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プロローグ

 憧れていた。


 世界の果てまで続く青。

 翼を持つ者にしか進むことのできない、けれど常に手が届きそうなところに存在している空。


 俺はいつしか、空に憧れていた。

 風を切って自由に飛ぶ。人類の長年の夢を俺も見ていた。


 だけど、本当は違う。

 無限に続く空。永遠に姿を変えない空。

 俺はきっとそんな空を――


 恐れていたんだ。




~~~~~~~~~~~~





 ――俺、飛んでるんだよな。

 操縦桿を握る少年、甲破空が憧れの大空を切り抜いていく感覚を一人噛み締めていた。


 彼の視界には雲一つない青空が広がっている。

 下に広がる青は海で、横に広がる青は大空で、上にある薄い黒はきっと宇宙との境界線。

 高度一万メートルから見る光景が、初めての飛行を楽しむ少年の感覚をより強く意識させた。


 自分の操縦で天空を舞うという貴重な経験に顔を二やつかせていると、空の視界に円盤の姿が映った。

 のっぺりとした光沢が特徴的だ。円盤という形から察するに、もしかしたらこの星にはない鉱石を使っているのかもしれない。


 最初は数機。時間が経つにつれその数は増えていき、まばらだった円盤はやがて空を埋め尽くすほどになった。

 空が天空を舞う理由はただ一つ。あの円盤を残らず撃ち落とす。


 ようやく目標を見つけた。


 空は黒い双眸を円盤の群れたちのわずか下方に向ける。赤い鳥と青い鳥、黄色の鳥が空が操る黒い鳥の前を飛んでいた。

 ジェットエンジンから炎を吐き出し、鋼の翼を持つ鳥は自然から生み出されたものではないことは明白だ。今は内部に格納されているが、翼の下部に展開されるミサイルや銃器類といった殺すための兵器が積まれてもいる。自由に自然を満喫している鳥とは、どう考えても思えない。


 空は前方を飛ぶ三機の内、中央に陣取っている赤い機体に注視する。

 心なしか不機嫌な気配を漂わせている。何怒ってんだといつもなら鼻で笑ってやるのだが、事態が事態のため自重する。


『イリーナは陽動、エンは援護。アタシが全滅させるから、邪魔すんじゃないわよ』

『はいな』

『ん』


 空が予感を抱くまで待っていたかのように、赤い機体からの通信がヘルメットを被った耳に届く。

 不機嫌なパイロットである少女を、まるで気にしていないかのような少女たちの返事が次いで聞こえてくる。

 彼女たちにとって、赤い機体に乗っている少女は恐ろしくないのだろうか、それともただ単純に慣れてしまっただけか。

 空は多分後者だろうと適当に判断することにした。


「あ、あぁ俺に任せろ」


 一拍遅れて返事し、空は操縦桿の横に取り付けられているスイッチを強く押す。

 ボシュッ、と気の抜ける音。空の視界から銀色の筒が離れていく。

 筒、ミサイルは円盤の一つに当たり、爆音と共に赤い花弁を散らした。


 色とりどりの鳥たちが爆発のすぐ隣を通り越す。

 空は小さく息を呑んだ。自らのしたことではあるが、あの花弁がこの機体、轟龍を元に咲いたらと思うとゾッとする。


『ナイスや空』


 称賛が通信越しに聞こえてきて、空は青い機体、蒼龍に視線を向ける。


 蒼龍の全身から針のようなものが飛び出していた。

 否。空はほとんど反射的に自分の考えが間違っていると知識から否定する。

 針に見えるのはハッチが開いているからだ。機体のいたるところにあるハッチを開いてどうするのか。決まっている。


 空の何倍もの火力をぶつけようとしているのだ。


 空が答えを得るのと、蒼龍から数多もの、それこそ数えるのもバカらしくなるほどのミサイルが飛び出したのはほとんど同時だった。


 ――お見事。


 ミサイルはそのすべてが円盤に当たって爆ぜる。それも全部のミサイルがそれぞれ別の円盤に向けられていた。


 空中爆撃。この場にいる四機の内、蒼龍にしか実現できない暴力的火力だ。


『ん』


 通信なのか、ただの息遣いが聞こえているだけなのか判断に困る声が聞こえて、空は声の主を探そうと一瞬意識を戦場にさ迷わせる。


 キュィインと思わず耳を塞ぎたくなる轟音を響かせて、頭上を黄色い閃光が横切っていった。

 円盤が後を追おうと機動を変える。しかし黄色の機体、黄龍には追いつくどころか追随すらできない。そして群れからはぐれた円盤たちを、大きく旋回した黄龍は難なく撃墜していく。


 有人無人問わず世界最速の機体。それが黄龍だ。


『ぼさっとするな!』


 叱咤する通信が届き、同時に轟龍の正面にいた円盤が爆発する。あぶなっ、と空は急いで操縦桿を倒し爆発を回避する。


 苦言の一つでも言わなければ気が済まないと空は通信の主である赤い機体、紅龍を探す。

 すぐにその姿は見つかった。いや、見つからないわけがなかった。


 大きく旋回し、または小刻みに動いて目についた円盤をかたっぱしから落としている赤い悪魔がそこにあった。

 まるで自分こそが空の支配者だと言わんばかりの縦横無尽に暴れ、そして備え付けられた機銃が吠えて爆発を生み出し続けている。ある種美しいとすらいえる絶技。


 武装の数では蒼龍に、単純なスピードなら黄龍に負けているにも関わらず、間違いなく最強は紅龍だと理解させられる。それほどまでに圧倒的かつ一方的に、円盤を蹂躙していた。


「負けるかよ」


 ほとんど一方的に蹂躙されている敵ではなく紅龍に向かって呟きながら、さらに多くの円盤を撃ち落とすため空は轟龍を大きく傾けた。

読んでくださりありがとうございます。


次回は明日、午前7時頃更新予定です。

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