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魔獣

 

 午後十一時。

 幕張メッセの大型駐車場。


「……予想以上に大物だな、こりゃあ」


「…………うん」


 私達二人は、その中央で仁王立ちする巨大な牛の怪物を、付近にある歩道橋の上から目撃する。


 頭部は牛で身体は人間。それもかなり筋肉質。

 その巨体に見合うほどの巨大な斧を持っており、身体中に黒煙を纏っていた。


 まだかなり距離があるはずなのに、それから発せられる殺気が、こちらにはっきりと伝わってくる。どうやら、余程強力な怪物であることは間違いないだろう。


「姫乃、魔獣と闘った事は?」


「一回だけ。あの時は、他にも魔法少女がいたから倒せたけど……」


「参考までにその魔獣の名前は?」


「確か……〝クイーンバタフライ〟とか言っていたような気がする。魔獣の中では、下級の方だとは聞いたけれど」


「そうか。ならここで悲報だ」


 蘭さんは、ニヤリと白い歯を見せて笑う。


「……あの魔獣は〝ミノタウロス〟。魔獣の中でも上位に匹敵するとも言われている、超強力な怪物だ。とある言い伝えによれば、ヤツの力によって起きた地震によって、町一つが壊滅したとも聞く」


「町一つ⁈」


「その上、とんでもねぇデカブツときた。通常の個体と比べても、かなりの大物だ。こりゃあ文字通り、死ぬ気で闘わねーと。二人だけとなったら尚更だ」


「…………」


 どうやら、魔法少女人生史上最悪の状況に直面しているようだ。蘭さんの言うことが本当であれば、最悪ここで死ぬかもしれない。


 恐怖のあまり、足は小刻みに震えているし、脳内は真っ白になっていくし、心臓の鼓動も激しくなっている。少しばかり、吐き気も感じる気がする。


 まじでやばいもうやだ今すぐ帰りたい。


「……如何にもいやだっていう顔してるな。ホントお前は顔に出やすいんだから」


「だってぇ……、まだ私やり残していることたっくさんあるんだもん! うぅ……死ぬ前にチェリーパイ、たらふく食べたかったなぁ……」


「死ぬ前提で話を進めるな。しかも、何故そこでチェリーパイ……。分かったよ、この闘いが終わったら、お前に大量のチェリーパイを奢ってやるよ」


「え? それホント?」


「頑張り次第ではアニソンCD一枚を追加してやる」


「え、マジかそれだったらまじ頑張るありがとう蘭さん大好き!」


「随分と安っぽい愛だなそりゃあ……。それだけでやる気になれるお前の気が知れねぇよ」


 単純過ぎる、と隣で溜め息を吐く蘭さん。


 仕方ないじゃん。最近駅前で食べたチェリーパイが頰が落ちるほど美味しかったんだから。以来、あのチェリーパイがマイブームになっているし。


 まぁ、それはさておき。


「敵の情報とか、何かある?」


「ん、そうだな……」


 遠目でミノタウロスを見つめつつ、蘭さんは腕を組んだ。


「まず、ヤツの弱点は頭だ。身体は装甲のようなもので覆われているから、攻撃が通らない。その上、ヤツは頭に神経が集中している。だから、狙うとしたら無防備な頭だろうな」


「了解」


「あと付け加えるならば、ヤツは攻撃速度はかなり速いが、移動速度がそこまで速くない。多分、身体の装甲が影響しているだろうが」


「……となると、私が遠距離から援護した方がいいということかな?」


「そうだな。んま、一番手っ取り早いのは……」


 ジーパンのポケットに手を突っ込んでイヤホンを取り出した蘭さんは、満面の笑みを浮かべる。


「……ひたすら叩く! それだけだ!」


「…………はは」


 一語一句、予想通りだった。

 ま、蘭さんは常にこういう人だからな。


「さてと。んじゃ、さっさと変身すんぞ。ヤツが本格的に動き出す前に、な」


「わかっていますよっと」


 そう言って、私はヘッドフォンを耳に掛ける。


 音楽プレイヤーの液晶を操作し、お気に入りのアニソンを選曲すると、意識を集中させるために目を瞑った。すると、スピーカーから流れるアップテンポなリズムと共に、体内の魔力が活性化されていく。


