024
「ああっー!いっちゃうって!」
「ああっー!らめえええええ!」
「ああっー!ちきしょーーー!」
エインヘリアル艦隊は、ラグナロク艦隊とバトルドール大隊の包囲が完成する前に、すたこらさっさと逃げ出した。
エインヘリアル艦隊は、ルートの出口周辺に配置していた、まだ作動していない宇宙機雷を操作してラグナロク艦隊に突入させて来た。
対艦用の宇宙機雷も直接操作して自爆させれば、バトルドールに大きなダメージを与えられる。
混乱した隊列に集中砲火を浴びせたエインヘリアル艦隊は、そこを強行突破して行った。
後を追うラグナロクの第二、第三艦隊の前方と側面には、第五火星の衛星〈第五フォボス〉と〈第五ダイモス〉から射出された戦艦の残骸が襲いかかる。
第五フォボスと第五ダイモスには採掘した資源を搬出する為に、いくつものマスドライバーが建造されている。
それを利用して、爆薬と残骸を満載した修復不可能な戦艦を打ち出して来やがった。
案外やれば出来る子だったマスターは、ここまで想定していたようだ。
不動明王のブリッジで、小さく舌打ちした鈴鹿姫はすぐさま回避行動の指示を出した。
マスドライバーを固定砲台がわりに使ってくるなら、その射線に入らないようにすれば良い。
これだけなら、だけど。
まったく…必死な奴ほど何をしてくるか分からない。
マスターは私たちが生き残る事を信じての攻撃だろうけど、それにしてもその一つひとつの攻撃が、笑えない程の威力がある。
もし自分だったら…
これを見た人間は、さぞ肝を冷やしているだろう。
言葉だけでは伝えきれない人間の愚かさを、この世界と人間に思い出させる事がマスターの狙いという事か。
マスターがそのつもりなら、こちらも遠慮なく行かせてもらおう。
鈴鹿姫は宇宙機雷や残骸を無視して艦隊を進める。
ダメージを受けたバトルドール大隊は輸送船に回収したが、ほとんどの者が課金アイテムを使い果たしていた。
補給と回復は通常のアイテムを使用する事になるので時間が掛かる。
暫くはギルド艦の遠距離砲撃で応戦する事になりそうだ。
しかし次から次に良くやるもんだ。
エインヘリアル艦隊は一目散に逃げ出したかと思いきや、いらない置き土産を撒き散らしていった。
《宇宙煙幕》
宇宙戦闘用トラップのひとつで、その名の通り宇宙空間に煙幕を張る。
ただ実際は煙では無く特殊なガスを散布して、カメラの光学的妨害や、レーダー波の吸収や撹乱などをするのだが、他に索敵方法がない以上、実際の煙幕より厄介だ。
しかし一見便利なこのトラップも大きな弱点がある。
それは使用した相手側からも、こちらを索敵出来なくなる事。
広範囲に撒かれた宇宙煙幕を回避して進むか、突っ切るか…
こうしている間にも、マスターは次のイタズラの準備をしているかも知れない。
こんな思考の時間ロスさえ、マスターの狙い通りだと思うと余計に腹が立つ。
不動明王のブリッジではメンバーが鈴鹿姫の指示を待っている。
指揮卓の上で正座している不動明王も、モジモジしながらこちらを見る。
「前進。」
鈴鹿姫の一声で、不動明王を先頭としたラグナロク艦隊は宇宙煙幕の中に突入を開始した。
◆
「来ますかね?」
「…。」
「来なかったらどうします?」
「…まあ、それはそれで。」
宇宙煙幕を散布し終えたエインヘリアル艦隊は、反転して煙幕の中でその動きを止めた。
時間稼ぎにぶちまけた宇宙煙幕はギルド艦の各種センサーを無効化するだけでなく、無線での通信やバトルドールの動作も極端に低下させる事が出来る。
では、どうやって相手を見つけるか!
答えは簡単!《目視》
スペーススーツにケーブルを取り付け、直接宇宙空間に出て相手を探せば良いのです!
説明した時のみんなの顔…
特に茜と飯綱の目は、いま思い出してもゾクゾクします。
それは一体誰がやるの?
当然のそんな疑問の声も、俺が手を挙げた途端に怒号に変わった。
『お前は司令官だろうが!』×みんな
こんなやり方、ゲーム時代にも当然無かった。
まず間違いなく危険なこの行為!
やりたくないからお前がやれ!
