其の参十五「よかったね」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
このお話は、心霊系動画投稿者のSさんから聞いたお話です。
よかったね、というタイトルのお話なのですが
これを聞いて思ったことは、「全然よくないじゃないですか」でした。
◇◆◇
心霊系動画投稿者のSさん(男性)の体験談。
様々な心霊スポットを巡り、撮影し、動画を公開している彼なのですが
一度だけ「あまりにも何もなく困ってしまった撮影回」があったと言います。
この日、Sさんと2人の仲間(全員男性)は、ある心霊スポットの撮影をしていました。
(場所名については聞いていますがここでは控えさせていただきます)
大体どこの心霊スポットでも、撮影中に突然物音が!?とか、人魂が飛んでる!?とか
幽霊がこっちを見ているぞ!という大きな事は無いにしても、
どこか何か言い知れない怖いポイントはあるものなのだと彼は言います。
ですが、この日は本当にそういったポイントが何もなく、
それがまた、あまりにも何もなさすぎて、撮影中何を話せばいいか
わからなくて困ってしまったといいます。
そんなこんなで、撮影終了後
「今回は本当に何もなさすぎて困ったなぁ」「これ、編集どうしよう?」「今回はボツか?」と
仲間と会話をしつつ片づけをしているとき――
「よかったね、なにもなくて」
Sさんは、背後から耳元で囁くような若い女性の声を聞き、ゾゾゾゾっと背筋に悪寒を走らせました。
バッと後ろを振り返りますが、そこには誰もいません。
それどころか、Sさんたちの撮影グループは全員男性です。
女性の声が聞こえてくる理由は――幽霊?
Sさんは、2人の仲間を見ましたが、特に何を気にする様子もなく片付けを続けていました。
「なあ、今何か聞こえなかったか?」
Sさんは2人に尋ねましたが、彼らは訝しげに首を振ります。
「今、女の声で“よかったね何もなくて”って聞こえた。」
Sさんの言葉に、2人の仲間は顔を見合わせ――
「なんだよー!このタイミング」「カメラ回してない時にー!」
と、2人は悔しがっていましたが、声を聞いたSさんは
そんな2人のように「撮れなかった、悔しいー!」という気にはなれず
ただただ、背筋がゾゾゾとするのを紛らわすため
きのせいきのせいと、心の中で唱えていた……というお話。
◇◆◇
「全然よくないじゃないですか。」
Sさんがこの話に「よかったね」というタイトルをつけていることに
私は思わずそう言いました。
「まあ、そうですね。でも、結果的には本当によかったんですよ。」
そう言ってSさんは、その時撮影していた場所について
詳しく話してくれました。
その場所は、様々な動画撮影者が撮影中に様々な怪奇現象に見舞われる
いわゆる「いわくつき」の場所であったこと。
そして、そこで怪奇現象に見舞われた撮影者たちには後日何らかの不幸が起きているということ――
「なので、結果的に何もなかったことは本当によかったんですよ。」
そう言うSさんでしたが、私は彼の様子にどこか含みがあるような感を受けていました。
◇◆◇
これが、心霊系動画投稿者のSさんから聞いたお話。
確かに、何もなくて良かったかもしれませんが――
でも、あとになって私はあることに気付き、
背筋がゾゾゾとするのを抑えられませんでした。
撮影中は何もなかったかもしれませんが、撮影後に何もなかったわけではない――
「全然よくないじゃないですか……」
Sさんの今後は、大丈夫なのでしょうか。少し心配です。
この話、本当なんです。




