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029 旅立ち(後書き小話絵あり)

 俺が黒大樹を出て行くと言うと、プウは泣きそうな顔を俯かせた。

 じっと、下を向いて動かない。


 隣のシルスの方を向くと、彼女は首を振って視線でプウを示して見せた。

 二人できちんと話せということだろう。


 話すのが苦手だから振られるのを困ったのか。

 それとも、その辺しっかりしてるからかは判断つかない。

 でも、確かにそうするのが俺の責任だと思う。


「なあ、プウ……」


 俺が声を掛けると、プウが顔を上げた。

 しっかりとした、強い眼差しだ。


「……プウ、動ける、なった」

「ああ。そうだな」


 俺も、真っ直ぐ視線を受け止める。


「ユウ様、体探すとき、治すとき、大変だった」

「……そうか」


 それに恩を感じてるなら出て行くな、と言う事だろうか?

 いや、違う。

 そういう後ろ向きな表情じゃない気がする。


「プウ、分かった。

 ずっと、ずっと、頑張る、大事。

 ダメそうでも、頑張る。……諦める、一番、ダメ」


 …………すごいな。


 俺が頷くと、プウも小さく頷いた。


 この歳にして……金魚から含めてもそこまで長くないだろうに。

 実に良くできた考え方だ。


 森で獣に殺されかけたとき、軽く自棄になったのを思い出した。

 俺も見習わないとならない。


「キョーカ様、プウ、守る。…………ハゲ、プウ、任せる」

「おう。頼む」


 ……うん?


 なんかちょっと違うニュアンス含んでるような気がする。

 気のせいだろうか?


「ユウ様も、頑張る」

「……ああ。必ず結果を持って帰って来る」


 プウは目を大きくして、驚いたように見返してくる。

 俺にはそこまでの期待をしていなかったということだろうか。

 ちょっと悲しい。


 そして、プウは瞳を潤ませる。


「ユウ様、帰って、来る?」

「勿論だ。きっと力を付けて戻ってくる。素材もできれば集めてくるつもりだ」

「そう」


 泣きそうになるほど、俺の言葉に感動してくれたのか。

 もしかしてプウは、俺のお母さんみたいな気分でいるのか?