そんな事は言えないし、言うつもりもない。
それにあの子たちがどう出るか、この目でちゃんと見ておきたい。
「止めても行くんでしょう?」
そう言って飯綱がスペーススーツを用意してくれた。
「ただし千手観音の外壁まで!それ以上は無理しない事!分かった?」
「やっぱりやめませんか?」
「戻るのだって怖いんだから、ここまで来たら一緒でしょ!?」
緊急用脱出ハッチから宇宙空間に出た俺は、小型の電磁式マグネットを使って船体にへばりつく。
俺の後ろには、俺とケーブルで繋がれた男がもう一人。
やめなさいって言ったのに、艦長の諭吉まで着いて来た。
「貴方にばかり美味しい思いはさせませんよ!」
美味しいか?えっ!?
荼枳尼天で一度経験しているとはいえ、やはりこんな事は戦場でやる事じゃない。
こんな事を想定して作られていない船体は、とにかく進みづらい。
特に三星重工の戦艦は、流線型のユグドラシル製とは違い、角ばった直線的なデザインとなっている。
目の前に現れる巨大な壁。
いま自分が登っているのか、下っているのかさえも分からない。
そんな艱難辛苦を乗り越えて、俺たち二人は千手観音の船首部分までやって来た!
なぜ…
ここまで来る必要は無かったのに…
ケーブルが思いのほか長く、気が付けばこんな所まで来てしまった…
船首部分に男が二人、体育座りで並んでいる。
身体が浮き上がらないようケーブルとマグネットで固定しているが、不安定なのは変わらない。
散布した宇宙煙幕は、薄い靄のように広がり遠くまでは確認出来ない。
星の光も届かないこの空間で聞こえるのは、二人の呼吸音のみ。
寂しい…しかも男二人…
「…あの…白瀬さん。」
「な〜に?」
「このまま逃げてもらえませんか?」
「…どうした急に。」
「もう十分です。今ならまだ間に合うかもしれません。貴方は私たちに脅され、仕方なく協力した。全てを私たちのせいにすれば、貴方だけでも…」
「茜ちゃんや、シーサーたちはどうする?」
「…みんなにも…説得します。私たちと一緒にいては…それに、暴力で手に入れた権利は所詮ニセモノです。いまは良くても、いつかまた争いは起こります。そこにみんなを巻き込みたくないから。」
それに、あの人に見せる事が出来た。
もう、大丈夫だよって。
ちゃんと自分の足で歩いて行けるって。
やっと伝える事が出来ました。
だから…もう心配要りません。
「うりゃ!」
気持ち良さそうに、恥ずかしい事ばかり言う諭吉のケーブルを取り外し、軽く突き飛ばす。
ふわふわと宇宙空間に飛ばされそうになった諭吉は、必死の形相でケーブルを手繰り寄せる。
何か叫んでいるようだけど、聞こえないから!
『はあーー!』
再びケーブルを繋いだ諭吉は、口から何か出しそうな勢いで叫び、俺の身体をガックンガックン揺らして来ます。
「俺は君たちに協力なんかしていない。ただ利用しているだけだよ。」
俺には夢がある。
俺の大好きなこの世界を、大好きだったと過去形にしたくない。
俺がこの世界から去っても、この世界にはずっとあの頃と同じであって欲しい。
その為には大掃除が必要だ。
この世界のみんなが平等な訳がない。
平等は与えられるものじゃなく、自分で勝ち取るものだから。
だからいまは何も見えなくても、とにかく前に進んで欲しい。
あとは俺がなんとかする!
俺のケーブルを外そうとする諭吉を必死に止め、二人で笑う。
「みんな同じだよ。みんなもここに居たいから居るだけさ。ここに居る事に意味があるから居るだけ。だからみんなを信じろ…何があっても!」
諭吉は黙って聞いていた。
ただ一点を、霞む視界の先に現れた無数の光を見つめながら。
◆
ラグナロク艦隊は宇宙煙幕の中をゆっくりとした速度で進む。
艦隊は密集し、ギルド艦同士をケーブルで繋いでいる。
何も見えず、何も聞こえないこの空間は、濃度にもよるがあと半日は消えない。
煙幕内の両軍は外からも確認出来ず、まるでこの宙域から消えたように見えるだろう。
白瀬の指示でエインヘリアル艦隊は、ラグナロク艦隊を避けるようにゆっくりと動き出す。
なんとか接触は免れた。
すれ違い交差して行くラグナロク艦隊を見送ると、白瀬はエインヘリアル艦隊に転進を命じた。
ラグナロク艦隊が煙幕を抜けた。
白瀬はエインヘリアルの全艦に主砲を近距離用に切り替えさせ、突撃を命じた。
ラグナロク艦隊の背後をつく。
そうなると思われた。
だが、エインヘリアル艦隊が煙幕を抜けると、ラグナロク艦隊はすでに回頭を開始している。
んも〜う、読まれてるじゃん…
まあ、それでも側面は突ける!
