詳シクハ、Webデ
「それで奇襲のつもりか?」
一虎達の覗く映像の中で、アインはくるりと背後を振り返って、襲撃者、反咲柳児に気だるげにそう言った。だが、それはただ言葉だけを放ったわけではない。同時に銃弾を伴った、苛烈な問いだったのだ。しかしそれに対する柳児も、無策ではなかった。
「成り果てろ、ゴミ屑に!」
彼は小さく呟くと、言葉に先駆けて広げた両腕、その両手を覆う黒い手袋を交差させていた。
瞬間、柳児と一緒に落ちてきていた巨大な瓦礫の群れが、急速かつ不自然にその軌道を変えてアインに殺到。柳児に迫る銃弾の辿るであろう射線を塞ぎ、攻撃と防御を両立させる。
だが、
「賢しいな。だがそれだけだ」
アインの〔滅多撃〕が、瓦礫を迎え撃つ。自動車ほどもあった灰色の群れが、瞬時に爆砕。一部が粉塵となって周囲を煙り、白く包む。
その状況に対し、
「なるほど、この煙、計算ずくか」
呟いたアインは、煙の先に姿を消した柳児に、しかし背を向けた。背後を振り返った銃口。その先には、煙をぶち破って現れる小柄な影。
それは、
「失礼イタシマス」
車椅子を押してアインを轢き飛ばさんと迫る、キノコのような形状の〔形人〕、桧王だった。小柄ゆえか、軽量ゆえか、脚が霞んで見えるほどの速度で突っ込んできた桧王に、さしものアインも銃撃から横スライドの回避へと行動を切り替える。
いや、
「そんな速度で、かわせるのか?」
アインのその行動は、ただの回避ではなかった。高速で走るがゆえ方向転換の難しい桧王の背後をとる、攻防一体の機動だったのだ。投げかけられるアインの問いは、当然のごとく銃弾を伴った危険極まるもの。
轟く銃声。
しかし、
「これは・・・」
アインの右手が握る拳銃は、なぜか上空へ向けて銃弾を発射していた。傍目から見れば、なぜアインがそうしたのか、もしくはそうされたのかはわからない。だが不可解な現象を受けた当人だけは、正確に、右腕が感じるその感触で状況を把握していた。
「そうか。自殺志願者A、お前は・・・」
だが、それを最後まで言い切る前に、
「〔傀儡柔法〕・〔一本背負〕」
煙の奥から、自殺志願者A、柳児の声が届く。
同時、アインの身体が、右腕を中心に中空に投げ飛ばされた。態勢を崩したアインの身体が力に引かれるまま、一時的に制御不能となり、〔拘束衣〕の裾がはためく。
そこへ、
「〔傀儡柔法〕・〔二本沈没〕」
たった今アインの側をすり抜けて言った桧王の身体が、柳児の声に応じて、疾走の慣性そのままに跳躍。どういう原裏か、ハンマー投げの鉄球のように桧王の身体が空中で大きく弧を描き、反転。宙返りをうって、女の胴体に強烈な木製の頭突きを叩き込む。アインの身体がもろに衝撃を受けて吹き飛び、廃ビルの1つに激突。脆い壁面を突き破ってビルの内部へとぶち込まれる。
さらには、
「〔傀儡柔法〕・〔七本達磨〕」
柳児の声に続き、ビシリという何かが砕けるような音。そして音が聞こえたとほぼ同時に、アインのいる廃ビルが真下に向けて倒壊。爆破によるビル解体もかくやという勢いで、内部にいるアインを圧し、制す。
そして、
「自殺志願者A?そいつは違うな」
薄れ始めた煙の中から現れる長身。長い黒髪を攻防の余波に靡かせ、傍らに桧王を引き連れた反咲柳児は、片頬を吊り上げた皮肉げな笑みで言った。
「俺は〔反咲工房〕の〔武装化職人〕!〔工学系裏論使い(ディベーター)〕、反咲柳児!そしてお前を下した武装、俺自身が作り、俺自身によって行使された〔操十糸〕こそが!」
手首に円形の物体がついた黒い手袋を示し、柳児は叫んだ。
「メンテナンスからアフターケア、マイナーチェンジからアップグレードまで請け負う〔反咲工房〕の!世界最高品質の〔裏論武装〕だ!」
同時、桧王の背中がバカリと音を立てて開く。そこから二本の竿が伸び、遅れて吊り上げられた幟には〔打飛目玉〕、〔天地愕愕〕なる文字列と、ウェブサイトのアドレスがでかでかと書かれている。
そして、
「詳シクハ、Webデ。ゴザイマス」
桧王が、淡々と渾身の決めゼリフを放った。