 わが子が決意固く出立する、ああ、こんなに嬉しいことは無い……的な。


 まあね。

 俺よわっちいしさ。そう思われても仕方ないとは思うけどさ。


 しかし本当に情けない……。

 こんな少女にまで心配されてしまうとは。


 プウはごしごしと目を擦ってシルスへ向いた。


「金色。プウ、絶対、負けない」

「うん。……プウさんは、強いね。

 私がプウさんくらい小さかったら、きっとお母さんと離れる時に……もっと沢山わがまま言ってると思う」

「…………」


 プウは少し難しい顔をしてシルスを見ている。

 お前は私をそんな子供に見ているのか、と怒っているのかもしれない。

 でもすぐにキツく当たらなくなった分、プウも成長しているようだ。


「プウ、負けない」


 プウはもう一度そうシルスへ言うと、こっちを向いた。


「ユウ様」


 じっと俺を見つめてくる。

 この流れはあれか。

 最後にもう一度抱きしめて欲しい、そういう感じだよな。

 ほんと、プウは抱きしめられるのが大好きだな。


「なあ、シルス」

「なに?」

「プウを抱きしめてあげてくれないか?」


 プウが驚いてこちらを向いた。


 そんなに驚かなくても良いだろうに。

 少し前から、プウがシルスの胸に釘付けになってるのは知ってる。

 きっと前々から、抱きしめて欲しいと思ってたに違いない。

 俺の貧相な体に抱かれるより、全然良いだろう。


「いいけど、どうして?」

「プウは人に抱きしめてもらうのが大好きなんだ」

「そうね。それは見てたら分かったわ」

「なら頼む」


 プウは困ったようにシルスから身を引いている。


 さすがに、ちょっと人見知りしちゃうか。

 でも、シルスとはこれからもっと仲良くしてかなきゃならないんだから、慣れてもらわないと。


 これは良い機会だ。


「ほらほら、プウ。遠慮するなって。もう大分触れ合った仲だろう」


 治療時にプウはシルスのことを抱いていたはずだ。

 この程度なんでもないだろう。

 寝てるか起きてるかの違いでしかない。


 プウの背中を軽く押して、シルスへと誘導してやる。

 シルスは少し遠慮がちにプウを抱きしめた。


 プウは初め体を硬くしていたが、次第に弛緩していった。

 そして、ゆっくりとシルスの背中に手を回して抱きしめ返す。


 やっぱり、シルスに抱かれるのも好きみたいだな。

 しばらく抱きしめあっている二人の少女をのんびり眺めていたが、視界の端に黄色が見えた。

 相変わらず、空気を読まないインコである。

 ピィは舞い降りてきて、俺の肩に留まった。


「オウオウ ドウイウジョウキョウダ コラ」

「なんで喧嘩腰なんだよ……」

「オレガ テイサツイッテンノニ チンタラチンタラ シテッカラダ コラ!」

「そうかい。悪かったな。お疲れさんよ」


 そう言って頭をかいてやると、ピィはキモチ良さそうに目を閉じた。

 見ると、プウもシルスから離れたようだ。


「…………プウ……負け、ない」


 涙目になって、再度宣言するプウ。

 ふふ。シルスと仲良くなって、更にやる気を漲らせてくれたみたいだ。


「じゃあ、プウ。俺達はそろそろ行ってくるよ」

「……ユウ様」

「そんな悲しそうな顔するな。さっき言ったように、必ず戻ってくる。シルスもきっと一緒だ」

「そうね。ユージアは私の仲間で、友達だもの。ユージアがここに戻ってくるなら、きっと私も一緒よ」

「だそうだ。だから心配するな」

「…………」


 荷物を背負う。

 中には、プウが用意してくれた薬や、それを作る材料などが入っている。

 タハディに分けてもらった容器や皮で、色々と準備してもらったのだ。


「じゃあ、プウ。キョウカを頼んだぞ」

「……プウ、頑張る。諦めない」

「その意気だ」


 最後にプウの頬を軽く撫でてやる。


「シルス。行こう」


 言って、黒大樹を出る。

 昼間のはずだが、結構薄暗い。


「そういえば、そろそろ雨だったかしらね」

「雨か」


 確かに空気が湿気っぽい。

 シルスの口調的に、雨になるというのを知っていた様子だ。

 もしかしたら、天気予報的な魔素術とかもあるのかもしれない。

 さすがに気象衛星とかは無いだろう。


 振り返ると、プウが黒大樹の入り口でじっとこちらを見ている。

 軽く手を振ると、プウも元気いっぱい振り返してくれた。





 パマイ村に着いた時には、もう全身がびしょびしょだった。

 森を歩いていた途中、雨が急に降ってきた。

 正確にはそれより以前に降っていたが、巨大な岩壁のお陰で雨に当たらなかったのだ。


「いやー……凄い雨だな」

「この辺りは、雲の流入が多いのかしら」


 二度目になるパマイ村の門。


