冒険者アスタ
前回のあらすじ
(´・ω・)(・ω・`)全くメリル様には困ったものだ……
-扉扉ー
(#^ω^)ん?
珍しく自分から早起きした僕は顔を洗い、準備を整えていく。
今日は牛の獣人の冒険者、アスタに会う予定だ。
貴族や商人の子息が冒険者と話すために依頼を出すのは珍しくない事だ。冒険者からすると危険を冒さずに報酬が手に入るため、うまい依頼ともいえる。
今回は貴族という事なので、話すだけにしてはかなりの報酬を用意したのだから、色々話を聞かせてくれるだろう。
「おや、もう起きられましたか」
「うん、なんか目が覚めちゃってね」
「珍しいこともあるものですね。朝食の準備はすぐに済ませますね」
「ああ、頼むよ」
カレルが用意してくれた朝食を済ませ、早速冒険者ギルドに向かう。少し早く起きすぎたようだ。予定していた時間よりも早いので、ギルドマスターの所にお邪魔するとしよう。
まだ朝は早いのに依頼を受けるために冒険者は集まっていた。もう顔見知りの受付のお兄さんも、冒険者たちを必死に捌いている。
時間が時間だけに、一応はアポを取ってからにしようと思ったのだが、これでは無理だな。
誰に声をかけるわけでもなく、ギルドの2階への階段に向かう。そういえば冒険者と話すのに口調はどうしようか。
今回は低位貴族がお金を奮発して、Aランク冒険者に話を聞くという体を取っている。つまり僕のいつもの口調――カレルによると尊大な口調らしい…は使えないのだ。
まあ、こちらは依頼している立場なので怒られないだろうが、子供がそんな偉そうな口調で話して来たら誰だって内心良い顔はしないだろう。
なのでキャラづくりをする事にする。そう、親しみやすいやつがいいな。ついつい色々話してしまうような。
<記憶>の小説そういうキャラがいないかを探すとしよう。
お、これはどうだろうか。
ある小説の主人公の弟分だったキャラだ。
主人公をアニキと呼び親しんでいて、旅の仲間たちにも信頼されているやつで、最後には主人公の婚約者を守って死んでしまうというキャラだ。
<記憶>によるとかなりキャラ人気が高かったそうだ。憧れの主人公に追いつくために影で努力を続け、旅の途中はパーティーの潤滑油として雰囲気を作り、最後は漢らしく死んでいった生き様がカッコいいのらしい。
正直、努力の果ての感動や何かを守り抜く事については共感できない。
陰で努力したことも、何かを守り抜いたことが無いからな。潤滑油の様な存在にはなれる気がしないし、このキャラの様に演じるのは無理だな。
しかし、それっぽくする事はできる。人懐っこい所とかを真似すればいい。
こいつは人気がある。意識して真似しておけば、悪い反応はされないだろう。
おっと、ギルドマスターの部屋の前についたようだ。
さあ、ギルドマスターはいるかな?部屋をノックするとすぐに返事が返ってきた。
「入っていいぞ」
「やあ」
昨日と同じ様に明るく入室すると、すぐさまギルドマスターは机の引き出しから僕が渡した胃薬を取り出す。そしてそれを勢いよく飲みこんでからこちらに向き直り、挨拶する。
「これはこれは、メリル様。」
少し…いや大分失礼だ。
人の顔を見て胃薬を飲み始めるとか、不敬罪を適応させてやろうか。もしかして当てつけにわざと飲んだのかもしれ…いや、そこまでの度胸は無いか。
ギルドマスターは職員に淹れさせた紅茶を啜りながら、会話をする。
「それで、アスタは指名依頼を請け負ってくれたかい?」
「ええ、最初は渋っていましたが、なんとか取り付けました」
「渋る?話をするだけで報酬金がもらえるのに?」
「彼はお金持ちの子息に話をするよりも、人々の害となるモンスターの討伐を優先したいと言っていましたよ」
それはまたご立派な主義だな。
基本的に人間はある程度は欲が深いと僕は思っている。それは種族や職業に関わらず、だ。少なくとも僕が接してきた人々は欲望を持っていた。
本当に変わっている人なのか、渋った理由は他にあるのか。
貴族と話すのが嫌なのだろうか?でもそれならギルドマスターはそう言うだろうし、その場合は日を改めて商人として接触するつもりだった。
子供と話すのが嫌?でも14歳ともなれば、多少とも分別のついた会話はできると思うが。
……分からないな。まあ、引き受けてはくれたようだし気にしないでおこう。
時計を一瞥するとまだ時間はあるようだった。もう少しギルドマスターをいじって遊ぶかと思っていると、扉がノックされる。
「おや、今度は誰でしょうな」
「また街長のドラウプダじゃないか?」
「彼は二度とアポとらずに部屋には入ってこない様にするそうですよ」
僕のせいかな?