 ギターの旋律やドラムのテンポ、ベースの刻みといった様々な音と共に、魔力が身体全体に行き渡っていくのを感じる。


「…………」


 身体中に魔力が完全に行き渡ったのを感じ、私は目を開ける。ふと目を移したその姿は、ピンクのパーカーから魔法少女の衣装へと変わっていた。


「お、姫乃も変身を終えた所か。ナイスタイミングってとこだな」


「その様子だと、蘭さんも終わった感じかな」


 私は声のした方へと振り向く。


 蘭さんのその姿は、まるでロックスターの様なものだった。鎖のアクセサリーが目立つライダースジャケットを身につけ、下にはハーフパンツを履いていた。


 黒を基調としたその衣装は、私でも見惚れてしまう程のカッコよさだった。


「おう、私も丁度終わった所だ。てかいつまで凝視してんだよ。流石の私でも、少々恥ずかしいんだが……」


「あ、ごご、ごめんごめん! いつ見てもカッコいいものだからつい……。私のなんか、こんな可愛げのないものだから」


「何言ってんだよ。私は中々可愛いと思うぞ? てか姫乃は顔が整ってるから、基本どんな服装でも似合うだろ。もう少し自身を持ちな」


「え〜〜、そんな事ないよ。やだなぁ蘭さん、お世辞でも止めてよそういう事言うの〜」


 そう口では言うものの、どう堪えようとしても頰が緩んでしまう。


「私が変な冗談を言わない事なんざ、姫乃が一番分かってんじゃねぇか。今のは素の感想だぜ? 全く、羨ましいもんだぜ」


「そんな大袈裟なぁ……。そういう蘭さんこそ、スタイリッシュで大人っぽく――――ッ⁈」


 ――つい言葉が詰まってしまった。


 嫌なものを感じ取った。

 背筋が凍っていく。


 私はその方へ目を向ける。


 見ると、先程まで静止していたミノタウロスが徐々に動き始めていた。斧を両手に持ち直し、体制を前に屈めていた。


 そして、その大きな頭部を横に振るわせたかと思うと――。


『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』


 ……耳が劈くほどの咆哮を轟かせた。

 状況を理解した私は固唾を飲んだ。


「……とうとう動き始めたね」


「あぁ……まずいな」


 そう呟く蘭さんは、両手を前に広げ、そこから放出された魔力で大剣を生成する。そして、そのグリップを掴み、前に構え直した。


 ファッションにも取り入れられている、銀色の鎖を鍔に巻いたその大剣は、刀身に炎を纏わせ、強力な魔力を辺りに漂わせる。


「……ちゃっちゃと蹴りを付ける。行くぞ、姫乃。援護は頼んだ!」


「了解ッ!」


 私が言葉を返すと同時に、蘭さんは歩道橋を高速で直進し、そして駐車場に向かって高く飛び上がった。


 蘭さんが契約した〝情熱〟の悪魔の能力だろう。共鳴している間、自身に眠る情熱の炎を滾らせ、身体能力の強化や怪力などの効果を発揮できるものだ。


 私のチカラと似たり寄ったりだけれど、流石に怪力は持ち合わせていない。序でに言えば、大剣を生成することもできない。契約した悪魔の種類によって、できることが違うので、中々ややこしいものだ。


「……よし」


 覚悟を決めた私も、魔力を活性化させ、蘭さんの後に続くように飛んだ。


 着地地点は、料金所の屋根の上だ。


「……っと」


 狙い通り、無事屋根の上に着地した。

 私は、蘭さんの戦況を確認すべく目を凝らす。


 見ると蘭さんは、物凄いスピードでミノタウロスに近付き、引きずっていた大剣をヤツに目掛けて斜め左に振り上げ、一閃を放つ。


「うりゃッ……!」


 叫び声と共に鈍い金属音が辺りに響いた。


 確かに一撃は入っていた。

 しかし、ヤツの装甲が予想以上に硬く、ビクともしていない。


『フシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ…………』


 荒い鼻息が響いたかと思うと、ミノタウロスは両手の大斧を振りかざした。


 その瞬間、金属同士のぶつかる音が、衝撃と共に辺りに広がっていく。


 一瞬の出来事だった。

 あまりにも速すぎて見えなかったが、ヤツは振りかざしたその斧を、とんでもないスピードで蘭さん目掛けて振り下ろしたようだ。


 一方の蘭さんは、大剣を地に突き立て、ヤツの一撃をなんとか受け止めていた。対応できたのは、彼女の直感によるものだろう。彼女ほどの実力者でなければ、先程の一撃で即死だった。


 しかし、彼女の防御ももはや意味も為さず、そのまま容易く吹き飛ばされてしまった。


「蘭さん!」


 二、三回地面にバウンドし、着地する蘭さん。しかしあの一撃で怯んだのか、動きが止まった。


 まずい、蘭さんに隙が生まれた。

 その上、ミノタウロスが彼女に向かって動き始めている。このままだと、蘭さんが危ない。


「ッ! 止まれーーーーッ!」


 私は絶叫と共に、魔力でスナイパーライフルを生成する。そしてそれを構えると、考えるより先に引き金を引く。


 同時に、発砲音が辺りに木霊する。


『グ……⁈ グォォォォオオオ……!』


 ミノタウロスは苦痛の声音を漏らした。


 私の放った弾は、見事にヤツの頭を直撃していた。

 貫通はしなかったものの、重い射撃が頭部に直撃し、足止めどころかかなりのダメージを負わせることができたようだ。


「でかしたぞ姫乃!」


 蘭さんの声がこちらに飛んでくる。


「この調子で行くぞ!」


「うんっ!」


 私はライフルを生成していた魔力を分解すると、今度は二丁のサブマシンガンを生成する。そして、高く跳躍し、屋根から飛び降りた。


 さて、ここからが正念場だ。


 アスファルトの地に着地した私は、頭の隅でそう考えるのだった。




〝感情の悪魔〟に関する詳しい情報は、また後程詳しく説明していこうと思います。ですのでそれまでは、彼女達の闘いを温かく見守ってあげて下さいね。

因みに、今回の舞台である駐車場は、実在している所をそのまま使っています。通学路を自転車で走りながら眺めつつ、どう闘わせようかと想像を膨らませております。

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