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継承のセラ  作者: 山久 駿太郎
第二章 -ルクセン平原の戦い-
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014.幕間:会敵、背後の気配

フレデリックを先頭に、フェナンブルク王国軍が拠点から出陣した一時間後――


ルクセン平原の中央部では、フェナンブルク王国騎士団とゴア帝国軍が対峙していた。

両軍の間には約一キロメートルの距離があり、互いの動きを注意深く観察している。

ゴア帝国軍の陣営には、推定で三百名の兵士が整然と配置されていた。


フェナンブルク王国軍の五百名と比べれば数的には劣勢だが、その装備と練度は一目で分かるほど高い。

重装歩兵、軽装歩兵、騎兵、そして魔術師部隊が完璧に連携を取っている。


「敵の数は思ったより少ない...量より質って事か。気分悪いわね」ギームイは不満げに呟く。

「でも、私たちには副団長がいます!きっと勝利出来ますよ!」


それに対しアムが力強く答えた。

彼女の目に映るフレデリックはハイドラの背に跨り、部隊の最前列で敵陣を見つめていた。


静かに、鋭く――そして空気が張り詰めていく。

初級騎士の他愛のない雑談も自然と小さくなり、フレデリックはハイドラを旋回させて口を開いた。


「皆さん、敵は私たちより少数ですが、決して侮ってはいけません。ゴア帝国軍は精鋭揃いです。一人一人の戦闘力は非常に高いと考えてください。今回は陽動が目的です。敵に陽動と悟られる事なく、大胆に攻めましょう。しかし被害が大きくなる敵拠点付近までは近寄りません。難しい任務ですが、皆さんと一緒ならきっと成し遂げられると信じていますわ」


女性騎士たちの士気が高まった。フレデリックの言葉には、不思議な説得力があった。


その時、ゴア帝国軍の陣営から一人の戦士が前に出てきた。

彼女もまたハイドラに跨っており、黒に金の装飾を施した鎧に身を包み、美しく鍛え上げられた剣を手にしている。


明らかに他の戦士とは一線を画す威圧感――そして彼女の声は、戦場に響き渡る。


「我が名はゾーイ・バッケン!ゴア帝国四天将の一柱なり!フェナンブルク王国の者よ!我らゴア帝国の地に何用か!」


バッケンの挑戦的な問いかけに、フェナンブルク王国軍の騎士たちがざわめいた。

四天将という地位の重さを、彼女たちも理解していたからだ。


絶対的な強者。

個の力が戦術として機能する、異端の兵士。


フレデリックはハイドラを前進させた。

優雅な動作とは裏腹に、四天将の名を聞いた彼の額には、冷や汗が浮かんでいた。


「我が名はフレデリック・アーケイン!フェナンブルク王国騎士団、副団長のフレデリックですわ!」


フレデリックの名乗りに、味方の騎士たちから歓声が上がった。


「バッケン四天将!勘違いされませぬよう!ここは王国の領土ですわ!足が竦んで動けないようなら、肩を貸して差し上げましょう!」


"外交的"なフレデリックの言葉。

対してバッケンの表情は険しくなる。


「寝言を口にするなら月が顔を出してからにせよ!ルクセンの草木に貴殿らの血を吸わせるのは耐え難いが、致し方無し!我らが最期の敵であることを誇って逝くがよい!」

両軍の指揮官の言葉が戦場に響くと、空気が一変した。


「...始めましょうか」

フレデリックは右手を地面に向けた。

――その瞬間、彼の周囲の大地が微かに震動した。


「鋭き牙は地より出る、咢は今開かれん。地刺槍<アーススパイク>」

フレデリックの詠唱と共に、地面から鋭い岩の棘が幾つも立ち上がった。


それは自軍を守り、敵の進行を阻む壁となった。

男性でありながら、彼は強力な土属性魔法の使い手だったのだ。


最前線に於ける迅速な逆茂木(さかもぎ)の設置は、前線押し上げの強力な推進力となる。


「魔術師隊、牽制開始!騎竜隊は私に付きなさい!歩兵も遅れませんよう!」

「お任せください!」


「行きますわよ!私に続きなさいっ!」

「フレデリック様に続けえええええ!!」


フレデリックの大斧が高らかに掲げられる。

騎士団の雄叫びが上がり、場は動き始めた。

バッケンも剣を掲げ、応戦を始める。


「風と水で応戦しろ!火属性魔法は使うな!視界を確保したまま敵を牽制しろ!」

ゴア帝国の兵士が杖を天に掲げ、一斉に詠唱を始める!