 見張りの男が、手を振っている。

 どうやら、クライヴじゃなさそうだ。

 しっかりとした、戦闘用と思われる装いに長槍を携えている。


「グレイオビスの兵ね」


 となりのシルスが教えてくれた。

 まあ、そうだろうとは思っていたが。


「ありがとう」


 当たり前と分かっていることでも、きちんと確認するのは大事だ。

 特に、一緒になったばかりなのだから、尚更である。

 初めて一緒に仕事させてもらう相手の場合、当たり前に分かるだろうと思っていた事が伝わらず、大変な結果になることが多々あるのは経験済みである。


「とても助かるよ。どんな些細なことでも、気がついたら教えてくれ」

「わかったわ!」


 こういう情報伝達に慣れておくと、きっとシルスの為にもなるだろう。


 シルスが兵に手を振り返して名乗りあげると、門を開いてくれた。


「タハディ殿から伺っています。

 森の調査、少年の救出、お疲れ様でした」


 そう言って、兵がシルスを労った。

 シルスと俺についた黒い獣避けと、シルスの緑の毛に怪訝な顔をしている。


「しかし、こんな幼いお年で、少年を守りながら森を抜けるとは……さすがタハディ殿の従者ですね」

「……あ、ありがとう」


 シルスが少し赤くなって緊張している。

 もしかしたら、褒められ慣れてないのかもしれない。


「タハディ殿は、村中央の小屋におられると思います。ご案内は?」

「大丈夫よ」


 二人で門の横の扉を通り村へと入る。

 外からも聞こえていたが、中には兵の姿が散見した。


 左手の方の出入りが特に多い。

 きっと、破壊された壁の修理をしているのだろう。


 兵の幾人かは、こちらを見かけると背筋を伸ばして礼をしてきた。

 俺もなんとなく頭を下げる。


「シルスって、もしかして結構偉いのか?」

「違うわ。たぶん、タハディが尊敬されてるからじゃないかしら」


 あのオッサン、やはり只者じゃなかったのか。


 前にシルスに尋問された小屋の前に来た。

 シルスは戸を叩いて「私よ」と一言告げて入っていく。


 中には、椅子に窮屈そうに座るハゲ男。


 もう見慣れたタハディの姿だ。

 木箱の上に広げた書類に、何かをしたためている。


 ん……?


 タハディの使ってる書類の紙。

 思ったより見慣れた姿形をしている。

 色がくすんではいるが、見慣れたB4用紙と似ているな。


 製紙技術はそれなりなのか。

 お絵描きできるから、姉が喜ぶ。

 次会うときに教えてやろう。


「よく戻ったのう。早速で悪いんじゃが……。

 二人にはルキウスのところへ行ってもらいたい」


 言いながら、タハディは書いていた書類を便箋へと入れて封蝋した。

 その他に二通、合わせて三通の便箋をシルスへ渡す。


「それを届けてくれ。後のことは、ヤツに聞くが良いじゃろう。

 雨時に入ったばかりで悪いがの」

「大丈夫よ。任せて」

「本当に急だな。何かあったのか?」


 タハディは俺へ視線を向けると、小さく息をついた。

 シルスへ少し視線を向けるが、すぐに戻す。


「お前さんは知っておいたほうが良いじゃろう。

 ……多分だが、クライヴが殺された」

「え?」


 いきなり重い話だ。


「ますますもって、きな臭い。

 獣にやられたと兵どもは言っておったが、大方口封じじゃろう。

 遺体も他の埋葬していなかった者たちと、一緒に埋葬してしまったそうじゃ。

 せがれも、遺体を確認する前だと言っておった」

「……大丈夫なのか?」

「吾輩を誰だと思っておる」

「そうだな、オッサンなら心配いらないか」


 しかしそうなると、パルペンはどうなるのだろう。

 俺が考えても仕方がないことではあるが。


「こんな状況じゃ。

 二人には連れをつけてやることもできん。

 まあ、シルスならば雑兵程度、問題あるまいて。

 この村から追手を出させるような事も許しはせん」

「そ、そうか」


 想像以上に逼迫(ひっぱく)しているらしい。


「言っておいた通り、荷馬を付ける。

 足は遅いが、子供二人乗せて歩き通せる体力がある。

 夜休んだとて、二、三日でたどり着けるじゃろう。

 用心すべきは、南方の密猟者くらいかの。

 まあ、それも兵が多く動いているのを知っておるじゃろうし、手出しはすまい」


 結構治安の悪い世の中なのか。

 それにしても、この手紙は使える。


「オッサン、長くパマイ村に滞在するんだよな?」

「一段落するまでは、居るじゃろうな」

「シルスは文字とかって書けるのか?」

「も、文字?」


 急に話を振られて、慌てるシルス。


「ちょっとなら……」

「じゃあ、オッサンと定期的に手紙交換したいんだが、大丈夫かな?

