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Chapter 020_やさしさの行方

「わ、分かりました…」

「ありがとぉ〜」


…その後。

「ちょ、ちょうどよかった!」と言ったマリーは2人をお茶に誘った。

リチアとベルナールは宿に帰ろうか、それとも、もう少し…と

考えていたところだったので誘いに乗ることにした。


マリーの先導で3人は近くのカフェへと

足を向けたのだった…



「…あ、そんなに気負いしないでね。たぶん、最初は一言(ひとこと)二言(ふたこと)だけだろうし、いつ始められるかも分からないし…も、もしかしたら。決心つかなくて、()()()()()かもしれないから…」

「は、はぁ…」


マリーの話とはベリーチェちゃんの事…彼女の治療に関する事だった。


少しずつ、自分の病と向き合い始めたベリーチェは自分を助けてくれた

”誰か”に会いたい…と、そう言い出したのだ。



「でも、手紙なんて…ちょ、直接会うことは!?」


本人はもちろん。ベルナールも望んでいるコトなのだから

彼女の願いを叶えてあげたい。

マリーはもちろん。天使妖精ラベリィやプリモのシャルロッテ

薬草師のレーチェルもそう思っている。


けれど…目に見えない小さな欠片で大きく心を乱してしまう

今のベリーチェを…



「ごめんなさい。彼女はまだ、人に会える状態じゃなくて…」


希望の”足掛かり’”であるベルナールに会わせて発作が起き、

驚いたベルナールが彼女を”見捨て”でもしたら

取り返しがつかない…



「そ、そうですか…」


…もちろん。ベルナールがそんな彼女を受け入れてくれる可能性も

ある。けれど確証はなく、むしろ、高確率で発作が起きると

考えられる以上、ケアチームの考えは全会一致で “まだ早い”


今の彼女に必要なのは「勇気ある一歩」ではなく、

季節の移ろいのような ささやかな日々の積み重ねなのだ…



「あの…」

「…うん?」

「?」


マリーとベルナールの会話に口を挟んだのは…



「ベルナールさんが助けたっていう”その子”…その子って、そんなに悪いんですか?それなら、お母様に伝えた方が…」


…リチアはもちろん善意でその言葉を告げた。

まさか、月天使たる母親が既にベリーチェの治療に深く関わって

いるなんて、知らなかったから…



「…」


一方のマリーは、先ほどの仲睦まじい2人の様子。

そして、自分とベルナールの会話を『ジッ…』と聞いていた

リチアの様子から事情を…


…助かるハズの無かった患者に天使が舞い降りた理由を察し

そして…



「…月天使様はご存知ですよ。」

「えっ!?」

「そ、そうだったんですか!?」


「…えぇ。」


…机の下で。

拳を『ぎゅっ』と…



「あの子を見守り、新しいお薬まで用意してくれました!」


できる限りの笑顔を貼り付け



「私たち術者も…全力で。治癒にあたっています…。あの子は絶対に治りますよ!」


自分に治癒の才があったばっかりに不仲になってしまった姉のコト。

未熟な自分が救えなかった子供の患者のコト。

パンの一切れも買えずに野垂れ死ぬ獣人のコト。

コレから出会うであろう重すぎる命のひとつひとつのコトを想い…






「…ゴメンナサイ。そろそろ戻らないと…」

「え?」「あっ!」


…不意にこみ上げた涙を目尻に押しとどめ



「お会計は済ませておきますから。2人はゆっくりしていってくださいね。お時間お取りしてモウシワケゴザイマセンでした…」

「いえっ!」「そんな…」

「準備ができたら使いをやります。ご機嫌麗しゅう…」



早々に席を立って長いブロンドの髪を揺らし、

黒い術師服の背に施された天使の羽根の意向を晒し…



「ご、ご機嫌よう…」「ご機嫌麗しゅう…」


…そそくさと、

午後のカフェを後にした



………

……





















「ぢがれ゛だぁ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙〜………」


宿に帰ったベルナールとリチアを迎えたのは

食堂の長椅子に倒れ伏すレオンであった…



「おt…」

「ちょっとレオンさん!汚れたまま宿に上がらないで下さいって、何度も言っているじゃないですか!?」


ベルナールが労いの言葉をかけるより先にレオンに

浴びせられたのはリチア”お小言”であった。


こういった場合、レオンが言い訳をして…最終的に論破され

男性陣が謝るのがテンプレであるが、今回は例外的に…



「ま、まって!レオンおにーちゃんも”まーまー頑張”てくれからシャワーを貸してあげるところだったんだよ。…ほら、おにーちゃん。早く入っておいで…」


殊勝なコトを言っているけど…チャッカリ先に浴びてきたのか、

首にタオルを巻き頭に龍を乗せたミーリアがサッパリとした

様子で答えたのだった



「アレがハードじゃない…だって!?」

「ラミューに加えてフーウェン『…ふぴ?』とフーシェン『りゃ?』も手伝ってくれたんだよ?全部手作業でやってる皆より何倍も(らく)したんだから!」

「…その分。他の連中より何倍も広い範囲を掃除したじゃないか…」

「魔法があるんだから当然だよ!」


…聞けば。

レオンはミーリアと共に冒険者の依頼…ではなく、

市民が持ち回りで行っている”水路の整備”…ドブ(さら)いをしてきたそうだ



「くそっ!コレだから”助け合いの精神”は…」

「おかげでジーナおばあちゃんの美味しい(まかな)いパスタ食べれたじゃない…しかもタダで。」


ルボワ市は冒険者の聖地であると同時に、2本の大河…

レダ川とラベナ川…に挟まれた中流地帯の農村だ。


これらの川はエディアラ平原を滔々(とうとう)と流れ大地に恵みを

(もたら)すが、ソレは同時に多くの堆積物を含むというコト。


水路の起点にもなっているルボワ市の市民が整備を怠れば、

下流のみんなが悲鳴を上げる。



「それは…で、でもホラ!あのばーちゃんのメシ。なんていうか…田舎っぽくてフツー…」


ドブ攫いは…確かにキレイな仕事ではないけれど、

とても大事な市民の義務なのだ


ルボワ市民のやさしさが川を下り、肥沃(ひよく)の大地に恵みをもたらす…



「…レオンさん。」

「…う、うん?なに?リチアちゃ…」

「うちで出してるパスタ料理…全部。ジーナおばあちゃんのレシピよ?」



…やさしさの形も色々ある

物語はそうして回っている…



「…あれ?そうなの?」

「「最っ低っ!!」」

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