…僕のせいだな。
ギルドマスターが入室の許可を求めてきたので、頷いておく。
「入っていいぞ」
「俺だギルドマスター」
そう言って入ってきたのは牛の獣人、アスタだった。
「で、こいつはギルドマスターの息子か?」
「いえ、違いますよ。この方は指名依頼者の方ですよ」
「という事は、貴族の坊ちゃんか」
「こんにちは、アスタさん!」
「おお、元気がいいな。それでなんでわざわざ俺を指名して、あんなに高い金払ったんだ?」
僕にとっては端金ですと言いたいのを堪えて、答えを返す。
「先日の戦闘ですごい活躍をされたと知り合いの冒険者に聞きまして、それで話を聞きたいと思ったんですよ!」
おっと、ギルドマスターがすごい顔をしているな。僕の人懐っこい演技に対してだろうか?
キャラ崩壊しているもんな。それとも戦闘を直接見ていたのに、白々しく他の人に聞いたと言っていることに対してだろうか?
自分で自分が親でもない他人に敬語を使っている所に違和感を感じているが、ちょっとだけ面白い。
「それではアスタさん、ギルドの一室を借りたので、そこで話を…」
「いや、部屋はいい。名前はなんていうんだ?」
「僕はメリルですよ」
「メリル、お前はかなり動けるだろう?」
「まあ、親が武闘派の貴族なので」
これは嘘ではない。騎士団長は間違いなく武闘派に分類されるだろう。
「そこで今日は外に行こう。街の外の見回りをしながら、話をしてやる」
その言葉にギルドマスターが慌てる。
「ちょっと何を言っているのですか!依頼者と見回りだなんて許可しませんよ!」
しかし、僕としては賛成だ。やっぱ直に見たいと思う。 アスタと言う冒険者も、雷の魔剣カラドボルグも。
「わかりました、アスタさんがそう言うのだったら」
ギルドマスターに視線で釘を刺し、そうアスタに告げる。
「お、それじゃあ決まりだな」
「ええ、よろしくお願いしますね」
「ちゃんと守ってやるから安心しろよ!」
「はい!」
ギルドマスターが胃を痛そうにおさえているな。優しい僕はまた今度、胃薬を差し入れてやることにした。
アスタとともに街の外に出る。今日の天気は快晴なようで、日差しが眩しかった。
「まずは街のどの方向にいくのですか?」
「それよりも本当に大丈夫か?血を見ることになるぞ」
「大丈夫ですよ、こう見えてDランクモンスターを討伐したことありますし」
本当はBランクのマンティコアがだって倒せるが、そんな事を言ったら不自然なのでこれくらいにしておこう。
「なら大丈夫そうだな。じゃあまずは北の方に行こうか」
「はい」
北と言えば、前にケロルベスやオルトロスが出現した場所だ。大規模な戦闘が起きて、血が流れたのだからモンスターが集まっているのかもしれない。
「えっと、アスタさんはどうやってケロルベスを倒したの?」
「この雷の魔剣で真っ二つにして倒したのさ」
「魔剣!それはすごいですね。どこで手に入れたの?」
「これは昔、人に貰ったんだよ」
魔剣を渡すとか酔狂な人だな。
「たしか、カラドボルグという名だったっけ?」
「…ああ、そうだな。」
アスタが目を細める。日差しが眩しかったのだろうか。
「そういえばアスタさんはソロの冒険者だよね?」
「ああ、ソロだな」
「なんでソロなの?」
パーティーを組まず冒険者をやるのはすごく不便だ。
道中の炊事や探索、戦闘中でもフォローしてくれる仲間がいないのはつらいものだ。
そもそもモンスターを相手に一人で戦うというのは無謀だ。普通は真正面からは敵わないし、物理的なパワーが無くても、魔法や状態異常攻撃ができるモンスターは数多くいる。
それに人と同じ様にモンスターだって群れる。なのにあえてソロを選択するのは謎だった。