 俺もプウ達の状況とか、知っておきたいし」

「そうじゃな。じゃが、ルキウスのヤツもそんなに人を多く抱えてはおらん。

 出来るとしても、ひと月に一度とかになるじゃろう。

 グレイオビスの連中を使う訳にもいかんからの」

「それなんだが、うちのピィに運ばせてくれないか」

「ふむ、あの小鳥か」


 タハディはちらと窓際に視線をやって、俺へ戻した。


「この部屋へ直接投函できる木箱を据え付けよう。

 こちらから渡すにはどうしたら良い?」

「話が早くて助かるんだが、人見知りするやつでね。

 この村じゃなくて、もっと人目に付かない場所が良いんだけど」


 タハディは少し目を細めて思案する。


「ふーむ。外に置いておくのは不安じゃな。

 連中に発見されてしまう可能性もある。

 かと言って、吾輩が直接渡すような余裕もあるまい」

「……そうか」


 このオッサンはそれなりに忙しそうだしな。


「そうじゃな。例の黒い大樹に置いておくのはどうかの?

 月に、二度三度は様子を見に行くつもりじゃ。その時に受け渡せばよい」

「もっと頻繁に、様子を見に行けないのか?」


 オッサンは困ったように周囲へ視線をめぐらせる。


「ここの連中に付けられると厄介じゃからのう。

 警戒して大樹へ行くが、そう頻繁だとな」

「そうだな、すまない。それで頼む」

「任せておけ」


 それからタハディへ、プウの出れない結界、"導きの間"、食料事情等の注意点を伝える。


 話がひと段落すると、タハディは立ち上がった。

 部屋の奥から、しっかりした作りの布袋や衣服、外套などを持ってくる。


「一通り旅荷を揃えておいた。シルスはこの装束を」


 タハディがシルスへ渡したのは、青を基調とした丈夫な作りの貫頭衣だ。

 前部分に金で、上下交差させた盾が刺繍されている。


「まだまだ早いが、神官戦士の正式従者用の衣装じゃ」


 タハディの言葉に、シルスは少し困った顔をした。


「私、神官戦士になる気はないわ」

「……分かっておる。冒険者になりたいのじゃろう。

 この衣装は魔素術も付与された丈夫なものじゃ。冒険にも役立つ。

 あと、夜盗などへの威嚇にもなるじゃろう」

「わかったわ。ありがとう」


 シルスはその衣装を一通り見検めると、着ている服の上から羽織った。


「うむ。似合っておるぞ」


 オッサンは良い笑顔で何度も頷いた。


 俺も似合うと思う。

 鮮やかな青に金髪が良く映える。


「……タハディ。私は訓練どう続けたら良いの?」

「そうじゃな。活性術は一通り教えたからの。

 次はそれを使って、何か戦闘術を学ぶと良かろう。

 その辺は、ルキウスへの手紙に書いておいた。

 日々の基礎訓練は、おろそかにせんようにな」

「わかったわ。色々なことを教えてくれて、ありがとう」

「……なに。吾輩も、お前さんと一緒に居られて楽しかったぞ」


 シルスはタハディへ礼をして、俺へ振り返った。


「出発する?」


 シルスの後姿を見てるオッサン、やっぱりすごく寂しそうな面してやがるな。


「なあ、シルス。オッサンもきっと、プウと同じだ」

「プウさん?」


 シルスはしばらく何を言われたのかと考えていたが、思い至ったのか少し困ったように眉をしかめた。


「だって、タハディよ?」

「きっとそうだよ」


 シルスは再度タハディへと振り返ると、更に前へと進み出た。

 そして、そっとタハディへとその身を寄せて、抱きしめる。


「タハディ。本当にありがとう。

 あなたのお陰で、思ったより早く夢へと近づくことができるわ。

 それに、友達だって出来た。少しの間だけ、さよならね。

 次に会うときは、私、もっともっと、強くなってるから」

「……そうじゃな。次会う時を楽しみにしておる」


 タハディも優しくシルスを抱き返す。

 俺はタハディに目配せして、外へ出た。


 相変わらず、雨が降っている。当分止みそうにない。

 タハディから貰った外套は、面白いくらいに水を弾いている。


「こりゃ、便利だな」


 外套の上で水を転がして遊んでいると、視界に誰かの足が入ってきた。


 顔を上げると、パルペンがいた。

 じっと、無表情に俺のことを見詰めてくる。


「親父が死んだ」

「……タハディさんから聞いた」

「親父は……お前のことを恐れていた」


 確かに初めて会った時、クライヴは随分と驚いた様子だった。


 だが、それも今となっては理由が分からない。

 タハディのオッサンが、調査を進めてくれればそれも判明するかもしれないが。


「親父は、森の獣に殺されたって、兵士さんは言っていた。

 他にも人がいたのに、親父だけをだ!」

「……」

「なぁ、あの黒い薬、一体どこから持ってきたんだ?

