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修行編最終回 第75話 タイの源を見て日本へ その5(101)


酒宴は深夜まで続き、お開きになった時には、深夜になっていたので、皆みんなタクシーで帰るのだった。


タイ滞在最後の夜、健一は千恵子の夢を見るのだった。

場所は良くわからない。

ただ千恵子が笑顔で手を振っているのがわかる、健一は近づこうとも決して近づけない。

しばらくして、ふとにぎやかな音が聞こえたかと思うと右上に“大金行”の大きな看板。

「チャイナタウン?」ふと前を見ると、チャオプラヤー川の前であった。


日本への帰国の日、健一はバンコクの街中を出来るだけ記憶に留めておこうと必死で見渡

そうと努力した。

午前中に、健一のわずかな手荷物を、城山源次郎に頼んで“居酒屋 源次”に預けた後、

昼食は、居酒屋源次近くの屋台で食事。


その後は国立競技場の近くのショッピングセンターに向かい、最後の買い物。

今まで、何気なく立ち寄ったところ一つ一つが、もうしばらく行く事が無いと思うと過去の思い出が自然によみがえってくる。


ファランボーンの駅近くのカフェで、しばしの休憩をし、夕方になると最後にとって置いたチャイナタウンへ。

正に昨夜夢で出てきた風景をリアルに見ながら、一つ一つの光景を忘れないように目に焼き付けていく。

そして最後は、やはりここチャオプラヤー川の辺にであった。

夕焼けに赤く染まる変わらぬ川の流れを見ながら一人でつぶやく健一。

「今度はいつ来れるのだろう。でも絶対戻ってくるよ。多くのみんなに会う為に。

それから、千恵子。俺は日本でもう一度再出発するからな。今度こそ頑張る。泰男も立派に育てていくからな」


『おーい、大畑さん!』健一を呼ぶ大きな声。

そのまま声の方向に振り向くと、久しぶりに現れた本松和武の姿であった。

「ああ!和武君。お父さんは?」

健一の問いかけに、和武は少し憮然とした表情をしながら、

「私一人です。もう子供じゃないですよ。一人前の大人ですから」

「ああ、そうですね。失礼。実をいうと僕は、この日の深夜日本に帰るんです。

ですから最後にこの川に別れを告げに来たんですよ」

「その話は知っていますよ。実は城山源次郎さんから壮行会への話が私たちにも来たんです。

でもトレーニングもあって、その日は残念ながら行けなかったんです。

ですから、今日は昼間からここに来て、『大畑さんは必ず来る』と確信して自主トレをしていました。やはりその通り。大畑さんには私がまだ本当に小さい子供の時からいつもこの川でお会いしていましたので、父とは違う意味で大畑さんに私の成長を見てもらったような気がしているのですよ」


健一は、わざわざ自分のために昼から待ってくれた本松和武に対して嬉しくて仕方が無かったが、

2・3日前から泣き続けた為なのか、この時は、涙が出る様なことは無かった。

「ありがとうございます。僕は必ず戻ってきます。恐らくこの川のほとりで、またお会いしましょう」

「ぜひ、日本でも美味しいタイ料理を作ってください。ちなみに私は来月いよいよチャンピオンに挑戦します」

「そうですか、少し離れたところ、目的は違いますが、お互い頑張りましょう」

と言いながら、健一は和武に握手を求める。「ええ」といいながらトレーニングで岩のように硬い和武の手と、

こちらも料理を作り続けているために硬くなっている健一の手同士が強く握手を交し合う。


本松和武と別れ、いよいよ帰国に向けて動き出す健一には、この地を去ることへの寂しさも去る事がながら、

新しい日本での仕事・生活への期待のほうが高いのであった。


夕食を取り、居酒屋源次で、荷物を引き取りビール一杯を飲み、源次郎と最後の別れをしてタクシーで空港へ。

空港に来ると、健一の心の中に再び寂しさが襲ってきて胸を痛めるのであった。


こうして深夜、日付が変わる直前の、バンコク発大阪関西空港行きの飛行機は、

新たな人生を踏み出す健一を乗せて、夜景の光り輝くバンコクの空を、

何事も無かったように離れて行くのだった。



修行編 完

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