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 暗闇の中、竹叢一虎は立っていた。

 朝から降る雨音だけが支配する空間の中、少年は微動だにせず、ただ待っていた。



『これで・・・』



 しかし、



『これで、いい』



 ほんの数時間前、とある真実を知ってしまった彼の胸中には、



『これでいいんだ』



 自分に言い聞かせるようにそう繰り返す少年には、



『これ、で・・・』



 その真実へ、独りで解決への答えを出してしまった彼には、まだ断ち切れぬ迷いがあった。

 これから自分がやろうとしていること、そこに生じる罪悪感が、一虎の頭から離れない。

 一虎は、皆に確かな意志を示した。

 そして手にした友情を頼り、

 そして与えられた課題を努力し、

 そして勝利へ。皆と同じ方向へと、確かに向かっていた。

 全てがうまくいくのだと、成功を信じた。

 だというのに、



『僕は・・・』



 黒を基調として黄色のラインが奔る戦闘用ジャージ、その左腰に差した〔抜刀(ぬきがたな)〕が重い。一虎の気持ちを反映したそれは、闇の中に溶けて、光を放つことはなかった。

 そうして沈み思う一虎に、傍らの闇が声をかけた。



「行くぞ」



 一虎は、その声には答えずに顔を上げた。迷いも罪悪感も抑え込んで、前を見た。

 目の前にあった扉がゆっくりとせり上がり、足元から眩い白の光が差し込み、黒を侵略する。同時に一虎の側にあった静寂も、歓声によって掻き消されていく。

 しかし、



『僕は』



 一虎の心が晴れることはなかった。





「これはどういうことでしょうか?」



 歓声に満ちていた純白の多目的アリーナがその声をどよめきに変えた頃合いに、全学年主任たる鎌足縁は、上部の〔教師陣(ティーチャーズ)〕専用席、子供赫夜を抱えたアインの隣から声を放った。言葉が放たれた先には、〔模擬論戦(プレゼン・ディベート)〕決勝の舞台に似つかわしくない人物がいた。

 つまり、



「あ、えっと、その」



 〔お前は誰だ?〕と視線で問う観衆に怯える、一虎だ。そんな彼を守るように、黒いサングラス型の3次元ディスプレイを眼前に表示させ、腰に鉄色の金属のボールを3つ付けた少年が前に出る。黒を基調に、紫のラインが奔った戦闘用ジャージを身に纏う黒髪の長身に続き、彼の従者らしきキノコのような〔形人(かたひと)〕も並ぶ。鋭い紫水晶の瞳を黒のディスプレイグラス越しに見せるその少年に、鎌足が作り物めいた笑みのまま問うた。



「ご説明頂けますか?反咲柳児くん?」



 すると、一虎の前に立った少年、柳児は言った。



「その前に1つ質問をいいですか?鎌足先生?」

「はい?」

「説明が必要ですか?というか、何が疑問なんでしょうか?俺には、それがわかりません」



 柳児の言葉に、状況を掴めない観客や、鎌足の隣で右往左往している〔教師〕の鞍馬、さらにはこの件に関しては何も聞かされていない一虎も驚く。この場にいる全ての人間を挑発しているとしか思えない柳児は、しかし余裕の笑みを浮かべて鎌足を待つ。そして全学年主任にして稀代の〔弁論術士〕たる男は、相変わらずの偽笑を浮かべて観衆の疑問を代弁する。



「ええ、ではお聞きしましょう。まずこの場は、アナタと天出雲深夜さんの〔模擬論戦(プレゼン・ディベート)〕、そしてトーナメント決勝の場です。しかしそこにはなぜか、あろうことか用意された全ての〔模擬論戦(プレゼン・ディベート)〕を棄権・敗退した竹叢一虎くんがいる。これはおかしいことではないですか?」



 その言葉に乗って、不正を責める観衆の視線が2人に集中。しかしそれを涼しく受け流して、柳児は右手に装着した黒革のグローブ、〔操十糸(ストリング・ドライバー)〕の掌を上向けて鎌足に問い返す。



「鎌足先生、俺からも質問だ。そもそもこの〔模擬論戦(プレゼン・ディベート)〕は、〔論戦〕における最少単位の戦闘集団、〔三段論法〕の結成を促すためのイベントですよね?」

「ええ。その通りです」

「だったら、何が問題ですか?なぜなら俺は・・・」



 柳児は、そう言って一虎の肩に腕をかけ、言った。



「俺はコイツと、竹叢一虎と、〔三段論法〕を組もうかと思ってる」

「え・・・!?」



 一虎が驚くと同時、会場がザワリと波を打つ。

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