其の八十零「怨念に染まる白」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
前作の往路、そして今作である復路の中でも度々話題に出ていた「女性の幽霊」。
そのすべてとは言いませんが、彼女たちの特徴の一つとして
「赤い衣服を着ている」 というのは、怪談好きの方々にとって“あるある”ではないかと思います。
口裂け女、かしまれいこ、トイレの花子さん――
皆、赤い服の怪異ですね。
もう一色あるとすれば「白」。
雪女、白粉婆、そして幽霊全般が“白く見える”と言われます。
どちらも、夜の街で、学校で、冬の山で出会ってしまったら……
私はジョイナーより早く走れる自信があります。
それはそれとして。
これは、妖怪・怪異・都市伝説が大好きな友人、H美さんから聞いたお話です。
◇◆◇
その日、私たちは喫茶店でコーヒーを飲みながら談笑していました。
話題はもちろん“怖い話”。「女性の怪異」の話になりました。
私が持論である「女性の怪異は赤い服を着がち」という話をすると、
H美さんも「あるあるだね〜」と笑っていました――が、そこから続きがありました。
「咲良、黒いワンピースの幽霊の話って聞いたことある?」
「黒いワンピース?」
私は少し考えましたが、すぐには思い浮かびません。
赤や白の印象が強すぎて、黒い服の幽霊の姿がどうにも想像つかないのです。
そんな私を見て、H美さんはニヤリと笑いました。
「固有名のない幽霊の話なんだけどね。幽霊って白い服のイメージでしょ?
でも時々、その中に“黒いワンピースを着た女の幽霊”がいるらしいんだって」
◇◆◇
黒いワンピースの幽霊――。
私は想像してみました。白いワンピースの幽霊の服だけ黒に変えた姿……
その瞬間、背筋がゾゾゾとしました。
長い黒髪、青白い肌、黒いワンピース。そして――なぜか赤く光る眼。
「……思った以上に怖い感じになっちゃった」
「咲良、想像力豊かすぎ。でも確かに白より怖いよね」
H美さんはニッコリと微笑み、そのまま畳みかけるように言いました。
「咲良、もし黒いワンピースの幽霊を見たらね。絶対に気付かないふりして、その場から逃げて。
……すごくヤバいらしいから」
◇◆◇
すごくヤバイ。
とても抽象的な言葉だけに、どうヤバいのか、どんなことが起こるからヤバいのか。
そこのところが詳しくわからないながらも、よくないことであるとは理解出来ました――が、
私は霊感も無ければ、見える人でもありません。
昔は霊感少女風間さんなんて言われていたこともありましたが、
怪談、都市伝説が好きなだけの普通の学生でした。
「大丈夫よ。私、そういうの見えない人だし」
「見えない人だからこそ危ないの。黒いワンピースの幽霊はね……」
H美さんいわく、その幽霊は赤や白の幽霊とは比べ物にならないほど強い怨みを持っているらしく、
霊感のない人にも“見えてしまう”ほどの強い怨念を放っているというのです。
「白や赤の幽霊は、話を聞いてほしいだけのことも多いんだって。でも黒い幽霊は最初から“呪ってやる”って強い怨みを持って、気付いた人に片っ端から取りつくらしいよ」
「――究極無敵無差別超呪怨霊女?」
「っぷ、なにそれ。でもそんな感じかもね。だから、黒いワンピースの女幽霊はとても怖い、という話。咲良、この話、本当なんです♪」
「ちょっと、それ私の!」
そんな会話のやり取りの中、私たちは思わず笑っていました。
◇◆◇
これが、H美さんから聞いた“黒いワンピースの女幽霊”の話。
見えない人にも見えてしまうほどの怨念。想像してみて、私はふと可哀想にも思いました。
それほどの怨念を持つということは、生前、よほど悲惨な――
……ここで私は考えるのをやめました。何故なら、あまり深く考えることで
その存在を“呼んでしまう”ような気がしたから。
黒いワンピースの女幽霊。
彼女の服の黒は、もしかすると強い怨念で黒く染まった、白いワンピースなのかもしれません。
この話、本当でないことを祈ります。