「天を舞う風の槍よ、螺旋を描き敵を舞い上げよ。雲を裂き、空を割れ!竜巻<トルネード>!」

「水は集い、束なる。流れは生まれ、敵を穿つ。大いなる奔流の力を今ここに!高圧水流<トレントスプラッシュ>!」


「敵魔法に注意!」

ギームイが叫ぶと同時に、戦場には竜巻が生まれ、凄まじい勢いの水流が飛びはじめる。

様々な属性の魔法が飛び交い、戦場は混沌とした様相を呈してきた。


フェナンブルク王国軍の騎士たちは、魔法攻撃を避けながら敵陣に迫っていく。

しかし、刹那の内に最初の犠牲者が出た。

敵の水魔法が女性騎士の一人の胸を貫いた――彼女は苦悶の表情を浮かべながら、血を口から溢れさせて倒れた。

まだ二十歳にもならない若い騎士だった。


彼女の名前を知る者は少なかったが、昨夜まで確かに生きていた一人の人間だった。

近くにいた騎士が彼女の名を叫んだが、既に少女の瞳に移るのは――ただ虚空のみ。


両軍の距離が縮まり、白兵戦が始まった。

アムは剣を構えて敵の重装歩兵に立ち向かう。


帝国の兵士は巨大な盾と長槍で武装していた。

槍の間合いを搔い潜ってアムは剣を振り下ろしたが、敵の盾に阻まれる。



金属同士がぶつかる鈍い音が響き、火花が散る。

アムは間髪入れず、詠唱を始める。

「光よ、生まれ出でよ!閃光術<フラッシュ>!」


刹那、眩い光が敵の視界を奪う。

初級騎士でありながらも、アム・グリエは魔術の才に長けた兵士だった。

周囲に被害が及ばないよう、指向性を持たせた強烈な閃光。


アムはそのまま素早く身を翻すと、敵の側面を狙って再び攻撃を仕掛ける。

彼女の剣が敵兵の鎧の脇腹を貫き、鮮血が飛び散った。

敵兵は悲鳴を上げながら倒れたが――その瞬間にアムの背後から別の敵が襲いかかった。


アムは咄嗟に振り返ったが、敵の槍先が彼女の肩を掠めた。

鎧の隙間から血が滲み、激痛が走る。

彼女は歯を食いしばって戦い続けた。

戦場では両軍の兵士たちが激しく衝突していた。


剣と剣がぶつかり合う金属音、

魔法が炸裂する爆発音、

戦士たちの雄叫び――そして死にゆく者たちの断末魔の叫び。


戦争という魔物が、姿を現し始めたのだ。


地面は既に血で染まり始めていた。

倒れた兵士たちの体から流れ出る血が、地に根を張る草木に染み込んでいく。

負傷した兵士たちは敵に――そして仲間に踏まれながら、苦しみ続けていた。


フレデリックは果敢に正面から斬りこみ、道を開いていく。

敵陣に突撃しては周囲に鋭い岩の棘を発生させ、前線を崩していく。

騎乗した状態で、高い打点から振り下ろされる戦斧の一撃。

敵は刹那の内に絶命していく。


そして時折ハイドラと共に戦場を見渡し、的確な指示を出していた。

「右翼部隊、迂回して砦の側面を突きなさいっ!中央は私が押さえます!」


フェナンブルク王国軍は数的優勢を活かして徐々に敵を圧迫していくが、その代償は大きかった。

既に数十名の初級騎士が命を散らしており、負傷者の数はさらに多い。

ギームイは自分の部隊を率いて敵の魔術師部隊に接近していた。

白兵戦が始まった以上、迂闊に魔法を発動させると味方を巻き込んでしまう。

もう少し距離を詰めれば砦への直接攻撃が可能になるが、その道のりは険しかった。



しかし、ゴア帝国軍は精鋭揃いだった。


「うあああああ!」

ギームイの部下の一人が、敵の雷魔法で感電し、煙を上げながら命を落とした。

敵は巧みに陣形を変え、背後の部隊の射線を確保していく。

その時、遠くからフレデリックの声が響く。


「騎士団!一度後退です!敵を牽制しつつ下がりなさい!」


---


戦場の惨状は更に酷くなっていた。

切断された手足が地面に散らばり、内臓が飛び出した兵士が苦悶の表情で息絶えている。

生き残った兵士達も、血と泥にまみれて戦い続けていた。


「助けて...助けて...」倒れた若い騎士が、か細い声で助けを求めていた。


――しかし、誰も彼女に手を差し伸べる事はない、出来ないのだ。


戦場では、自分の命を守ることで精一杯だった。

やがて彼女の声も聞こえなくなり、また一つの命が失われた。

フレデリックの号令で騎士団は徐々に後退を始めていたが、帝国はそれに合わせて攻撃を激化させ、その間にも多くの命が失われ続けていた。



---




そして、前線から姿を消し、セラ達補給部隊が守る拠点を――冷たい目で見る者が一人。

「そんな長い陽動に付き合っていられませんからね。とりあえず兵糧から叩いておきますか」


独り言を口にしたのは、四天将ゾーイ・バッケン。


彼女の卓越した水属性魔法の技術は、不可能を可能にする。

ブーツの接地面を凍らせ、同時に流水で推進力を生む。

ハイドラによる騎乗速度を遥かに超える速さで、彼女は前線から敵陣最奥まで刹那の内に到達した。


水という物質の延長線上にある氷―――更にそれを同時に制御するのは、

帝国の中でも彼女のみが成せる業であった。


「うう...さ、寒い」

水で重くなり、氷によって殊更に冷え切ったブーツを引きずりながら、

彼女はゆっくりとセラのいる拠点に向かって歩き始めた。

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