砲撃開始を命じると、一拍あけて光の束がラグナロク第五艦隊の側面に突き刺さる。
はて?なんでしょう、いまの間は?
『早く戻らんかい!!!』
茜の怒号と共に千手観音をわたわたと飛び出した荼枳尼天が、俺たち二人を握り潰さんばかりに回収すると、本格的な砲撃が開始された。
ラグナロク第五艦隊は、こちらに側面を晒したまま左右に展開し、第五艦隊を盾にした他の艦隊は回頭を終え、その隙間から応戦する。
一隻、また一隻とエインヘリアル艦隊は徐々その戦力を削られ、傷ついたギルド艦は次々と戦線を離脱して行く。
ラグナロクの第三、第四艦隊はエインヘリアル艦隊の両側面に展開し、砲火を集中させる。
傷ついた第五艦隊は後方に下がり、残る四艦隊に半包囲されたエインヘリアル艦隊は、ジリジリと後退し、再び宇宙煙幕の中に押し戻される。
ラグナロク艦隊の砲撃は止まらない。
レーダーからロストしても、そこにいる。
狙いを定める必要もない。
ただ、撃って撃って撃ちまくる。
「ここまでかな…第五フォボスに連絡!さあみんな!しっかり着いてこいよ!」
ブリッジに戻った俺と諭吉は、艦隊に指示を出し、慌ただしく準備に入る。
戦闘よりも、こちらの方が難題だ。
緊張感に包まれたブリッジに諭吉の声が響く。
「大丈夫。みんななら出来る。さあ、行こう!」
◆
ラグナロク艦隊からの砲撃が止まった。
不動明王のブリッジで鈴鹿姫は首を傾げる。
全滅したとも思えないし、何か狙っているのだろうか?
でも、この状況で何が出来る?
煙幕の正面には第一艦隊と第二艦隊、左右には第三艦隊と第四艦隊が取り囲むこの状況で。
後方に下がった第五艦隊はダメージが大きいものの、旗艦ヨトゥン艦長の霜月に任せておけば心配ない。
第二艦隊旗艦スルト艦長の不知火、第三艦隊旗艦愛染明王艦長の咲耶、第四艦隊旗艦孔雀明王艦長のかぐやの三人からは、突撃開始の催促が相次ぐ。
煙幕内では同士討ちの危険もある。
鈴鹿姫は全艦に突撃ではなく、このまま遠距離砲撃での攻撃を命じた。
その時、後方の第五艦隊から通信が入る。
第五フォボスから、また数十隻の戦艦が打ち出された。
高速接近する戦艦は第五艦隊の砲撃により、そのほとんどは撃破出来たが数隻が突破し、第五艦隊と四つの艦隊の間で爆発する。
冒険者たちの注意がそちらに向いた瞬間、宇宙煙幕内で異変が起きる。
まるで何かにえぐられたように、突然煙幕の一部が消えた。
鈴鹿姫は砲撃を中断させ、辺りの索敵を指示する。
エインヘリアル艦隊はすぐに発見された。
それは第五フォボス周辺宙域。
やってくれる。戦闘中にワープとは恐れ入った。
確かに連中なら第五火星周辺の全域を把握していてもおかしくない。
報告を受けた鈴鹿姫は、艦隊の立て直しを各司令官に指示を出す。
モニターに映し出された第五フォボスからは、ご丁寧に宇宙煙幕が大量に散布され、その姿を消していく。
数で勝るラグナロク艦隊と対峙するのだから、そりゃあ用意周到だよね。
第五フォボスでの籠城戦か。
物資の減ったこちらと違い、あちらには十分な余裕があるのだろう。
時間を掛ければこちらが不利。
艦長席に座ったままの鈴鹿姫の独り言を聞いて、不動明王は言葉もない。
第五フォボスを消滅させたら、さすがにマズイかな?
なんとか2月中に投稿出来たε-(´∀`; )
それとですね。
もう一つ!テトの日記も更新しますので良かったら読んで見てください。
2つ書いたから、遅くなったんじゃないよと言い訳してみる十でした!




