第2話 包丁作戦
包丁を手に入れることにした。
台所の引き出しに入っているのは確認済みだ。アレンが出かけている間に取り出せばいい。単純な作戦だった。
引き出しが開かなかった。
引っ張った。動かなかった。両手で引っ張った。少し動いた。体重をかけた。引き出しが勢いよく開いて、私が床に転がった。
起き上がって中を見た。包丁があった。手が届かなかった。
引き出しは私の胸の高さにある。腕を精一杯伸ばして、指先が縁に触れる程度だった。踏み台が必要だった。
踏み台を持ってきた。薪置き場の横にあった木の箱だ。台所に運んで、引き出しの前に置いた。乗った。
滑った。
木の箱が動いて、私が落ちた。膝を打った。
もう一度乗った。今度はゆっくり。バランスを取った。安定した。引き出しに手を伸ばした。包丁の柄が見えた。あと少し、あと——
「何してる」
アレンが台所の入り口に立っていた。帰ってきていた。
「……踏み台が必要だった」
アレンが入ってきた。木の箱を見た。引き出しを見た。私を見た。
しゃがんで、木の箱の下に板切れを1枚挟んだ。箱が動かなくなった。
「これで安定する」
「……」
「何が取りたかったんだ」
引き出しが目の前にあった。包丁が見えていた。私は包丁を取った。
アレンが野菜を持っていた。
「ちょうどよかった。それで切ってくれ」
切った。
人参、大根、葱。アレンが次々と渡してくる。私が切る。幼女の手には少し大きい包丁だったが、扱いには慣れていた。
アレンが隣で鍋に湯を沸かしながら、手元を見た。
「器用だな」
「……千年の経験がある」
「料理してたのか」
「……違う」
アレンが「そうか」と言って鍋をかき混ぜた。
(なぜ毎回こうなる)
葱を切りながら思った。
今日の作戦も終わった。所要時間は、転んだ分を含めて約20分だった。




