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修行編 第20話 地方に放浪 その4(47)


健一は大きな声になり、「本当ですか?」田中はうなずく。

健一は立ち上がり店員に「コープンクラップ(ありがとうございます)」

とタイ語で礼を言うと、店の人も嬉しそうに微笑むのだった。

「僅かですが給料は払ってくれるそうです。ただ寝泊まりするところがないので、私のところで良ければ狭いのですが、1人寝る事が出来るスペースはあります」

健一は思わず土下座をして、「いやも何も、田中さん宜しくお願いします」


田中は慌てて、健一を起こしながら、「止めて下さい!私はそんな大したことをしていません。大畑さんの熱意がこのお店の方に通じただけです」起き上がった健一は、店員さんに

「では明日から宜しくお願いします」とタイ語で再度礼を言うのだった。


翌朝、ムーガタ鍋のお店で働く事になった健一は、メコン川のほとりを散歩した。

見ると、どこかで見た事のある風景。

「あっ」健一は思い出した。

バンコクを発つ前に見た、千恵子が水浴びをしている川の風景そっくりである事を。

「そうか、俺が見たのはこの大河メコンだったんだ!ここに来るように、千恵子に導かれたという事か」

メコン川は、健一がバンコクにいるときに良く見に行くチャオプラヤー川がタイ国内だけ流れている川に対して、中国のチベットあたりを源流に雲南省、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアそしてベトナムを経て海に流れ込むインドシナ半島全体を巻き込む大河であった。

健一もこの川のことは、井本やいろいろなところから情報を得ていたが、実際に生で見るのは初めてのこと。夢で出てきたこの雄大な川の流れを眺めると、なぜか心が落ち着くような気がするのだった。


「今までのバンコクでの嫌な事は、このメコン川に全て流そう。

今日から新しい生活が始まる。今度こそ1人前の料理人を目指して頑張るぞ!」

こうして、この日から健一は、このムーガタ鍋のお店で働く事になった。


午後の仕込み作業から店に入り、そのまま夜の営業。

お客様に鍋などを運んだり、洗い物などの作業を経て、店の終わる深夜に、

後片付けをして、そのまま田中の家で倒れ込むようにして寝る日々が始まった。



健一が、ノンカーイで新しい生活を始めた頃、バンコクの居酒屋源次では、城山源次郎と常連客が、旅に出ると言ったまま、突如消えた健一の事を気にしていた。

「なんとなく焦っていたような気がするなあ。

健一君の身に何があったのだろう」

心配そうに腕を組む源次郎。

「やっぱり職場が辛かったのかな」タバコを吹かしながら天田が想像する。

「ああ、確か大畑さんは、料理学校に通ってもうすぐ資格取るとか言ってたような気がするのですが」細々と、口を挟む国沢。

「うん、ちょっとそれが気になるんだ。俺のことや市場の屋台の人の事については気にしてたけど、例の職場はともかく料理学校のことを一切言わなかったんだ。

職場の事は今に始まったわけじゃないから、ひょっとすると料理学校で何かあったのかなあ?」

「源さん、そんな気がするわ。だってこの前屋台に行った時、すごく活き活きしてたのに、どうしたんやろう。やっぱり階級社会の問題かいな」オーケン土山も突然行方をくらました健一の事が気になって仕方がなかった。

「それから、市場のスワンディのおばちゃんへは僕がちゃんと事情を話しますから。

それより今日のこのおかず『美味い!』」

「まあ、彼はもう子供じゃないから私たちがあれこれ言っても仕方ないよ。そのうち戻ってくると思うけどな。その時は温かく迎えてやろうかと思ってね」

次のタバコに火をつけながら、クールに振舞う天田であった。

「そうだよな、天田さんの言うとおり。

彼は本当に真面目だから、たまには、羽根を伸ばすのも大事だよな」源次郎も同意する。

「まあこの話はとりあえず終わりにしよう。皆、何か食べる?」


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