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魔法属性

 朝は重要な時間である。休息の時間である夜の次にやってくる一日の始まり、朝。休息を終え、体が起きる準備ができてこそ気持ちのいい朝を迎えることができるのだ。


 貴族だろうが、平民だろうが、ひいてはモンスターであろうが平等に気持ちのいい朝の目覚めを享受する権利があると僕は信じている。何より僕は大貴族である、朝起きる時間ぐらいは自由にする権利くらいはあってしかるべきだろう。


「だからカレル、あと5分だけ寝かせて」


 そう呟いた瞬間、無言で布団をはぎ取られ、ベッドから引きずり降ろされる。


 意地でも寝ようとそのまま床で寝たふりを始めたらくすぐりが襲ってきた。

 これにはたまらず目が覚めてしまう。


「無防備の相手に卑怯じゃない?」


「メリル様、朝食ができました。皆様は食堂でお待ちしております」


 僕の文句にも笑顔で無視し、着替えの準備をしていくメイドのカレル。


 このカレルは僕の専属となった2日目に、当主たる父に朝起こすときにどんな手段を使っても構わないと許可をとりに行った人物だ。カレルもひどいが二つの返事で許可を出した父もひどいと思う。


 このメイドは僕の世話だけでなく、作法や数学など一部の授業の家庭教師もこなす優秀なメイドだが、表情が笑顔で固定されているのが少々不気味だ。


 笑顔の美人というと聞こえがいいが、見慣れてくるとこの張り付いた笑みは怖いと感じる時さえある。


 カレルがこれ以上なにかする前に着替えを済ませ、階段を下りていく。我が家は大貴族だけあって豪華だが無駄に広い。階段が一段一段装飾されているし、床も壁も美術品などで飾っている。


 一週間ほどで飾るものが変わってくるために飽きはしないが、こういう労力のかけ方はいつもながらエグイと思う。


 カレルと一緒に食堂に入り、華麗に家族に挨拶をする。


「おはようございます、父上、母上。少々遅れ…


「遅いぞメリル、今日も寝坊か?」


 そう言って僕の華麗な挨拶をさえぎって呆れた目で見てくるのは父上である。王国でも誇りある役職である統括騎士団長という肩書を持つシュティーア家の当主、バデルタ・シュティーアだ。


 もちろん機甲を顕現させることができ、その強さは王国に轟いている…らしい。息子に聞かせる父親の自慢は5割誇張だと<記憶>が言っていたので、話半分位しか信用していない。ただこの統括騎士団長という肩書はいざとなれば国中全ての戦力に命令できるほど強いものなので、実力は本物かもしれないが。


「まあまあ、あなたも騎士団長になる前は似たようなものではありませんの」


 そう父に持ち出したのは母親だ。常に優しそうな笑顔がはがれないこの母、レイラ・シュティーアはどこかカレルを彷彿させる。いつもニコニコしているがお腹の中は真っ黒だと俺は考えている。


 理由は以前、とある執事が同僚にレイラ様はシュティーア家の「闇」を統括していると話していたのが聞こえたからである。ちなみにその執事は別に消されていないが、最近外出の許可がおりなくなったらしい。


 闇だがなんだが知らないが、そんなものに関わっている以上、天真爛漫な優しそうな見た目通りの中身ではないだろう。


「遅れました、父上、母上、兄上」


 そう言って登場するのはイケメンな弟、シオン。遅刻魔が二人もいることで父の怒りも分散するだろう。怒りじゃなくて呆れかもしれないが。




 しかし、だ。そもそも


「訓練がきついのがいけないと思います、父上」


「メリルよ、シュティーア家に相応しい人物になるためにこれくらいで音を上げてはならん」


「……世界を冒険する時のためですよね、分かっていますよ」


 分かっていますよとは言ったが、じつはあんまり納得していない。父が騎士団にやる訓練とほぼ同じだと最近知ったからだ。


 いくらスパルタ気味なシュティーア家の家訓でも子供に大人であり仕事でやっている騎士と同等までやれとはいってないはずだ。


 その後少し雑談をしながら煌びやかに装飾されたテーブルの上の食事をとる。パンを食べ、スープを流し込む。食事に集中しだして雑談がとぎれとぎれになっていく。そしてみんなの食事の手が終わりかけの頃に母はそのよく聞こえる声で


