其の壱百1「兎蝌蚪」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
私は昔から、よく夢を見ます。
いい夢もあれば、意味不明な夢、理解不能な夢、そして――「怖い夢」。
その中でも、今も鮮明に覚えている夢があります。
それは今まで見たことのない異形の怪物が現れる、とても恐ろしい夢でした。
その夢の中で最も印象に残っているのは、
私が後に“兎蝌蚪”と名付けた怪異の姿でした。
◇◆◇
兎蝌蚪。
兎の頭に、蝌蚪の尾を継ぎ足したような姿。
寒天質の濡れた皮膜に覆われ、植物とも獣ともつかぬ鎌首をゆっくりとうねらせる。
その群れは数千、数万。
波のように押し寄せ、私の視界を埋め尽くしていく――。
目が覚めたとき、私は放心状態で、心臓が痛いほど脈打っていたのを覚えています。
兎蝌蚪。それはこの世に存在しない。今まで怪異や妖怪の本で見たこともない。
そんなものが夢に出てくるなんて、当時の私は自分の思考を疑いました。
ただ救いだったのは、この話をしたとき、
友人が兎蝌蚪をとても可愛いイラストにして描いてくれたこと。
夢の中の恐怖とは似ても似つかないその絵に、私は思わず大笑いしました。
……ですが、それを思い出し笑えたのは、ここまででした。
◇◆◇
あれからもう32年経った今になって、ふと、私は思ったのです。
「あの怪物を夢の中に生み出したのは、私のどんな部分なのだろう」と。
気になった私は、ある方に夢占いを依頼しました。
その結果を聞いた瞬間、背筋がゾゾゾとしました。
「あなたが見た兎蝌蚪は、“まだ形を持たない恐怖”の象徴です。
本来なら姿を持たないはずのものが、あなたの夢の中で形を得た。
それは……そのときあなたが“気づいてしまった”からです」
占い師はそう言い、最後にこう付け加えました。
「その夢を見た日から、あなたの周りで“何か”が変わっていませんか」
◇◆◇
みなさんも、怖い夢の中に“まだ見ぬ何か”が現れたときは、ご注意ください。
32年前に私が見た夢の話――これ、本当なんです。