「一人でどこまでやれるか…ではないな、うん。そこは秘密でいいか?」
「そういうことならば」
……言いたくないのならば深く尋ねるのはご法度だな。
先日、冒険者とケロルベスたちが戦った場所まで行く。
道中は数々の僕の知らないことを聞けて、有意義な時間を過ごせた。
冒険者の知恵、という奴だろうか。ここまで聞いたら、外で遭難しても一人である程度は生き残れるかもしれない。
アスタはAランク冒険者だけあって様々な経験をしていて、興味深い話は数多く聞けた。。
獣人の国ボーガンズに生まれてからこの国まで一人でやってきて根付いた一人の冒険者の歴史は、長話の苦手な獣人らしく簡単にまとめられていた。
しかし、要点を押さえながらも、おもしろく話してくれたのでとても聞きやすかった。アスタは意外と子供好きかもしれない。
「ここなら誰もいないぞ」
「…?うん、そうですね」
確かにアスタの言う通り、この辺りには誰もいない。人やモンスターの影も見えず、この周辺には僕たちしかいないようだ。しかし、だから何だというのだろうか。
「その演技はもうやめていいんじゃないか?」
……バレていた様だ。
しかし、僕には落ち度がないはずだ。演技は完璧だったはずである。ハッタリかもしれないので演技を続ける。
「何の話ですか?これが普通ですよ」
「いいや、お前は一つミスをしたのさ」
「ミス?」
しただろうか?
「お前はこの魔剣の名前を知っていた事だ。この魔剣について知っているのは獣人の国にいる知り合いと、ここのギルドマスター、そして俺しかいない」
「そのギルドマスターに聞いたのですよ」
「あのギルドマスターは冒険者個人の話を他人にはしないさ」
そうだろうか?わりとペラペラ喋っていたような気がするが。
「だが、お前には話した。つまりお前のバックは低位貴族程度ではなく、ギルドマスターが絶対に逆らえない程高位な存在って事だ」
「……」
「お前がどれほどの人間か知らないが、間違いなく冒険者に敬語使うような地位じゃないだろ?何の目的があって俺を訪ねたんだ?」
「…まあ、当たりだよ」
「そもそも俺のこの話を持ってきたときに、あの何としてでも引き受けてくれと言わんばかりのギルドマスターの態度で分かっていたけどな。」
…流石によく見ているな。
ソロの冒険者だと、依頼のうさん臭さも一人で見抜かなくてはいけないので、色々な面に注意を払っているのだろう。
「そんでお前の親はどの位なんだ?言いたくないのならば言わなくてもいいぞ。」
「まあ、騎士団に顔を利くぐらいだよ。」
それぐらいに誤魔化しておく。
獣人は勘が鋭いらしいし、もう演技は重ねないほうがいいな。もうバレているのにまだ続けるとい余計な勘繰りをされそうだ。
「騎士団に顔が利く…というと結構上の方だな。それでなんでわざわざこんな真似を?」
これは正直に言っていいのだろうか。
「……演技の練習。貴族はよく使うからね。」
「今度は本当みたいだな。見抜いてしまっては練習にならないだろう。悪かったな。」
「いや、見抜かれる方が悪いからね。」
もちろん言葉には気を付けていたが、まさかそんな所でバレるとは思わなかった。
ギルドマスターがアスタに依頼を持ちかけた時にはバレていた様だが。
しかし、ギルドマスターを責めるのも酷だろう。権力とは本当に恐ろしいものだな。
メリルの性格は良くないというか普通に悪い……
良い人っぽい行為を見るだけで偽善だなとか内心で吐露するタイプです。でも物語を通して成長し、だんだんまともになっていく(予定)なのでこれからも応援よろしくお願いします!




