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048 お嬢様の股間事情(後書きに小話絵)

「いいから、股のところ見せてくれる?」

「馬鹿なこと言わないで!」


 シルスの直球に、クラリスは顔を赤くしていきり立った。

 まあ、もっともな反応だろう。


「やっぱりあなたは頭がおかしいわ!」

「……じゃあ治療は良いの? これから先長いのよ?」


 クラリスは言葉を失い震えるばかり。

 シルスは小さく溜息をついて言う。


「そんなに恥ずかしがること無いでしょう。ここには、大人の人は女性のハンナさんしかいないわ」


 そういう問題なのだろうか?


 とにかく、男連中は離れた方が良いだろう。

 アコルも連れて行くことにする。


「シルス。俺とアコルは馬達の餌やりに行ってくるよ」

「まって」


 え?


「ダメよ、ユージアはいないと。私だけじゃ治癒術できないもの」


 ……そうだった。


 どうしたものか。

 とりあえず、行く末を見守るしかない。


 俺と視線のあったクラリスは、鋭い目を更に鋭くして睨み付けてくる。

 そんな目で見られても。


「はは……」


 愛想笑いを返すことしか出来ない。

 クラリスの顔がますますキツくなる。


「へらへらするなゲスが!」


 しまった、印象悪いか。

 相棒へ視線で助けを求める。

 シルスはすんすんと鼻を鳴らした。


「痛いままじゃ困るでしょ? 血の匂いもするし」


 クラリスがたじろぐ。


「嗅ぐないやらしい!」


 シルスにデリカシーを求めるのは無理だ。


「……クラリスの辛さも匂いで分かるのよ。治した方が良いわ」


 クラリスは俺とシルスを交互に見る。

 そして、ハンナさんへ救いを求めるような視線を向けた。


「ハンナ、やっぱりあなたに治療を――」

「駄目ですお嬢様。私は直接、手を貸すことはできません。試験を棄権するというなら、その限りではありませんが……」


 ハンナさんは流れる所作で組んでいた腕を下ろして、頭を下げ答えた。


 この人も神殿戦士をしてたから治癒術使えるんだな。

 確かにお守りには最適だ。


 クラリスが再度、俺へ視線を向ける。

 今度は真剣な顔を返すと、クラリスの顔の赤さが増した。


「何やる気になってるのよ! 冗談じゃないわ! 絶対に嫌!」


 そう、これだよ。


 これが普通の反応だ。

 うちの相棒に、その羞恥心を分けてやって欲しい。


 シルスが少し怒ったように腕を組んでクラリスへ言う。


「もう、そんな女の子みたいなこと言って!」


 いや。女の子だろう。

 ともかく、このままじゃ埒が明かない。


 話の流れから、クラリスが乗馬中に股へ擦過傷を作ったと言う事は察せた。

 その程度なら、ごくごく短い時間で治癒できるだろう。


 それにだ。


「お嬢様、俺がシルスを手伝うと言っても、少し魔素を流すのを補助するくらいなんです。だから、直接触れる必要も無ければ見る必要もないんですよ」

「寄るな、不埒者が!」


 うーん、ダメだ。


 敵を見る様なクラリスの視線から目を逸らすと、ハンナさんと目が合った。

 ハンナさんは、微かに口の端を上げて頷いた。


 ……この人、楽しんでやがる。


 そんな監督官とは裏腹に、シルスとクラリスはヒートアップするばかりだ。


「クラリス、いい加減にして! 今は演習行動中なのよ!?」

「うるさい! あなたみたいな恥を捨てて生まれてきた猿女と一緒にしないで!」


 全員まとめて減点されるのは構わないが、旅程に支障が出るのは困る。


「お嬢様! そうです、俺達なんてそこらの家畜と一緒です! 獣連中に肌をさらして恥ずかしがる奴がいますか? いないでしょう? だから何も気にする必要なんてないんですよ」


