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さらわれた姫は、自由を謳歌する事にした。  作者: 花籠 密
1章 魔王城での生活
14/14

13︰視察

本日二話目。

気づいたらブクマ数20超えてますね…!

ありがとうございます!!!!

 この日も、エリノア王女の研究室には笑い声が響いていた。

 着飾った女の子と紅茶、甘いお菓子――なんてものは無く、居るのは下着姿の王女と短剣を携えた少女、そして鎧姿の哀れな将軍が一人。お菓子や紅茶の代わりには薬品の香りが漂っていた。

 彼女達の話題になっているのは、ルーカスの姉でありこの国の二人目の宰相でもある、ルイザの事だった。

 

 「ルイザさんはとっても優しい人ですよ!視察から帰ってくると、いつも甘いお菓子や可愛い置物をお土産でくれるんです!

 アルバの髪も、ずっと前にルイザさんが『こっちの方が似合うわよ』って言って、切ってくださったんですよ」

 「へぇ、前は髪が長かったのか」

 「はい!」

 

 アルバの髪が長かった、という話を聞いたエリノアは、壁の花(と言うにはおかしいかもしれないが、存在感を必死に消している)なサディアスに呆れた視線を送った。

 訳するならば、こうだ――お前、長髪でもアルバが女だとは思わなかったのか。

 その視線に気がついているのか否かは分からないが、サディアスはぎゅっと目を固く閉じたまま、腕組みをして立ったままだった。

 目を細めたエリノアだったが、アルバが不思議そうにしているのに気がつくと、視線を外した。

 

 「…はぁ。それで、今はそのルイザという人は何処にいるんだ?

 ここに来てから1度もそんな容姿の者は見たことがないんだが」

 「忙しい方なので、色んな所を飛び回ってますよ。主に支配下に置いた国を巡ってます。

 ルーカスさんが視察に行きたがらない所もルイザさんが担当するので、視察ばっかりで城にいることの方が珍しいです」

 「へぇ。…言うなれば、根城で頭脳を使って国を内から守るのがルーカスで、飛び回って外から国を守るのがルイザってとこだな」

 

 彼女の脳内には、いつかルーカスが話していた自由奔放な割に利益を上げるという姉の像が浮かび上がっていた。

 恐らく、細かい事は気にしない性格の姉が各国の代表の相手をし、慎重派なルーカスが問題への対処法や国の財政やら作戦なんかを考えているのだろう。

 

 「それにしても、視察か。どんな所があるんだ?」

 「えーっと、色々ですよ。淫魔の多い国とか、ルサールカの公国もありますし、ケンタウロスの牧じょ…いえ!集落とかもあります!」

 「牧場…」

 「あ!あとは、森一帯にアルラウネとかシルフが住む場所もあって、名目上はこの国の配下なのでそこにも行くみたいです!」

 「へぇ。聞くだけでも神秘的な雰囲気がするな」

 

 ふむふむと相槌を打つエリノアに、アルバはさらに言葉を続けた。

 

 「そういえば、エルフの公国もありますよ。アルバは噂しか知らないですが、風の精霊王がよく現れるらしいです」

 「精霊王!是非とも1度は見てみたいものだな、それは」

 

 段々別ベクトルのテンションを上げていくエリノアに、サディアスはどこか不安を覚えていた。

 そしてその感情が間違いでないことを、次の瞬間、彼は突きつけられることになる。

 

 「そうだ!私も視察について行けばいいじゃないか!」

 「えぇっ?!」

 

 驚きの声を上げるアルバだが、エリノアはそんな事は気にせず、むしろ自分の言葉に「我ながらいい考えだ」などと満足気だ。

 

 「あの、でも、一応エリノアさんは攫われてきたんですよね?多分、無理ですよ…」

 「そんなことはない!研究の為だコレは!

 精霊王から何かいい話が聞ければ、より効率的な魔法や道具が産まれるかもしれないだろう」

 

 それに、雇われたのだから研究員としての仕事の方が優先されるべきだ等と彼女は豪語する。

 完全に乗り気な彼女を見て、サディアスは胃の辺りをさすった。

 

 (…そろそろ、胃の痛みを抑える何かを入手して置いた方が良さそうだ)

 

 この後、自分を引き連れて再び王の元に突撃するのだろう、と簡単に予想出来てしまう彼は、そんな自分を内心哀れむのだった。

 

 ♢

 

 執務室には静寂が満ちていた。

 ペラペラと紙をめくる音、時折何かを記す音、そして判を押す音。

 たとえ見た目が子供だろうと、魔王は忙しいのだ。加えて言うなら、宰相も忙しい。

 ――のだが。

 

 「たのもう!!!!」

 「またお前かエリノア!!!!」

 「陛下は反射神経が素晴らしいですね」

 「……何度も申し訳ありません」

 

 この静寂を破るのは、いつだってエリノアだ。そしてサディアスが思い詰めた顔で控えているのも、毎度の事だった。

 最早手慣れ始めた宰相は、エリノアになにか言おうとするエリベルトを、パンパン、と手を叩くことで制すると薄く微笑んだ。

 

 「…で?今度はなんの用です?」

 「私をこの国から連れ出してくれ」

 「なッ?!?!」

 「姫君、また誤解を生むようなことを…」

 

 ガタリ、と大きな音を立てて立ち上がったエリベルトはわなわなと震えている。

 しかし、サディアスの言葉を聞いたルーカスは真剣に考え込んでいた。

 

 (他国に行きたいというわけですね…恐らく研究関連でしょうが。急に何故そんなことを)

 

 チラ、と盗み見れば、それを予期していた様に彼を見遣るエリノアと目が合う。

 小さく心臓が跳ね、それを誤魔化すように宰相は咳払いをした。

 

