171.宰相
ヨッシー王の手術は成功したが、体力が十分に回復するには至らなかった。
そこで急遽、禅譲のための準備が行われることになったが、通常、次の候補者が実際に王になるには10年の準備が必要だった。
「リョータ殿、宰相の役目を引き受けてくれぬか?」
ヨッシー王は懇願するかのように語り出した。
「本来であれば、リョータ殿に王の位を譲りたいぐらいたが、それでは禅譲にはならない。」
ヨッシー王はそこまで言ってから、しばらく呼吸を整えた後、再度話だした。
「結果を気にすることはない。全ての結果は、良くも悪くも、神仏がそれでよしとしたのだから、それで済んだことなのである。」
ヨッシー王は俺が何の実績もないことを不安に思っていることを見抜いているようだった。
「将来について心配することは重要であるが、全てを自分の思い通りにしようとは考えないことである。自分の理想が神仏の意にかなうとは限らない。」
「しかし・・・」
「結果は神仏のみぞ知るである。自分の考えと神仏の采配を比べ、この世の妙味を味わって欲しいだけだと捉えて貰ってもよい。リョータ殿にはその資格がある。」
「私に資格など・・・」
どの道にも、世の中には脇目も振らずに努力している人がいる。
ましてや王宮には、努力を超越した天才達がわんさかといるのだ。自分みたいな凡人にそういう人たちを手足のように使えるとは思えない。
「私には祈ることしかできない。」
俺はこちらの世界に来てからは、ずっと『傍若無人』の性格になっていたのだが、このときばかりは傍若無人ではなくなっていた。