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国守護楽団 Brillante  作者: 貴良 一葉
第13曲 attacca ―接近―
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132/135

13-4

 クラシック療養の甲斐あって体力もかなり回復してきた頃、俺たちから少し離れたところでスマホをイジっていた越後が「そういや」と会話に割り込んできた。


「伊予ってどんな奴なんだや? 女なんだっけさ?」


 唐突なその質問に、俺たちは一瞬固まる。

 現時点で、突然現れたアイツに会っているのは、俺たち四人だけだった。


「はい。僕たちもまだ信じられないですが、変化(ヴァリエ)ができる以上は疑う余地がないと武蔵さんも仰っていました」


 心に余裕を取り戻してきた安芸が真っ先に答える。更に俺たちは、現世の伊予の姿を簡単に説明した。歳は俺たちよりチョイ下。髪は緑がかったロングで、容姿端麗だが目つきキツめ。

 こうして改めて口にすると、マジで前世の伊予とは似ても似つかねぇよな。……あぁ、あと口がクソ達者だってことも言っておかねぇと。


「はぁん。俺は前世の伊予とはほとんど接点なかったし、正直あんま覚えてねぇけどよ。話聞いてるだけで、だいぶ面倒くせぇ女だなってのは分かるわ。つーかそもそも、何でアイツは転生組に選ばれたんだっけさ?」


 越後の更なる質問に、安芸は頭の中の記憶を辿った。


 和泉と特別交流があった俺たち三人を除き、前世からの転生者は後世でも役に立つであろう能力と、楽器のバランスでメンバーが選ばれている。副長であるトランペットの武蔵を筆頭に、異次元の知力を持つピアノの陸前。動物との共闘ができる打楽器(パーカッション)の陸中、パワー系であるクレイモアを扱うホルンの但馬。

 ……ん? そう思えば越後の奴は何要員だったか。俺もコイツとは接点があんまねぇから覚えてねぇや。多分、戦闘力と中低音のトロンボーン担当を加味してだと思うが。


「確か……フルートであることはもちろんですが、一番は諜報要員だったと記憶しています」

「あぁ、アイツの諜報活動は特に優れていた。……そう考えると、今の伊予も色々知ってっけどな」


 安芸の言葉に俺が付け足す。何せアイツ、和泉の家だって急に押しかけてるし。

 逆にいえば、他の奴らよりもっと早く現れても、おかしくなかったはずだが。


「武蔵さんは忙しそうですか? 早く彼にも伊予に会ってほしいんですが」

「知らねぇよ。あんにゃろ、脳波調べるとか何とか言って、俺の身体あちこち妙な機械でいじくり回しやがってんだて。んで今は、あの天才クンとずっとリモート会議してっけさ」

「ハン。いいようにコキ使われてるじゃん、越後」


 不機嫌そうに顔を顰めた越後に、近江がニヤリと笑みを浮かべる。副長であった前世の武蔵を知っていれば、逆らえる奴なんていないだろうが、破天荒な越後も例外ではないらしい。


 その時、ポケットに入れていた俺のスマホから、僅かな振動を感じ取った。

 三人が続ける会話に耳を傾けつつ、何気なしに画面を開いてみると、一通のメールを受信していた。……しかも相手は和泉だ。この状況で安芸に気づかれたらまたウルサイと思い、悟られないようそっと内容を確認する。


『お疲れ様です、今日はありがとう。デュエットの承諾をしてきました。どうやら曲は決まってるみたいなので、忙しいところ申し訳ないんだけど、こちらの譜読みをお願いします』


 和泉らしい丁寧な文章を添えて、メールには楽譜が添付されていた。

 ほーん……と冷静に受け取りつつも、心なしか少しのワクワク感を抱きながらファイルを開く。


 だがタイトルを見た瞬間、俺は思わず吹き出しそうになった。

 ちょっ、待て。よりにもよってコレかよ。弾いたことはないが、かなり有名な曲であり聞いたことも当然ある。しかしこれを、和泉とのデュエットで弾くことになるなんて……。


「……オイ、日向。なーに浮いた顔してんだよ」

「む。もしかして和泉から?」


 無意識に顔に出ていたのか近江にツッコまれた瞬間、和泉レーダー敏感中の安芸に鋭い探りを入れられた。

 いやいやいや、この曲は絶対に言えねぇだろ。これ以上コイツのヤキモチに火ぃ付けられたら、堪ったもんじゃねぇ!


 俺は焦る気持ちを必死で抑えながら「何でもねぇ」と答えた。


「ただの広告メールだっつの。お前らこそ変に勘ぐるなッ」

「ふぅーん?」


 慌ててスマホを再度ポケットに放り込んだが、怪しむ安芸の視線に背中の冷や汗が止まらなかった。

 ……さーて、問題は一体どこで練習すっかだな。


「ほいじゃ。身体はもう大丈夫みてぇだし、そろそろ帰んぞやガキども」


 ケツについた砂埃を払いながら越後が立ち上がったのを合図に、俺たちもユルユルと帰る支度を始める。やっと終わった、と胸を撫で下ろしたのも束の間、アイツは最後にとんでもない捨て台詞を残した。


「そーら、明日から毎朝5時にココ集合だっけ。……逃げんなよや?」

「……はぁ!?」


 俺たちの心からの叫びを聞くこともなく、悪魔のような笑みを浮かべた越後は、宿泊するホテルにさっさと帰っていった。



 翌日からは越後の……つーか武蔵の指示どおり、同じ倉庫内で地獄の早朝強化鍛錬が行われた。どうやらこの倉庫、武蔵が大阪(こっち)にいる間は貸し切りにしているらしい。

 アイツ、節約するとか言いながらバンバン金使ってんじゃねぇか。どんな資金繰りしてんのか、こっちが心配になるレベルなんだが。


 集合して早々、例の筋トレで身体を苛め抜かれた後、戦闘トレーニングへ移るのが毎日の流れだ。ただし初日のような三人同時ではなく、越後が俺たちを個別で相手にしていくスタイルである。

 実は、まず筋トレから始めるのには理由があった。この鍛錬で奴が目標にしているのは〝戦闘中の悪い癖の矯正〟だ。体に染み付いた癖は案外自分じゃ気づけないもんで、疲れた時ほどそれは余計に現れる。だから筋トレで癖を引き出すのだ。


 そして初日のあの試合で越後は、俺たちの癖をほぼ把握したという。

 なるほど。見かけによらずと言っちゃ何だが、意外と洞察力が優れているらしい奴には適役っつーワケだ。


 朝が弱ぇ近江を叩き起こすのには苦労したが、毎朝必死で食らいついたぜ。んで、そっからヘロヘロで通学・通勤して、帰って曲のツメをやる拷問のような日々を過ごし……俺たちは、ついに一大イベントの日を迎える。



 4月最後の土曜日、ゴールデンウィーク初日。

 ――『和泉フィルハーモニー音楽団』、定期演奏会である。


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