていた悲鳴の声が大きくなっていることだけだ。
「流石にうるさいな」
「ああ」
その喧しさは「何が」うるさいとも言わずに伝わる程だ。
悲鳴など聞いていて気持ちのいいものでは無く、横にいるアスタも人の悲鳴ではないと分かるや興味を無くしていた。
道なりに進んでいくと少し広い部屋に入る。
大体こういう部屋は中ボス戦とかにありがちなものだが、そんな感じの中ボスと思わしきゴブリン集団がこちらを待ち構えていた。
ボロボロな鎧を装備し一団を率いるゴブリンが目につく。
「あれはゴブリンウォリアー…だっけ?」
「そうだな」
指を鎧のゴブリンに向け、アスタに尋ねるとやる気の無さそうな返事が返ってきた。
ゴブリンウォリアーとは軽鎧を装備したゴブリンの事である。
まあ名前の通り「戦士」っぽいからこの名前を付けられているわけだが、身体能力や知能などは普通のゴブリンと変わらず、定められているランクも同じだったはずだ。
一般認識では少し硬いゴブリン、というくらいである。
「やるしかないか」
流石にこの数のゴブリンをアスタに丸投げしようとしても何匹かは確実に向かってくるので、仕方なく腰の剣を引き抜く。
それが戦闘開始の合図となり、ゴブリン達が一斉に向かってきた。
自分の半分ほどしか高さのない目の前のゴブリンを蹴飛ばし、右から駆けてくる個体の頭を斬り飛ばす。
「ここってボスもゴブリンじゃないだろうな…」
「その可能性が高いぞ」
「だよね…」
盛り上がりのない会話をしながらも二人でゴブリン達を駆逐していく。
ゴブリン達も残り半数もいなくなると、アスタが急にこんな事を言ってきた。
「さっきからこの鳴り響いている悲鳴は少し気になるな」
「ただうるさいだけじゃないか。耳でも痛くなった?」
集中力を乱す精神攻撃…とも言えなくはないが、こんなのは大して妨害にもならない。
それとも獣人のアスタには苦痛を与えるものだろうか?しかし牛の獣人は聴力が特別優れているという事は無かったはずだが。
「普通、ダンジョンでは最奥にいるボスがどんなやつなのか大体分かるようになっている。例えばオルトロスが湧くダンジョンのボスは大抵ケルベロスだ」
「そうだろうね」
正しい知識として教わったことは無いが、まあそうだろうという想像はできる。
冒険者間にとっては一般常識なんだろうか?そういう冒険者にとっての当たり前の知識はあんまり知らないので今度勉強するか。
「それでその話だとボスはゴブリン系になるって事?」
アスタのはこのずっと響いている「悲鳴」がボスの正体を暴くヒントだと言っているのだろう。
しかし自分の頭の中のモンスター辞典をめくるが、悲鳴と関係のあるゴブリンなど思い付かなかった。それとも僕が知らないだけでそんなゴブリンがいるのだろうか。
いつの間にかゴブリン達は全て死体と変わり、この空間に静寂が訪れる。
そこでアスタが口を開いた。
「ボスはおそらくはゴブリンではないだろう」
「なんで?」
「勘だ」
「おい」
「…冗談だ」
こんな冗談言う性格だっけ?もっとこう…頑固とか職人気質の様な静かな雰囲気の人物だと思っていたのだが。
「なんでゴブリンじゃないの?」
「ダンジョンにも性格があるんだ。道中の敵が弱いのにボスがやたら強かったり、嫌らしい罠に厄介な敵が多いのにボスが弱かったりと様々だ」
なんともアンバランスな。
ダンジョンの性格か、これは初めて聞いたな。冒険をしたいと考えていた割に自分は思ったより無知らしい。真面目に勉強しないと、などと思いながらアスタに問いかける。
「それでこのダンジョンは道中雑魚ばっかりでボスは強いって事?」
「ああ、俺はそう思う」
「どうやって判断したんだ」
