141.ファミット王子
すでに仕事に就いている人に、「どんな職業に就きたいか」と尋ねれば、医者や弁護士、先生など、立派な職業を並べるだろう。
一方、既に仕事に就いている人に「今の職業に就いていなかったら、どんな仕事をしていたと思いますか」と尋ねれば、「特に・・」と言った答えしか返ってこないだろう。
ここで、医者、弁護士、先生と答えられる人はそうはいない。
そう答えられる人は、自分の才能をほんとうに活かして働いている人であろう。
・・・・・・
魔人に囲まれてしまった俺は、特に抵抗することもなく、魔人達の後をついて行った。
(一度、魔人とはとことん付き合って見る必要がある。)
まだ何ものでもない俺にとっては、魔人を知る絶好のチャンスであり、これを逃す手はなかった。
連れて行かれたのは、第一王子ファミットの前だった。
現状、この城に王は存在せず、ファミットが実質的な王子とのことだった。
「祖父である前王は、人間どもに滅ぼされ、父はそれを知って激しい怒りのもと憤死してしまった。」
ファミット王子からは壮絶な過去を聞かされたが、俺は全く違うことを考えていた。
(憤死か・・。やはりピンと来ないな。)
俺も一時期は小説家になりたいと思っていたが、どうしても「憤死」や「血の涙」などの感情がストレートに感じられず、
(これでは小説家になる資格がない。)
と、諦めてしまった過去を思い出していたのだったのだ。
すると、ユーコが横から俺をつんつんしてきたかと思うと、ファミット王子から叱責するような声が聞こえてきた。
「おい!聞いているのか!」
「あー、はい。」
「それとも、何か言いたいがあるのか?」
「いえいえ、突然のことで、心の準備が出来ていないだけだ。」
俺がそう答えると、
「どちらにしても、今は忙しい。こいつらを幽閉しておけ」
そう言って、ファミット王子は部屋を出て行ってしまった。