 お前あの森に一人で何しに行ったんだ?

 あんな状態のリナーシタを置いて、どこに行くつもりなんだ?」


 パルペンは近づいてくると、俺の襟を掴んだ。


「お前、本当に、ユージアなのか?」

「……そうだ」

「そんなん、信じられるか!

 お前、襲撃に遭う前の時と全然ちがうじゃねぇか!

 おとぎ話の、闇森人に死屍を操られたユージアなんだろ!?」

「違う」

「お前が、獣を連れてきて、親父を殺したんじゃないのか!?」

「俺はやってない!」

「嘘つけ! その体の傷だって、死んだユージアを繋ぎ合わせて、闇森人が人形にしたに違いないんだ!」


 言いえて妙だな。

 実際、かなりその言に近い。


「くそ! 正体を現せ!!」


 パルペンはそう言うと、俺の頬を拳で打った。

 その勢いで、地面へ倒される。


 口の中が切れて、血の味が広がった。

 森でこれと比較にならない痛みを負ったが、やはり痛いものは痛い。


「や、やめろ、パルペン!」

「うるせぇ、偽物が! よくも親父を!」


 パルペンは俺に馬乗りになると、さらに数発、俺の顔を殴りつけてきた。

 両手でパルペンの腕を掴むが、体格や腕力が違いすぎて殴られ続ける。


 近くを歩いていた兵の一人がこちらへ走ってくる。


 だがそれよりも早く、パルペンが大きく吹っ飛んだ。

 中から出てきたシルスが、蹴り飛ばしたのだ。


「あんた、ユージアに何してるの!?」

「……こ、こいつは俺の親父を殺したんだ!」

「何言ってるの!? ユージアがそんなことする訳ない!」

「お前は関係ないだろ!? 引っ込んでろよ!」

「ただの喧嘩ならそうするわ。でも、あんたのは言い掛かりよ!」


 た、助かった。

 けど、ただの喧嘩なら、シルスは俺がボコられてても見過ごすのか。

 やっぱシビアな性格してるんだな。


「そいつは、親父を殺したんだ!」

「ユージアはやってないって言ってるでしょ!? 森にいたのにどうやって殺すのよ!」

「獣を操って殺したんだ!」

「そんなこと、出来るわけないじゃない!」

「できる! 闇森人の仲間なら、出来るだろ! ユージアは、闇森人の仲間なんだ!」

「! ……ユ、ユージアは」


 パルペンは、シルスに蹴られた肩を押さえて立ち上がった。

 シルスを押しのけると、俺へと歩み寄ってくる。


「やめんか!」


 怒声。

 全員が動きを止めて、声の主を見た。


「パルペンよ、なら聞くがのう。

 吾輩らが初めてユージアを見つけた時、獣に襲われて瀕死の状態じゃった。

 これにはどう説明をつけるんじゃ?」

「そ、それは。そういう風にした方が、取り入りやすいと思ったからじゃないのか」

「ふん。結構頭が回るようじゃが、甘いのう。

 ここまで高度に操れるなら、そんな回りくどいことはせんわい。

 第一、小僧を放置しておったら、そのままくたばっていたじゃろう」

「……それは」

「お主の親父さんの死に、ユージアは関わっておらん。

 吾輩が保証する。それに……まだ何が真実か分からんのじゃからな」


 そう言って、タハディは近くに来ていた兵に視線を送った。

 兵は沈黙を守っている。


「パルペンよ、事の真相は吾輩がはっきりさせる。

 今しばらく辛抱せい」

「……」


 パルペンは項垂れると、俺を一瞥してタハディを睨んだ。


「俺の親父は、長い間ずっとずっと、この村を守って来たんだ!