 俺の言葉に、シルスが困惑の視線を向けて来た。


「ユージア。いくら弱いからって、そこまで卑屈になるのは良くないわ!」


 話がこんがらがるな……。

 とにかくシルスは無視して話を続ける。


「そう言う訳ですから、早いところ治療して食事にしましょう。まだ試験一日目ですよ? 中級昇格できなくて良いんですか?」


 中級、と言う言葉でクラリスの表情に冷静さが戻ってきた。


「……わかっている、だからって――」

「絶対に、見ません」


 なんとか了解を取り付け、治療を行うことができそうだ。


 そもそもシルスが傷を確認した後は、服の上からでも治療可能だった。


 なら初めからそう説明してくれればよいものを。

 そのうえ治療途中、何がおかしいのかシルスはくすくすと笑っている。


 ……もしかして意図的だったとかないよな?


 治療自体は、ほんの数分で完了だ。


「……ありがとう。感謝するわ」


 クラリスは少しだけ赤くなりながら、俺達へ礼を言ってくれた。


 その表情は実に可憐。


 入信を考えてしまうほどに可愛らしい。

 こういう時の顔は本当に良い子に見える。みえるだけだが。

 これは儚げな少女の皮をかぶった暴君だ。


 その後はシルスが乗馬時の注意点をいくつか伝え、アコルが鞍の調整をするということで話がついた。


 そして、夕食準備の開始だ。


 食材を検分するシルスに、先程のことを聞いてみる。


「シルス。なんで治療中に笑ってたんだ?」

「……だって、本当にクラリスが普通の女の子みたいなんだもの」


 いやいやいや。

 君も同じ女の子なんだからね?


