017.継承
私は生きてきた。何人もの魂を吸い取った呪いとして。
私は生きてきた。カルラという女傑の戦友として。
私は生きてきた。カルラの息子を守る者として。
そして、守れなかった。
しかしこの子の言葉だけでも、私はいつか誰かに紡いでいきたいと思ったのだ。
現世と幽世の狭間で、私はセラに話しかけた。
きっとそれが――彼との最期の会話だ。
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『セラ、セラ。意識はあるか』
「...ああ、ある。ここはどこだ?」
『そんな些末な事は気にするな。先の戦い、本当に見事だったぞ。カルラもきっと、褒めてくれるだろう』
少しくすぐったいような、子供らしい顔。
『随分と、上手く槍を使うようになったな。もう寝小便をしていた頃とは違うらしい』
「う、うるせーよ!あれは母さんが、怖い話をするからで...!」
『なんだ、あの童話のことか?別に何でもない童話だったろう。しかもあろうことか、君をそれをラビのせいにして――』
「ちがっ...くはないけど!そんな昔のことを掘り起こさなくてもいいだろ!」
『いいじゃないか。こうして君と話せるのが、嬉しいんだ――』
そして、私は、告げる。
『しかし、故に残念でならない。セラ、君の魂は、今旅立とうとしている』
「――オレ、死ぬって、こと、か?」
『...そうだ。何か、言い残すことはあるか』
「言い残す、こと」
『私が、君の言葉を未来に繋いでいこう』
その狭間では、時間という概念が存在しない。
少しばかりな気もしたし、十年待ったような気もした。
ずっと彼の声を、想いを待った。
そしてセラという十一歳の少年は、心から声を振り絞り、言葉にした。
単純で、
別に凝ったものではない。
死にゆく者の言葉としてはありきたりで、
聞き飽きたもので――
それでも私の心は、動いてしまったのだ。
「まだ、生きたかったな」
『―――――――――――――――――そうか』
何故かカルラのことを、ふと思い出す。
息子のことを頼むと、彼女と話した夜を。
何故かラビのことを、ふと思い出す。
無邪気に兄を慕う、日常の一幕を。
何故かふと、思い出す。
遥か昔、数多の魂を啜った戦場の景色を。
命の光を。
散り際の戦士達の表情を。
彼らの、最後の言葉を。
繋ごう――――私が。
『セラ、君は生きろ』
「――え?」
『君が"私"を継承しろ』
『私が、君の魂を取り込む。そして私は――”席"を空けよう』
『君は呪いとなって、その体に宿る』
「ま、待てって。意味が――」
『何かあっても文句は言うなよ。私だってこんな事は初めてなんだ』
『...短い間だったが、中々に楽しめたよ』
『セラ――――生きろ』
『生きろ。』
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朦朧とする意識が現実に引き戻された時、わき腹に酷い痛みがあった。
それが原因で引き戻されたのかもしれないな。
夢の中で投げかけられた"彼"の言葉は、"私"もぼんやりと覚えていた。
起きてすぐ...自然と涙が頬を伝っていくのが感覚は今でも覚えているよ。
目を空けて最初に声を掛けてくれたのは、アムだったな。
視界にはテントではなく、しっかりとした石造りの天井だった。
私が意識を失っている間に、騎士団は撤退したらしかった。
「っ!セラ!よかった!」
自分が生きている事に一番驚いたのは、紛れもなく私自身だったろう。
しかし感覚が徐々に戻っていく中で、はっきりと感じた。
大勢の亡者が、私の周囲に立っているような感覚だ。
"彼"が譲ってくれたこの席は、人が座れるものではなかった。
自分が人外...呪いになってしまったことをこの時理解したんだ。
これから私が背負うのは、千の魂なのだと。