「今日は二人が魔法を始める日です」


 といった。




 魔法とは魔力を用いて炎や水を出すことを指す技術である。大体「火」、「水」、「土」、「風」の4つの属性と回復魔法をあわせた5属性が一般的で、どんな人でも何かしらの属性を一つはもっている。そしてもっている属性以外は使えないという研究結果が出ている。


 大体と言ったが、その通り5属性以外にももちろん魔法は存在する。おとぎ話の勇者は光魔法と雷魔法が使えたらしい。うちの国にも氷魔法が使える人物が何人かいるし、魔人族のヴァンパイアは影魔法が使えると聞く。


 魔法は人族の生活に欠かせないものだ。分かりやすい事例をあげれば冒険者たちが冒険をするときには魔法を使う。戦闘はもちろん旅のあれこれにも魔法は欠かせないだろう。


 その他にも建築や畜産業まで魔法は幅広く使われている。なんで「記憶」のなかの人たちは進化の果てに魔法を習得しなかったのが不思議なくらいだ。


 個人的には雷魔法などが強そうだと思う。汎用性は無いが、一撃の威力と派手さは他の属性の追従を許さないほどロマンにあふれている。なによりも雷魔法は魔法の速度自体が速く、実戦的でもある。もし選べるのならば雷魔法の属性が欲しいものだ。






 執事が「魔力通し」という魔道具をもってきた。これは自分の体内にある魔袋という内臓から魔力を生み出して魔力をとおせば色が変わるのだ。そういえば「記憶」の中の人間は魔袋がないから魔法が使えなかったのかもしれない。あれだけ想像力豊かで発展しているのにどうにかできなかったのだろうか。


 話を戻すとこの優秀な魔道具はこの性質のために魔力の属性を測るために使われるのだ。こんなに優秀なのにお値段はちょっとお高めなだけという平民の財布にも優しい仕様である。一回使えばもう使えなくなるのがネックだが。


 冒険者ギルドとかに行けば普通に置いてあるのではないだろうか。まあ度々使うようなものでは無いのであまり生産されてはいない。




 魔力を注がれた目の前の魔力通しには赤と青が入り混じった色をしている。これは「火」と「水」の二つの属性を持つ証であり、珍しい2属性持ちという証明だ。流石は王国の柱たる優秀な血筋、シュティーア家の男児だけはある。



 ……ああ、流石だよシオン君。



 イケメンでかわいい弟の先にやりたいという願いを断れず、順番を譲ってしまった結果がこれだ。2属性もちだということで母や周りの執事、メイドに祝福されてはにかんだ笑顔を浮かべているシオン。



 和やかで平和な一場面だが僕の心は穏やかではなかった。なぜならこの結果の後に自分がやるからである。


 普遍的な属性が一つしかなかったら兄の面目が砕け散るし、まわりの家令達もとう反応すればよいかわからず微妙な雰囲気になるだろう。さすがのカレルも笑顔の仮面をとって慰めてくれるはずだ。


 母だけはどんな顔がするが推測できないが。


「ほら、次は兄上ですよ!」


 そういって魔力通しまでの道を開けてくれるシオン。可愛い弟のはにかんだ笑みと期待が入り混じった純粋な視線が僕に刺さる。彼にきっと悪意はないのだろうは、しかし僕にはただの鬼畜に見えた。




 魔袋から捻り出すイメージで魔力を取り出す。


 そして取り出した魔力を魔力通しに流し込んだ。


 すると魔力通しがみるみると黒一色に染まっていく。


 どうやら僕の適性は闇魔法のみの様だ。<記憶>の中では「闇」とか中二病認定まっしぐらものだが、

 この世界において闇魔法は使い手が少ないだけでいないことはない。ヴァンパイアたちの影魔法も闇魔法から派生していったものだと聞く。


 とりあえず珍しい闇魔法の適性があると分かったことで、兄の面目と家令達が微妙な雰囲気になる悲劇、カレルと母の笑顔が守られたのであった。




 しかし、闇属性か。汎用性は高そうではあるな。


 この世界の魔法といえば、せいぜい球状にして飛ばすか、槍状にして飛ばすかとかそんな単純なものばかりだ。


 闇魔法なら<記憶>の知識を使って色々出来そうだな。そう考えると当たりといえなくもない気がする。早速どんな魔法をつくるか考えてみるか。


 ……なるべく黒歴史まっしぐらの中二病の様な魔法にならないように注意しながらな。


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