 俺の顔を見て、シルスは楽しそうに笑う。


「ふふ、良かったね、ユージア」

「……何がだ?」

「クラリスには、男の子って見られてたみたいじゃない」


 んん!? ……これってアレか。


「つまり、シルスは俺のことを男の子として見てないと?」


 シルスは「ふふふ!」と笑って肩を押してきた。


 はぐらかされたようだが間違いない。


 なんだか色々難しく考えていたが、結局俺が子供だと言うことなんだろう。

 見た目も実力も分相応なのだから仕方がない。


「はは……悲しいな」


 自嘲気味に笑っていると、アコルと目が合った、気がする。

 この子は相変わらず帽子を目深にかぶっているのだ。


 そういえば、アコルは俺よりもひょろいよな。

 年齢も下なのだろうと思うが。


 声を掛けようとしたら、馬の方に逃げていってしまう。

 そのまま手綱を外し始めた。馬たちの餌やりに行くようだ。


 アコルの後姿を見送っていると、シルスから声が掛かる。


「ユージア。お水組んできてくれるかしら」

「あいよ」


 クラリス班の水桶もついでに持って川へ移動する。

 1、2分くらいの距離だ。


 汲みやすそうな場所を見つけ、桶を入れる。


 早く旅で便利な魔素術を教わりたいものだ。

 そんなことを考えていると、後ろから声が掛かった。


「ゴシュジン ズイブント オオジョタイジャネェノ」


 振り返るが、姿が見当たらない。


「ココダ」


 声の方、3mほど離れた岩の上に歪みが見えた。

 完全に背景になじんでいる。


 ……ほんとこのインコ様は。


「まじ、ぱねぇな」

「ヒビ セイチョウヨ」


 ピィの頭と思われる部分が動いた気がした。

 たぶんクイクイと首を動かしたのだろう。


「ソレデ ドコニ ムカッテルンダ?」

「黒大樹の森だよ。結界の調査でな。プウを閉じ込めている白い樹木を知っているだろ? あれの調査をしに行くんだ」

「ホホウ」


 歪みが少し激しく動いたと思うと、何かが向かって飛んできた。

 受け止めた手に潰れた感触。


 赤い実だ。


 実まで見えなくしていたのか。

 不意を突かれ、上手く受け止められなかった。


「マダマダダナ」

「……精進します」


 手に付いた果汁を舐めて赤い実をかじると、ピィが聞いてくる。


「オバカプウ ケッカイ カラ デレルヨウニ ナルノカ?」

「わからない。そうなればありがたいが」


 プウが結界から出れるようになれば、色々とはかどるだろう。


 だが、結界を壊すようなことになるのもまずい。

 あの結界があるからこそ、森の危険な獣などが入って来ないのだ。


「……でも黒大樹に獣が来たらまずいよな?」

「ソウダナ オバカプウモ オレサマモ マダマダ ヨワイ」


 プウは念動力の石飛ばしが出来るが、見た目通りの身体能力だ。

 俺が殺されかけた獣に襲われたらひとたまりもないだろう。


 プウに避難させるにしても、姉を一人にはしておけない。

 姉の魂維持のため、"導きの間"へ定期的に実を入れる必要があるからだ。


「それで、プウ達はどうだ?」

「アサカラ ドンパチ タノシイモンヨ」


 どんぱち? どういうことだ?


 話の続きを聞いて、頭が痛くなった。


 様子を見に来たタハディをプウが迎撃しているというのだ。


「……プウのやつ、きちんと分かってなかったか」


 俺の説明不足だな。反省しないと。

 あのオッサンなら上手くやってくれているとは思うが。


「それよりも、お前はオッサンと話がついたって知ってるだろ? 何できちんとプウに説明してやらないんだよ」

「オバカプウ モクテキモッテ ナカナクナッタ」


 なるほど。

 タハディの相手をすることで、俺の心配から気が逸らせると。


 でもそれってどうなんだ?

 タハディときちんと連携すれば、色々とできることがあるだろうに。


「いや……プウにはきちんとタハディと行動してほしいんだが」

「ゴシュジンガ ジブンデ イウンダナ」

「何でだよ」


 ピィはクイクイと頭を動かしたかと思うと、飛び立って行ってしまった。


「俺達のことを考えてくれているんだろうが……」


 いまいちピィの考えが分からない。




 汲んだ水と、ピィの土産を持って野営場へ戻る。


 シルスが相変わらずの手際で料理している。

 クラリス班の方は、アコルが食事準備を進めているようだ。


 片方をシルスへ渡し、もう一つを持ってアコルのもとへ行く。


「水を汲んどいたよ。クラリスはどこ行ったんだ?」


 アコルは伏し目がちに水を受け取る。

 一緒に渡された実を見て不思議そうな顔をした。


「クラリス様は火をつけられたあと、虫除けを張りに向われました」


 お嬢様もきちんと仕事をこなしてるんだな。


 そして虫除け。

 パマイ村から領主邸への旅途中、何度か虫を見かけたが害を為すようなのはいなかったが。

 害してきたと言えば、黒大樹の森の沼にいたヒルくらいか。


 もしかしたら、シルスが知らずうちに何かしてくれていたのかもしれないな。


 俺も日課に取り掛かる。

 シルスの調整薬と解毒薬準備だ。


 この解毒薬もそろそろ飲まなくて大丈夫になるんだったか。


「シルスの毒も、もうしばらくで完全除去できるな」


 シルスが視線を向けてくる。


「効果が切れたら、また飲ませるの?」


 まさか。


「なんでそんなことをしなきゃならないんだ?」

「毒が消えちゃったら、私を縛るものはなくなるのよ?」


 ほほう。

 シルスの表情は柔らかい。

 きっと、たとえ話でのことだろう。


「今はきちんと解毒させるために、仲間を装ってるって言いたいのか?」

「そうかもしれないってことを言いたいの」


 シルスは仮定を嫌っている気がしたが、こういうのなら大丈夫なのか。


「確かに毒が切れるまでは、俺がシルスの命を左右できるわけだしな」

「そうよ」


 この解毒薬の活性化方法はプウから細かく指示を受けた。

 他の人間にお願いしても、正しく活性化させるのは難しいだろう。


 とはいえ、俺も早くシルスの毒が消えてくれるのを願っている。


 不測の事態で俺が解毒薬を作れなければ、シルスは命を失うことになるからだ。

 今回、ハンナさんが同行していなかったなら、毒が抜け切るまで館から外に出ようとはしなかっただろう。


「シルスは毒が無くなったら、仲間じゃなくなっちゃうかもしれないのか?」

「ふふ! どうかしら?」


 シルスは笑っている。


 多分だが「もしそうだとしても、俺は絶対に仲間を止めないからな」とか言う言葉をまってたりするんじゃなかろうか?


