021.小隊選抜試験
三日後、選抜試験当日。
第一訓練場には大勢の見物人が集まっていた。
志願者だけでなく、多くの騎士たちが興味深そうに見守っている。
(...流石に多いな)
私は訓練場の中央に立ち、集まった志願者たちを見渡した。
男性騎士は憧憬の表情で待っていたが、意外にも女性騎士が大半を占めていた。
年齢も様々で、事前に目を通していた書類では――上級騎士も応募があったようだ。
集まった騎士の中で、一際目を引く人物がいた。
背が高く、太陽に揺れる小麦のような色の髪をした女だ――冷たく、獲物を見る獣の目。
私は別に兎ではないが、彼女からは特別な圧を感じる。
自信と、高慢。
かつてアム・グリエと相対した時に感じたそれと近いが、驕りではない余裕が垣間見える。
本物の強者――そんな印象を受けた。
高台に立った私は、不思議と緊張することはなかった。
他方、視界に溢れんばかりの騎士達は随分と険しい面持ちだった。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます。私はセラ・ドゥルパ。本日は私の小隊に入隊を希望される方々の選抜試験を行います」
私の挨拶に、志願者たちはさらに身体を固くする。
「ルールは単純。約三十名一組で乱戦を行い、最後まで立っていた四名が合格です。武器は訓練用の木製武器を使用し、魔法の使用は禁止です。組内の全員を戦闘不能にした時点で勝利とします。」
騒めきが起こった。
(そんな驚くことか――?筆記試験だとでも思っていたのだろうか)
正直、未だ実感は沸かないままだ。
今の私に魔術は教えられないし、騎士団全員を把握しているわけでもない。
であれば私が重視する点はひとつ――生存能力だ。
怪我をしても、
泥臭くても、
立ち続ける気概と胆力。
むしろ以外の定規は持ち合わせていない。
「質問はありますか?」
志願者達は周囲の仲間と目くばせをしながらしばらく沈黙が続いた後、例の背の高い女性が手を上げた。
優雅に歩み出る小麦色の髪の女性。
後ろに流れる髪は、黄金で溢れる川の流れのようだった。
大きな灰色の瞳は曇り空のようなくすんだそれではなく、銀――そう、銀世界を思わせる。
「ドゥルパ中級騎士、はっきりさせときたいんやけど、ええかなあ」
(随分と独特な話し方だな)
彼女の声は澄んでいてとても心地良い。
しかし何故だか冷たさを感じさせるような声だった。
「君、ホントに四天将とやりはったん?」
男性騎士がすぐに文句を言った。
疑うのか、とか失礼だぞ、とか。
しかし多くの騎士はそれを見ていないのだから、仕方がないだろう。
確かにゾーイは強かった。
母さんの厳しい訓練があったからこそだが、戦闘力、応用力、判断力は敵ながら見事だと思う。
とどのつまり、"彼"が席を譲ってくれなければ、私はあの場で戦死していたのは間違いない。
そう考えれば、胸を張ろうなどとはどうしても思えない。
素直に肯定は出来なかった。
「...私から言う事は何もありません。皆さんが判断して下さい。」
「ふうん...ほなら、ウチが合格したら一戦お付き合い願えますか?」
それを聞いて横に立っていたフレデリックが割り込んだ。
「ハイネ!まだドゥルパ中級騎士は本調子ではない。それに、お前は何故ここにいるのだ」
「何故って、そりゃひやか...いやいや、選抜試験に参加するためです――よ?」
「中級騎士の下につく上級騎士など、聞いたことがないぞ」
「じゃあウチがその一人目ぇになったろかなあ」
なるほど、彼女が志願者の中で唯一上級騎士だったハイネ・フォン・ガリレイらしい。
他の騎士と違ってかなり目立つ志願書だったのを覚えている。
書面には参加した戦いや、今までどのような隊に所属していたかを記入する項目があったが、
彼女のそれには何度も小隊への入隊と除隊処分が繰り返し記載されていた。
(あいつがその問題児か)
「フレデリック副団長もそない過保護やとあかんのとちゃいます?ドゥルパ中級騎士は"男"やし"子供"やから、かばうんも分かるけど...」
「――――あ?今、なんつった?」
自分でも違和感を覚えるほどの凄まじい怒り――
まあ、思わず口を突いて出てしまったが、知ったことではない。
いい加減に性別や年齢に振り回されるのにはうんざりしているのだ。
(この女、絶対に泣かす...っ!)