道中も弱ければボスも弱い、なんて可能性もあるだろう。特にボスが強いと判断できるような材料も無かったはずだが…。
「勘だ」
「…冗談だよな?」
「いや、今度は本気だ」
冒険者の勘…とでも言いたいのだろうか。そんなものがあれば本当にいいのだが。
中ボス戦を終えたことで部屋の真ん中にくすんだ色の宝箱が出現する。ダンジョンでは宝箱を入手する方法が様々ある。
たとえば道中で発見したり、今の様に中ボスや最奥のボスを討伐することで入手できるのだ。
宝箱から入手できるものは様々であり、金貨などの金銭類から魔道具、武器類など多岐にわたる。
高難易度のダンジョンではなんと魔剣などの超希少品が出ることもあり、この宝箱が目的で冒険者たちはダンジョンに潜ると言っても過言ではない。
その魅惑さは誰が宝箱を開ける事や、中身は誰のものになるか等パーティー間の争いの種にもなる。
まあ倒した相手が相手だけに今目の前にある宝箱に限ってはそんな事は無いだろうが。
「宝箱を開けてみるか?」
「アスタが開けていいよ」
どうせ大したものは入っていないだろう。どうせなら初めて開ける宝箱はもっといいものは入っていそうなやつがいい。
「おお、悪いな」
開ける権利を譲られたアスタはどこか嬉しそうだ。やはりアスタも冒険者らしく宝箱を開ける瞬間が好きなのだろうか。でもゴブリンから出るものだぞ。
「それじゃあ開けるぞ」
宝箱は鍵もかかっておらず、簡単に開いた。
それを見て僕は思う。鍵もなく装飾もされておらず、ただみすぼらしいだけの宝箱はただの「箱」じゃね?、と。
「中身何だった?」
まあ一応気にならなくはないので、アスタに尋ねる。
「銅貨が数枚とゴブリンナイトの鎧、あとはゴムのボールか…?これは」
ゴムのボール?
宝箱から出るものは本当に多岐にわたる。用途不明な意味の分からない物も普通に出てくるのだ。小説のダンジョンではそんな事は無かったのに、現実は厳しいようだ。
「これってハズレなのか?」
ゴブリンナイトの鎧など人が着れるサイズではないし、ゴムのボールなんて何に使えばいいか思い付かない。
「何を言っているんだメリル。金が入っているだけで大当たりだぞ!」
どうやら当たりだったらしい。僕の金銭感覚が狂っていると言わんばかりに驚かれたが心外である。
「銅貨数枚ぐらいアスタは余裕で稼げるだろ?」
「街の孤児院に寄付したいからな。金はいくらあっても困らん」
なんとアスタは孤児院に寄付までしているようだ。
街のパトロールに孤児院に寄付、防衛の最大戦力とアスタは聖人と称えられてもおかしくない働きをしている。
「それで…」
「僕は何もいらないからさっさと次行こうか」
「悪いな」
曲がりなりにも二人で攻略しているので、僕にも所有する権利が生まれるわけだが、ゴムのボールやゴブリンナイトの鎧など貰ってもうれしくない。
それに銅貨だってこれから寄付に使いたいといっている人から半分持っていくほど金に困っているわけではない。
「それに下々のものを助けるのは貴族の役割…って言われて育ったからね」
今や顔を覚えていない貴族学の講師が口を酸っぱくして言っていた言葉を思い出いだす。
「良い先生だな」
「……どうだかね」
そういえばその講師は無理やりうちのメイドに手を出そうとしてクビにされて消えたんだっけ…。
……どこにでも性格が悪い奴は湧くのだな。
今日の作者
(。´・ω・)……ん?なんかおかしいな?
(;´・ω・)…おいおいダッシュ記号が伸ばし棒になっとるやんけ!?
∵;.(Д゜(……作者は999のメンタルダメージを受けた!
大変申し訳ありませんでした。以後気を付けます。




