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継承のセラ  作者: 山久 駿太郎
第二章 -ルクセン平原の戦い-
17/78

017.継承

私は生きてきた。何人もの魂を吸い取った呪いとして。



私は生きてきた。カルラという女傑の戦友として。



私は生きてきた。カルラの息子を守る者として。



そして、守れなかった。

しかしこの子の言葉だけでも、私はいつか誰かに紡いでいきたいと思ったのだ。


現世と幽世の狭間で、私はセラに話しかけた。

きっとそれが――彼との最期の会話だ。


---


『セラ、セラ。意識はあるか』

「...ああ、ある。ここはどこだ?」


『そんな些末な事は気にするな。先の戦い、本当に見事だったぞ。カルラもきっと、褒めてくれるだろう』

少しくすぐったいような、子供らしい顔。


『随分と、上手く槍を使うようになったな。もう寝小便をしていた頃とは違うらしい』

「う、うるせーよ!あれは母さんが、怖い話をするからで...!」

『なんだ、あの童話のことか?別に何でもない童話だったろう。しかもあろうことか、君をそれをラビのせいにして――』

「ちがっ...くはないけど!そんな昔のことを掘り起こさなくてもいいだろ!」

『いいじゃないか。こうして君と話せるのが、嬉しいんだ――』



そして、私は、告げる。



『しかし、故に残念でならない。セラ、君の魂は、今旅立とうとしている』

「――オレ、死ぬって、こと、か?」

『...そうだ。何か、言い残すことはあるか』

「言い残す、こと」




『私が、君の言葉を未来に繋いでいこう』




その狭間では、時間という概念が存在しない。

少しばかりな気もしたし、十年待ったような気もした。


ずっと彼の声を、想いを待った。


そしてセラという十一歳の少年は、心から声を振り絞り、言葉にした。


単純で、

別に凝ったものではない。


死にゆく者の言葉としてはありきたりで、

聞き飽きたもので――

それでも私の心は、動いてしまったのだ。








「まだ、生きたかったな」


『―――――――――――――――――そうか』








何故かカルラのことを、ふと思い出す。

息子のことを頼むと、彼女と話した夜を。


何故かラビのことを、ふと思い出す。

無邪気に兄を慕う、日常の一幕を。


何故かふと、思い出す。

遥か昔、数多の魂を啜った戦場の景色を。


命の光を。

散り際の戦士達の表情を。

彼らの、最後の言葉を。







繋ごう――――私が。








『セラ、君は生きろ』

「――え?」


『君が"私"を継承しろ』


『私が、君の魂を取り込む。そして私は――”席"を空けよう』


『君は呪いとなって、その体に宿る』

「ま、待てって。意味が――」


『何かあっても文句は言うなよ。私だってこんな事は初めてなんだ』


『...短い間だったが、中々に楽しめたよ』


『セラ――――生きろ』






『生きろ。』


---


朦朧とする意識が現実に引き戻された時、わき腹に酷い痛みがあった。

それが原因で引き戻されたのかもしれないな。

夢の中で投げかけられた"彼"の言葉は、"私"もぼんやりと覚えていた。


起きてすぐ...自然と涙が頬を伝っていくのが感覚は今でも覚えているよ。

目を空けて最初に声を掛けてくれたのは、アムだったな。

視界にはテントではなく、しっかりとした石造りの天井だった。

私が意識を失っている間に、騎士団は撤退したらしかった。


「っ!セラ!よかった!」


自分が生きている事に一番驚いたのは、紛れもなく私自身だったろう。

しかし感覚が徐々に戻っていく中で、はっきりと感じた。

大勢の亡者が、私の周囲に立っているような感覚だ。

"彼"が譲ってくれたこの席は、人が座れるものではなかった。


自分が人外...呪いになってしまったことをこの時理解したんだ。


これから私が背負うのは、千の魂なのだと。

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