 「…んんっ。それで?詳しく説明してください」

 「視察について行きたいんだ」

 「エリノアの事ですから行先も決めてあるんでしょう?何処に行きたいのですか」

 「エルフの公国があると聞い「却下です」」

 

 エルフの公国と聞いた途端、いつもより低い声音で即断したルーカスに、彼女は目を丸くした。

 慎重派な彼が感情的に言い放ったのが珍しかったのだ。

 因みにエリベルトは、ルーカスが彼女を呼び捨てで呼んだことに驚いていた。

 

 「…なんだ、何か行けない理由でもあるのか?」

 「違います。俺が行きたくないだけですよ。彼処には色々と…」

 

 フッ、と微笑んだかと思うと、ルーカスは驚くほど怖いくらいの真顔になった。

 

 「えぇまぁ色々とあるんですよ」

 「…」

 

 早口に端的に述べた彼に、何があったのかと聞けるものはいなかった。

 一瞬の沈黙が降りたが、エリノアも折れるわけには行かなかった。

 

 「別に、お前じゃなくともいいだろう。姉も視察に行くと聞いたぞ」

 「待って下さい。そもそも、人質であるのに外に出せる訳が」

 「だが今は研究員として雇われている。

 エルフの公国には風の精霊王が居るんだろう?役立てる可能性は高いぞ」

 「………」

 

 考え込むルーカスを見ながら、エリノアはもう一押ししたいところだと考えていた。

 そこに小さな魔王が口を挟む。

 

 「待て、エリノアが視察に行ったら俺の勉強はどうするんだ。

 何日も会えなくなるぞ!」

 

 大問題だ!と真剣な顔で言い放つエリベルトに、その気持ちを知っているルーカスだけが微笑ましいものを見るような視線を向けた。

 だが、エリノアはそうはいかない。研究が絡むとなれば尚更だった。

 

 「そんな者代理の者を立てればいいだろう。

 それか、課題でも渡しておくからそれをこなせばいい話じゃないか」

 「お、お前が居ないと意味が無いではないか…!」

 「何故そうなるんだ?」

 

 心の底から意味がわからないというような彼女に、一刀両断されてしまった魔王を流石のルーカスも憐れんだ。

 とはいえサディアスもエリノアと似たような表情をしているが。

 陛下がここまで言うのなら、とルーカスは彼女の頼みを断ろうとしたが、そこでふとある考えが思い浮かぶ。否、思い浮かんでしまった。

 

 (ここで俺が彼女と視察に行けば、距離を縮める機会になるのでは…?)

 

 最早この男、国のことを考える余り、魔王を応援しようとしているのか、その恋路を邪魔しようとしているのか、分からなくなっている。

 しかし浮かんでしまったのなら仕方ない。

 彼はニコリと笑って頷いた。

 

 「いいでしょう。俺が視察に行くので、エリノアも連れて行って差し上げますよ」

 「なっ?!」「宰相殿、大丈夫なのか」

 

 裏切られた、とでも言いそうな顔のエリベルトに向かってルーカスは説明する。

 

 「良いですか陛下、彼女は止めたところで止まらないどころか、暴走する可能性が高くて危険です。

 それならここで許可するのが良策というものです。それに、俺が行くのですから安心ですよ」

 「いや、しかし、エルフの公国と言うと、アレだろう?

 お前、行くの嫌がってたではないか」

 「直にエリノアを見張る必要があると感じましたし、それに、いつまでも選り好みして視察に行かないというのも問題だと思い至りまして。

 そろそろ避けずに解決しようかと」

 

 ぐぬぬ、と悩んでいるエリベルトに向かって、サディアスが申し出る。

 

 「ご安心ください、陛下。

 人質である姫君の身は、魔王軍将軍であるこの私がしっかりと守ります」

 「むぅ…」

 

 助太刀に入った彼に、エリノアは瞳を輝かせる。

 しかし、エリベルトが悩んでいるのは行かせるか行かせないかの問題であって、安否の時点まではいっていなかった。

 

 「…公国までは馬車で行きますし、道中危険もありません。

 監視役なら俺で事足りますし、何しろ将軍が国に居ないとなると国防が不安です。サディアスは来なくても大丈夫ですよ」

 「だ、ダメだ!!!!サディアスもつれて行け!」

 「へ、陛下…?」

 

 エリノアと距離を縮めるという思惑において、サディアスというプラス1名は余分だと考えたルーカスだったが、エリベルトに拒否されて目を丸くする。

 エリベルトは、ルーカスがエリノアの事を呼び捨てするまで親しくなっていた事に不安を感じていたのだ。

 2人で行かせては行けないと、彼の直感が告げていたのである。

 

 「万が一があるだろう万が一が!それに、夜営等では交代制の方が良いだろう?」

 「…そうですね。ではそうしましょう」

 

 諦めて頷いたルーカス。

 サディアスの堅物ぶりを考えて、邪魔にはならないだろうと判断したのである。

 そしてエリベルトは、流れで行かせることを決定してしまったと気付くまであと数分である。

 エリノアは瞬時に理解して、ニヤリと笑っていたが。

 

 「では、視察に行く旨を向こうに伝えてから、俺、サディアス、エリノアの3人で行くことにします」

 

 こうして、エリノアのエルフ公国行きが承認された。

ルーカスの一人称、頻繁に「私」って間違えて、よく書き直します笑

口調的に俺より私って感じですよね。


それにしても、台風凄いですね…。

私のいるところも警戒区域に入ってました。

町で2カ所土砂崩れも起きましたし…。

皆さんが安全な事を祈ります(_ _*)

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