12-6
新しい淹れたての紅茶が配られ、俺たちは暫しのティータイムを楽しんでいた。さっきと少し味が違うと思っていたら、丁度ダイニングの方から「ブレンドの配合を変えてみたの」と話す和泉の声が聞こえてきた。
……俺、ティーテイスティングの才能あったりして。
「すみませんねぇ。折角の君のお茶だというのに、ムサ苦しい野郎どもしかいなくて」
続いて飛んできた武蔵の声に、思わず啜っていた紅茶を吹き出す。
おい。誰がムサ苦しい野郎だ、誰が。
すると意外にも、和泉が奴のその言葉に食いつき始めた。
「あの……。前から聞きたかったんですけど、ブリッランテに女性はいないんですか? そのっ、伊予さんが女性という可能性は、ないので、しょうか……」
「……え?」
段々と声も体も小さくなっていく和泉の姿に、武蔵と安芸が面を食らったようにポカンと口を開いていた。リビングとダイニングはテーブルが少し離れているから、リビングにいる俺はアイツらの会話に耳を傾けているだけである。
だが和泉よ、その質問はちょっと今更すぎやしねぇか? ともの凄くツッコみたかった。
当然、武蔵と安芸も困ったように顔を合わせると、どこか申し訳なさそうに和泉を見直した。
「あー、ごめん和泉。言ってなかったっけ? ブリッランテは総長の和泉以外、全員男、なんだ……」
頬を人差し指で掻きながら、そう言って苦笑する安芸。
その答えに和泉は一瞬固まり、正しく手本どおりのリアクションを取った。
「えっ……、えぇええええ!? なななっ、何で!?!?」
「ブリッランテを作る時に決めたのですよ。男が統率すれば、どこかで権力争いが巻き起こります。でも女性を統率者にすれば、男集団はその人を〝守る対象〟と認識して結束しやすいと。もちろん、首領メンバーに女性を入れることも考えましたが、そうなると男性側にも女性側にも派閥ができてしまいますし……」
懸命に釈明する武蔵に、天才少年が高度の助け舟を差し出した。
「かの有名な女王卑弥呼と同じです、和泉さん。貴女が唯一の女性だからこそ男はまとまるんですよ。それに貴女の〝異質性〟がリーダーとしての判断力を高め、唯一の女性であることで常に〝外側の視点〟を持てる。組織論でいうところの『アウトサイダー・リーダーシップ』ですね」
「う、うん。ちょっとそれは難しくてよく分からないけど、とりあえず前世の皆はそれがいいって判断したんだね」
あまりに専門的な用語が並び、和泉は目を点にして和矢へ礼を言いつつも、自分の中で至極簡潔にまとめて結論を出したようだ。隣では広も若干引いている様子が見て取れた。
和泉には悪いが、性別が男と限定されていることも、俺たちが現世で仲間を探す少ない手がかりにはなっている。まぁ、とはいっても名前と性別だけっていう情報量だがな。
よって残念ながら、残る伊予も〝男〟なのは間違いない。
「ごめん……。やっぱり女の子ひとり、居心地悪かった?」
「ッううん!? そんなことないよ! 変なこと聞いて、私こそごめんね!?」
素っ頓狂な声を上げて、和泉は慌てて安芸に取り繕った。俺たちを『仲間』と認識しているアイツにとって、恐らく〝男の中の女一人〟が不安だったのではなく、〝同性がいたらいい〟という寂しさからの確認だったのだろう。
旅館に泊まる時だって、逆に俺たちのほうがアイツ一人のことを気にしていたくらいだ。信用されているのはありがたいが、されすぎるというのも困りもので。
悶々と思考を巡らせつつ、「女の子は和泉だけでいいのだ~」などという呑気な広の声もしっかりと聞くほど、あっちへ完全に気を取られていた。だから最後の一滴まで紅茶を飲み終えて一息つき、ふと顔を上げるまで俺は気づかなかった。
……至近距離で、純が変顔を披露していたことを。
「ッ、どぉうわあぁあ……!?」
「Oh、ヒューガ。やっと気づいたのレすカー?」
「~~ッ、ブッハ! な、純。だから言っただろ?」
驚いてる俺を見て更に変顔を続ける純と、隣で大爆笑している近江。
ほぉん。俺の意識があっちに向いてんのをイイことに、おちょくって楽しんでたわけか。いい根性してやがる。
「近江、純。テメェら……」
「なんだよ、日向だって集中するほど盗み聞きか? やっぱお前、悪趣m――」
小馬鹿にされている途中で目の前の純を背負投げし、本日二度目のアッパーで近江をブッ飛ばした。
気を取り直して作戦会議の続きが施行された。ソファの隅で、殴られた箇所を痛そうに押さえている二人の目線はシカトだ。……あの後、リビングを引っ掻き回したことで安芸にめちゃくちゃ怒られたし。
「では改めて、伊予の集結を促進させるとしましょう。無理に急ぐ必要はありませんが、念には念を入れなければなりません。向こうが手こずっている可能性もありますから、我々からも引き続きコンタクトを図るべきです」
再びタクトを振る武蔵の言葉に、安芸が反応を示す。
「でしたら、本来近隣である僕と日向で調査します。あまり武蔵さんたちの負担を増やしたくないですし。……いいよね? 日向」
「……あぁ、構わねぇよ」
先程の一件もあり、有無を言わさない安芸の視線に、反発する隙などあるはずもない。それに元々多少調べていた俺たちで引き継ぐのが、一番効率もいいだろう。
伊予探索の話が一段落したところで、話題はメストの潜伏先へと移った。金剛玄洞を失った今、奴らは何処へ逃げたのだろうか。少なくとも軍を率いている暗里と、残った五音衆の宮と徴は身を潜め、次なる策略を練っているに違いない。
武蔵の指示で既に和矢が探索を始めているようだが、相手は一度アジトを特定されているのだから、警戒心がより強まるのは必然だ。話題にした高周音波もシールドを掛けられたのか、微弱にしか反応を示さなくなり追跡まではできないと和矢は言う。
「確か、宮とは和泉ちゃんと日向君が一戦交えているのですよね?」
武蔵の問いに俺と和泉が頷く。脳裏には濡羽色の髪で片目を隠した男が浮かんだ。
五音衆、宮。日本刀を扱い、目に留まらぬどの素早さを持つ、かなりの手練れだった。
奴のスピードと剣術には、どれだけ鍛錬しても敵わないだろう。
――そう。心体増強なしの、常態の俺たちでは。