 だが、あまり機会の無いシルスとの仮定話だ。

 もっと楽しんでもバチは当たるまい。


「じゃあ、毒が抜ける前に色々してもらうのも手だな」


 少し意地悪い顔でそう言ってみる。


「……どんなことをさせたいの?」


 シルスが興味深そうに聞いてくる。


「例えば……そのおいしそうなスープを少し多めに入れてもらうとか」

「そんなこと普通に頼めばしてあげるわ。食材が少ないわけでもないし」


 それもそうだ。

 嫌がらせならクラリスと何かさせれば済む話だが、俺に利点が無い。


 ……かと言って特にして欲しいこととかも無い。

 今みたいに、俺と一緒に行動してくれているだけで十分助かっている。


 逆に聞いてみるか。


「なら、シルスが俺の立場だったら何を願う?」


 シルスは料理の手を止め考え込む。


「冒険者になるための特訓をお願いするとかかしら!」


 うん実にシルスらしい。

 だが、それはシルスが俺にして欲しいことだろう。


「他には?」

「え……うーん、他に…………」


 結構な長考だ。

 俺も止まっていた薬準備を再開する。


「……娶る、とか?」


 え……これはどう解釈してよいのだろう。

 婚約を取り付ける、ということだろうか?


「それだと毒が抜けたときに反故にすれば問題なくないか?」

「あ! そうね…………難しいわ」


 これはシルスが望んで?


 いやいやまさか。

 しかし、シルスとの婚約か。


「もしシルスがお嫁さんになってくれたら、何をしてくれるんだ?」

「ユージアを精一杯助けるわ!」

「それって、今と変わらなくないか?」


 シルスはきょとんとした顔で見返してきた。


「ふふ……そうね、何したら良いのかしら?」

「はは」


「それは勿論。子を()すことでしょう」


 驚いてシルスと振り返る。

 すぐ後ろにハンナさんが立っていた。


 まじびびる。


「シルスティア様は野営準備に加え、調理の手際も良いようですね。廃棄率も非常に低い。今すぐ兵站部隊に配属してもやっていけるでしょう」


 気配を消して採点していたのか。

 しかし、趣味が悪い。


 褒められてか子供云々のことか、シルスの顔が赤くなった。


「しかし、果たして子を生すことができるのでしょうか」


 ハンナさんの言葉でシルスの体が硬直する。


 何の話だ?

 シルスが子を……どういう意味だろう?


 もしかしたら、ハンナさんはシルスの夢を知っているのかもしれない。

 冒険者は危険な職業らしいし、目指していると子供を作ることなんてできない、みたいな。


「それとも……ユージア様には見えているのでしょうか?」


 いや、なんか違う。

 ハンナさんが視線を向けてくるが、意図が分からない。


 見えているって何がだ?


「ハンナさんには関係ないわ!」

「……そうですね。出すぎたことを言いました」


 ハンナさんは頭を下げると、離れていく。


 俺がシルスへ視線を向けると、彼女は顔を逸らした。

 どうやら、何か俺に隠し事があるらしい。


 ……まあそれもお互い様か。


「シルス。早くご飯作ってくれ。おなか減りすぎて眩暈がしそうだよ」

「うん。わかったわ」


 必要なことであれば、その時に話してくれるだろう。

その日のプウ2

挿絵(By みてみん)

王が帰って来る気がして元気になった

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