其の壱十弌「一番古い記憶」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
あなたの一番古い記憶は何ですか。何歳の記憶まで遡れますか。
多分私は2歳、または3歳頃の記憶が一番古い記憶だと思っています。
私、風間咲良には3歳年下の妹がいるのですが、彼女がまだいない時の記憶なので、2歳・3歳頃の記憶であることがはっきりとわかるのです。
その記憶は、実家の増築工事。
増築工事中の新しい部屋の中、まだ床板を張ったばかりのそこをトタトタと、VWビートルの足けり乗用玩具に乗って歩いている。そんな記憶です。
それはそれとして。
最近本を読んでいたときに知った話なのですが、一番古い記憶として残っているものは、とても怖い思いをした「恐怖体験」や「トラウマ」が関わったものが多いらしいです。
例えるなら……小さい頃、デパートで迷子になったとか、知らない人に声を掛けられたとか、宇宙人やお化けを見た?とか。
そういう経験が、一番古い記憶として今でも残っているというケースが多いのだそうです。
それなら、私の一番古い記憶は?
増築工事中の実家。床板を張ったばかりの新しい部屋の中をトタトタと足けり乗用玩具に乗って歩いている記憶には、何一つ「恐怖体験」や「トラウマ」が関わっているようには思えませんし、そんな記憶は全くありません。
それなのに、この記憶が一番古いものだとはっきり覚えているのは何故なのでしょう。
私はもう一度、じっくりとその記憶と向き合い、思いを巡らせてみました――
赤いVWビートルの足けり乗用玩具に乗って居間から増築中の部屋の奥へ向かって歩いていきます。
真っすぐ数歩進み、左に曲がって貼りたての床に向かってトタトタと進んで奥に向かって……
あれ?戻ってくるときの足取りが、トタトタからトトトトと少し早くなっている?
一番古い記憶の中にあるそれに気付いた私は、ふとこんなことを思い出しました。
「想像を絶する恐怖体験をしたとき、脳はその記憶を思い出せなくすることでトラウマを回避する」
もしかするとあのとき、私は増築中の部屋の奥に、幼心に何かとても怖いものを見ている?
だから、戻るときの足取りがトトトトと少し早くなっていたのかも――
そうだとしたら、私はそのとき一体何を見たのでしょう。
それについては、いくら思い出そうと記憶を隅々まで見回ってもわかりませんでした。
ただ、私の一番古い記憶はそのときのものだということだけ。
それは間違いのないものなのだとはっきりしたことは、紛れもない事実です。
この話は私の実体験であり、本当の話です。
そしてみなさん。あなたの一番古い記憶は何ですか――