そんな私を見て、慌ててフレデリックが耳打ちしてきた。
「セラ!やめておけ!ハイネを相手にするな!あいつは...正直言って今のお前が敵う相手ではない!本来は四星...」
「ちょっと黙っててくれよフレデリック。母さんから言われてるんだ。ナメられたら分からせろってな...!」
聞く耳を持たぬとは正にこの事だと、我ながら思った。
ハイネの目は笑っていなかったが、口だけは薄気味悪く笑っている。
完全に興味本位で選抜に参加したのだろう。
――絶対に、分からせる。
「おい、そこの女。選抜に残ったら相手してやる。噂が本当かどうか、自分で確かめてみろ!」
「...おっかないなあセラくんは。男なのに勇ましいんやねえ。随分と自信があらはるみたいやし、いっぱい練習したんやろねえ」
何人かの女性騎士もつられて嘲笑する。
コイツら泣かす。
絶対泣かす。
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訓練場の中にフレデリックは土属性魔法で四つの舞台を作り、志願者達は四組に分かれてそこに集う。
ハイネは他の志願者たちと比べて明らかに落ち着いており、まるで結果が分かっているかのような余裕を見せていた。
木製の槍を美しく肩に乗せながら、彼女はゆっくりとステージの中央で止まった。
周囲の騎士達はそれ取り囲み、明らかにハイネのみを先に攻撃するような陣形を整えている。
事前に打ち合わせでもしていたのだろうか。
(――それとも、そうしなければならない程強いってことなのか?まあどちらにせよ、泣かすだけだ)
「皆準備はいいですね――――では、始めて下さいっ!」
私の号令と共に、ハイネに向かって大勢の騎士達が襲い掛かる。
ハイネは踊るように舞った。
槍は美しい円を描き、的確に周囲の敵を葬っていく。
私の槍術とは根本的に戦い方が違うようだ。
「なんだあの槍術...?」
規則的な円運動の中に鋭い突きが時折混ぜられ、リズムを崩されて皆倒れていく。
背後からの敵にもしっかり対応しているし、戦士としては非常に優秀なのだということはすぐ分かった。
それぞれの舞台で乱戦が繰り広げられていたが、興味本位で見に来ていた者は怪我をする前に自分からステージを降りた。
剣、槍、短剣とそれぞれ得意な武器で臨んでいるようだが、木製でも当然怪我をするし、当たれば苦痛を伴う。
遠目から見てもハイネのいるステージ以外が全て泥仕合になっているのは容易に分かった。
ほどなくして、残った四名が私の前に歩いてきた。
ハイネ以外は体に傷を負い、息を切らしている。
皆逞しい――戦士の顔。
自分を信じて着いてきてくれる人がいるというのは、望外の喜びだ。
そんな人の為にも、これからの戦いで無様な姿は見せられないな。
「残った四名の方々、合格です。おめでとうございます。では...」
小麦色の髪の戦士に、視線を向ける。
「ハイネ・フォン・ガリレイ上級騎士。お約束通り一戦交えましょうか」
訓練場に歓声が上がる。
ハイネは薄ら笑いで返し、槍をくるくると回しながら前に出た。
フレデリックの顔は心底疲れていると言った様相だが、瞳の奥に僅かながらの期待が見て取れた。
きっと彼も、私が何かを成し遂げるのを待ってくれている人間の一人なのだろう。
私も訓練用の槍を取り、近くのステージに上がった。
「そんなかたっ苦しい呼び方、嫌やわあ。ハイネちゃんでええからね、セラくん。仲良ぉしよな?」
「...てめぇ、絶対泣かしてやるからな。」




