蠢く
「汚野校長は~、本来〔次世代〕を連れて行く〔遠征〕において、毎年必ず単独行動をと~る。それは~、校長先生様が展開する本気の〔裏論〕が周辺一帯を無差別破壊する特性ゆえで~、しかしその超広域制圧力を利用して~、多くの〔巣〕を単独で殲滅出来るのであ~る。つまり~、〔依頼者〕はその状況を利用しようというプランを立てていたんすね~」
「〔依頼者〕、だと?私はそんなプランを出した覚えはないぞ!?」
鋼坂は、言いながら足元に倒れていた魚頭の異形、〔深きものども〕の一体に脚をかける。その行動に、
「おいワレ、何をしよんじゃ?」
汚野は、ドスの聞いた声で恫喝する。しかし鋼坂はそれに応えることもなく、〔深きものども〕の一体に長袖に覆われた右手を近づけながら、勝手な話を続ける。
「俺ら〔企業群〕の〔傭兵〕は~、〔金を払った奴〕に従うだけなんですよ~。だから〔次世代〕を守ろうっていう校長の健気な活動も、担当官の青臭い裏念も、関係ないんです~」
そして、
「だ~か~ら~、汚野校長と、〔修行〕と称して毎年喧嘩をしてる〔深きものども(コイツ)〕らに、こんなこともしちゃうわけで~す」
「ワレ、まさか!?逃げろ!アルファロ!」
汚野が動こうとした、瞬間。
バボ!
ツインテール女の笑みが、その右手から放射された爆炎に照らされ、魚人の頭が緑の体液をまき散らして四散した。同時、汚野によって倒されていたはずの〔深きものども〕がその身を起こし、鋼坂と汚野、映像の美作を取り囲む。
そして、誰よりも早く、
「ワレぇえええええええ!」
「へ~コイツアルファロって言うんだ~。知りたくね~」
汚野が鋼坂の重装甲の胸倉を掴んで引き寄せた。とてつもない膂力によって掴んだ重装甲を砕きながら、笑みを浮かべる女を地面から60cmも持ち上げた。
だが、
「やっぱ怒りますよね~。そりゃそうだ~。だって〔深きものども〕は、アンタが〔交渉〕によって停戦協定を結んだ〔非敵性〕の〔裏生物〕ですもん、ね~!」
締め上げられた鋼坂は、言葉の語尾を伸ばしながら汚野の厚い胸板を蹴った。胸板に彼女の足裏が当たると同時、先ほどと同じく爆裂。女は汚野の恐るべき握力を引きはがして後方に着地する。
同時、
「〔非敵性〕・・・?停戦協定・・・だと?そん、な!鋼坂!貴様、それをわかっていてなぜ〔深きものども〕に攻撃を!?そんなことをすれば・・・!」
「ワレの狙いは、つまりこういうことか」
鋼坂の意図。
それを示そうとするように、蠢く影が、映像の美作と汚野を幾重にも囲む。
つまり、
「そ~っす~。つまり〔金を払った奴〕は、〔論害〕の暴走と報復をお望みなんですね~。しかもコイツらの裏野への侵攻と到達を、〔模擬論戦〕の決勝に合わせないといけなくて~、こんな時期になっちゃったんですよね~」
芝居がかった調子で、鋼坂がツインテールを揺らして肩をすくめる。
「とはいえ~、アンタ様方は困りますよね~。このままじゃ~、コイツらは報復のために裏野に侵攻しますよ~?汚野校長は、どうにかしてコイツらを止めないとね~?〔修行〕と称して稽古をつけた、弟子みたいな存在である、コイツらを~?」
言って、鋼坂の右手が、天を仰いだ顔を、嘆くように覆う。
「ありゃ~、そりゃ~義理堅くて有名な校長じゃあ殺せないか~。でもさ~、確か〔深きものども〕って~、〔世界革命〕で敵主戦力を務めた豪傑揃いですよね~?だから停戦協定なんて、本来殲滅されるべき魚野郎共に、〔世界革命〕の勝利者である人間様が、譲る形をとってたんですよね~?そんな連中が本気でキレてるのに、殺したくないなんて思ってる校長先生様は、止められるのかな~?そんな超ヤバい〔論害〕が、裏野に到達したらどうなるのかな~?」
「ワ、レ・・・!」
鋼坂の右手、親指と中指の先端を合わせたそれが持ち上がり、
「まあ、ここで迷いながら裏野侵攻を食い止めるしかない、なんとか〔交渉〕に持ち込んで、しかし栄誉の戦死を遂げることになるだろう校長先生様には関係ありませんか~。ああ、大丈夫~、ちゃんと逃げ道は俺が通った後に全部潰しますし~、通信は全部遮断しますからね~」
女の指が、長袖の中で1度パチンと音を立てて弾けた。
そして数瞬の後、
ドッ!
と、音を立てて、鋼坂の背中が爆轟に包まれた。重装甲に艶めかしい炎の舌を這わせた女が、ケラケラと笑う。
だから、
「美作担当官!この事態をすぐに鎌足に!オメェさんの処分は後まわしだ!」
「は、はいいいいい!」
汚野は、この緊急事態を収束すべく、そう叫んでいた。
しかし、
「〔金を払った奴に従う〕。それが俺らのルールなんですよね~」
炎の中を涼しげに後退していく鋼坂が、嘲笑の中にそんな言葉を混ぜる。
途端、
「う、あ、なんだこれ、なんだ一体うげあああああああ!?」
「美作担当官!?」
映像の美作の右手、封書の中から、黒い蛇のような物体が這い進み、男の口から体内に侵入する。その様を見て、さらに白い歯を笑みに向いた女が言った。
「あ~そうそう、その封書ね~、それはアンタ様の〔遺書〕ですよ~?だって今回のプラン、汚野校長を狙ったのも、裏野に〔裏生物〕が進行したのも、全部美作担当官によるものですもんね~?責任とって、自害したっておかしくないですよね~?ああ大丈夫~、俺の〔毒蛇花火〕は~、体組織をいじって死亡状況を改竄できるようになってますし~、ちょうど部下がアンタ様の近くにいるんで~、ちゃ~んと周辺の偽装工作もしておきますからね~?」
「あぐ!?」
濡れ衣を意味する言葉を浴びせられた美作の目が、驚愕と苦痛に歪む。自分以外の誰か、鋼坂達を操り、自分を首謀者に祭り上げようとする者の策謀に、恐怖する。
そして、
「ボ~ン」
「あ、げあ!?」
炎に浮かぶ鋼坂の黒い影が薄気味悪い言葉を残すと同時、美作の体内に侵入した黒蛇がその性質を変化させ、美作の肌が見る間に黒くくすんでいく。泡を吹いて倒れる美作の実物大の映像が、鋼坂の用意したらしい通信妨害によって途切れる。自殺に見せかけた毒殺が、汚野とは遠く離れた場所で進行する。
そして、
「ではでは~、汚野校長も、かわいい生徒を守るために死んでね~」
鋼坂の声が消えゆく炎の奥、闇の中から響く。
女の声は、今や蠢く闇そのもとなった異形どもと対峙する汚野の背を撫でて、消えた。




