其の八十四「興味のない人が見たもの」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
この話を聞いた数日後、ふと私はこんなことを思いました。
「オカルトや超常現象に興味のない人が体験した、科学では説明のつかない話は、かえって怖い」
これは、先日私をお酒の席に誘ってくれた、ある会社の社長さん――
ここではTさんとします――から聞いたお話です。
◇◆◇
Tさんは、怖い話やオカルトにはまったく興味がないと言っていました。
むしろ「そういうのは信じないタイプだよ」と笑っていたほどです。
それでも私は、何か一つくらい不思議な体験をしていないかと尋ねました。
「Tさん、今までに怖い体験ってないんですか?」
「うーん……ないなぁ〜……いや、あった! 一つだけあるな」
焼酎のグラスを傾けながら、Tさんは思い出したように言いました。
「俺、UFOを見たことがあるんだよ」
◇◆◇
Tさんが学生時代のこと。
夜中にふと目が覚め、なんとなく窓の外を見たとき――
空に、流れ星のような光が見えたそうです。
ああ、流れ星だな、と眺めていると、その光は突然、ありえない動きを始めました。
一方向に流れるのではなく、ふわり、ふわりと左右に揺れながら漂うように動いたのです。
「……あれ、UFO?」
Tさんはしばらく呆然と見つめていたと言います。
◇◆◇
「次の日、友人に話したら『そんなまさか〜!』って笑われたよ」
Tさんはそう言って笑いました。
私もつられて笑いましたが、その瞬間、ふと気づきました。
――Tさんが学生時代、どこに住んでいたのかを私は知らない。
「Tさん、学生時代ってどこに住んでたんですか?」
「俺? 神戸だよ」
その答えを聞いた瞬間、私は妙に納得しました。
兵庫県神戸市。
私は以前から、兵庫県はUFOの目撃談が多い地域だという記憶があったのです。
「……ああ、なるほど。あるかも」
私は思わずそう呟いていました。
◇◆◇
人には、興味のあるものを無意識に探してしまう心理があります。
例えば私なら、怖い話が好きなので、書店の数ある本の中で怪談本が自然と目に入ります。
逆に、興味のないものには気づけないという心理もあります。
もし私が怖い話に興味がなければ、怪談本の棚の前を素通りしているでしょう。
Tさんは、怖い話にもオカルトにも興味がありません。
そんな人が、夜中にふと目を覚まし、“本来なら見過ごすはずのもの”に気づいてしまった。
その事実に、私は妙な信憑性を感じました。
興味がないからこそ、余計な想像をしない。
だからこそ、見えたものをそのまま受け取ってしまう。
――それが、かえって怖いと。
◇◆◇
後日、私はTさんの話を思い出しながら、
「興味のない人ほど、本物を見てしまうのかもしれない」
そんなことを考えていました。
ふわり、ふわりと揺れる光。流れ星では説明できない動き。
そして、誰にも信じてもらえなかった体験。
興味がない人の口から語られる“説明のつかない出来事”は、
なぜこんなにも背筋をゾゾゾと冷たくするのだろう、と。
◇◆◇
「オカルトや超常現象に興味のない人が体験した、科学では説明のつかない話は、かえって怖い」
これは、最近私が思ったこと。
そして――この話、本当の出来事です。