 なのに、村の奴らは親父が獣を村に引き入れたなんて言いやがる!」


 パルペンはタハディへ寄ると、服を掴んだ。


「お前が、親父を閉じ込めてたせいだ!」

「……パルペンよ。そう村人たちに誤解させたのは悪かった。しかし……」


 タハディはそこで頭を振ると、パルペンと同じ視線に腰を落とした。


「パルペンよ。すまなかった。

 とにかく今は落ち着くんじゃ。少し話をしよう。

 木箱上に温かい茶が入れてある。飲んで待っておれ」


 そう言って、パルペンを小屋の中へと誘導した。

 俺達へ振り返り、兵へと視線を向ける。


「騒がせてしまったな」

「いえ、お気になさらず」


 タハディは俺とシルスへ視線を向ける。

 

「入口外のボロ小屋だ」


 そう一言告げると、


「ちょっと、お主にも聞きたいことがある。

 一緒に来てくれんか?」


 再度、兵に声をかけた。


「私ですか? しかし、見回りの仕事が」

「今のやり取りを見ておっただろう。

 村人の精神的な援護もお主らの仕事じゃないのかの?」

「しかし」

「グレイオビスの兵の体には、宙光の温かさは無いのかのう」


 兵は俺達へ一瞬視線を向け、タハディへ頷いた。


「……分かりました」


 兵を伴い小屋へと入っていく。

 たぶん、あの兵士は俺達の見張として配置されていたのだろう。

 上手くタハディが引き付けているうちに、村を出てしまおう。


「行こう」


 口の中の血を吐き出して、シルスへ告げる。

 シルスは頷くと、前を歩き始めた。


 村に入ってきたのと反対の方へ進むこと暫し、門が見えてきた。

 作り的には同じような感じだ。


 こっちには、兵の姿がほとんどない。

 やはり、防壁修理しているあちらの方が多いのだろう。


 門の見張台には、三人の男の姿がある。


 どうやらグレイオビスの兵ではないようだ。

 男たちは、こちらに気が付くと手を振ってきた。

 シルスも振り返す。


「タハディに頼まれて、村を出るわ」

「分かった。君にも、大分世話になった。

 タハディさんと君が来てなかったら、村人はもっと大勢死んでいただろう。

 村を代表して、礼を言う」

「気にしないで良いわ。それがタハディと私のお仕事だったんだもの……」


 シルスは少しだけ、伏目がちにそう言った。

 たぶん、タハディが村人を治療してる最中、言いつけを破って森へ行ってしまったから、素直に返事できなかったのだろう。


「グレイオビスの人たちには、俺たちが出て行くのを伝えないでおいてくれませんか?」

「ユージア? お前も一緒に行くのか?」

「はい」

「私の仲間よ!」


 シルスがそう言うと、男たちは不思議そうに顔を見合わせた。


「すまないけど、早く行かなきゃならないんです。

 通してもらえますか?」

「ああ、勿論だ。

 何をするのか分からないが、村の者として迷惑は掛けてくるなよ?」

「善処します」


 門横の扉を開けてもらい、通り抜けた。

 視線の先、さびれた小屋がある。あれがタハディの言ってた小屋だろう。


 小屋の中には、馬が一頭いた。

 想像以上にでかい。

 馬の尻の辺りに、俺の頭がある。


 これに乗れるのか?


 体もしっかりしている。

 とにかく、足が太い。

 細い脛の部分で、俺の太ももほどはある。

 荷運び用と言うだけはあるようだ。


 シルスは近くの木箱に乗ったりしながら、手際よく荷物を括りつけていく。

 馬のそばにも、大き目の布袋があった。


 手伝おうとしたが、無理だった。

 本当に、この体は貧弱だ。


 それを見て、シルスも困ったような顔をした。


「もっとたくさん食べて、鍛えないとダメね」

「……ああ」


 シルスが、背負わせた荷物の所々に縄で輪をつくる。

 それを足場に、馬へまたがった。


 見上げるように高い。

 手を借りて、シルスの後ろへとまたがる。

 荷物を括り付ける、取っ手のような部分につかまった。


「じゃあ、行くわよ」


 シルスとの街道二人旅が始まった。

その日のプウちゃん1

挿絵(By みてみん)

大きくなる方法、キョーカ様に聞いた。

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