普段の言動
「いけすかねぇ奴だったな」
顔合わせが済んだ空たちパイロットは、いつも通りシュテルンが出てくるまで待機となった。
自由行動が出たので、空は時間を潰すためにシミュレーション室に来ていた。シトラも空と同じ理由でシミュレーション機に座っている。
「まあまあ。腕がいいのは確かよ」
「シトラが言うくらいだから本当なんだろうけどさ」
空は呟きながら引き金を引く。すっかり見慣れた連鎖爆発により、画面に映る円盤の数が半分以下になった。
対戦をしているわけではない。協力して訓練をしているわけでもない。
空とシトラはそれぞれ自分専用となったエイロネイアで無造作に出てくる敵を落としているだけに過ぎない。結局はただの暇つぶしだ。二人とも惰性で戦っているだけだった。
開始から一時間も経っていないが、二人とも撃墜数が五桁に届こうとしていた。
「それにしても、知らなかったわ。あのクソ野郎にも弱点があるのね。よかったら教えてくれない?」
「聞いてただろ? 女装願望の変態だよ」
「聞いてたわよ。どうしてそんな弱点を知ったのか教えてほしいの」
他愛ない気持ちで聞いてきたんだろう質問に、空は言葉を詰まらせた。
事情を知ったのはスイが教えてくれたからだ。しかしその説明は薬の説明のついでだった。
どうやらスイは自分の状態をシトラたちには黙っていたいらしい。エンの前では口うるさい兄貴を演じたいからだろう。そんな彼の気持ちを不意にするわけにはいかない。
だが、それ以外にどう話せばいいのだろうか。
「……スイに聞いたんだよ」
結局空は正直に話をすることにした。いい考えが浮かばなかった。
「スイに? へえどうして?」
「いいだろ別に。凡人ぞ知るって奴だ」
シトラが不思議そうな顔をしていると、空は容易に予想ができた。
だがそこから先を話すわけにはいかない。強引にでもはぐらかさなければならない。
「ああそう。じゃあ天才のアタシには知る由もないわね」
「俺が振った部分もあるけど、それでも自信過剰だろ」
「しょうがないじゃない。事実なんだから」
「いっそ清々しいよ」
シトラの自信家は知っていたつもりだったが、あまりにブレない彼女に苦笑してしまう。
「シトラは、アイツの仕事内容を知っているのか?」
「教授の? さあ。よく分からないわ」
「それでいいのか天才少女」
空はモニター越しに彼女が座っているであろうエイロネイアに冷たい視線を送る。
よそ見をしていたせいで見逃したミサイルを、操縦桿を慌てて動かして紙一重で避ける。
「アタシは天才だからあまりかかわらないのよ。どうもパイロットの調子を整えているみたいだけど」
「パイロットの調子を?」
「さっきも話してたじゃない。共感覚を与える薬を作ってるのがあの教授よ」
「やっぱりか」
正直に言うと、ネオンがスイの話していたドクターかどうか確証がなかった。
共感覚を授けると言っていたから開発した本人かそれに近しい人間、少なくとも薬を開発した動機ぐらいは知っているだろうと踏んでのことばだったが、どうやら空の予想は当たっていたらしい。
「もちろん副作用のケアもしてるみたいよ? スイだって世話になっているんだろうし」
「スイの共感覚が本物じゃないって分かってたのか?」
「当然よ。アイツの書く報告書は酷いまだら模様だもの。もしも本物の共感覚があるのなら発狂してるわ」
さらりと言ってのけるシトラ。どうやら彼女の共感覚は既にスイの隠し事を見透かしていたらしい。
「お前、ホント凄いよな。普段の言動のせいでアレだけど」
「アレって何よ」
「いや、何でもないよ」
空とシトラはその後も雑談を交えながら永遠とシミュレーションを続行する。
結局一日中落とし続けていた二人は、七桁に手が届きそうなぐらいの撃墜数になっていた。
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次回は今日午後12時更新予定です。




