142.日蓮上人
魔王城には牢屋というものはなかった。
不都合があれば殺害してしまうので、牢屋に入れるという概念がなかったのだろう。
そう言う訳で、俺達が幽閉された場所も普通の部屋であり、特に不快さはなかった。
(次に会ったときは何を話そうか・・)
それから、2、3日はファミット王子は現れなかった。
ザイード王子も今はここにはいないらしい。
全く不当な拘束ではあったが、特に批判するつもりはなかった。
(日蓮上人がこの世界にいたら、何をしただろうか?)
俺は暇を持て余し、そんなことをぼーっと考えていた。
日蓮上人といえば、時の政府を批判したことで有名だ。
しかし、日蓮上人が政府を批判するのに、仏典を何度も読み返したことはあまり知られていない。
今の世では、時の政府を批判することは、誰でもやっていることである。
しかし、当時の政府を批判すらことは命がけである。
実際に日蓮は伊豆の伊東に流罪となっている。
現在の野党のように、何でもかんでも反対を唱えればいい訳ではない。言いたいことを言えばいいのであれば、誰にでも出来る。
しかし、日蓮は違っていたのである。人間のやることに100%いいも悪いもないと理解していたのであろう。
したがって、人間の判断でものを言うのではなく、仏典から何が正しいかを導き出そうとしたのである。
なお、一切経はどんな名僧でも、1度読むのがやっという経典であるが、日蓮上人は一切経を5度読んだと言われている。
一切経のように読めば利益があるとわかっていても、なかなか読めないのが人間である。
現代でもどんな境遇に生まれても人並み外れた努力をすれば、成功できる道は用意されている。それでも人間はなかなか努力できずに、自分の不遇をかこつばかりである。
「南無妙法蓮華経か・・」
俺は何もしらないくせに感慨深そうにそうつぶやくと、
「ワオーン」
外からジローの遠吠えが聞こえた。