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継承のセラ  作者: 山久 駿太郎
第一章 -友は語る-
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010.指令、そして出会い

「招集の合図だ。団長が呼んでる。急ぐよ」アムの表情が急に引き締まり、セラもその緊張感を察した。


二人は急いで大会議室へ向かった。

既に多くの騎士たちが集まっており、騒めきが室内に響いている。

女性騎士たちの間には緊張感が漂い、何人かは不安そうな表情を浮かべていた。


男性騎士の姿もちらほらと見えるが圧倒的に少ない。

皆示し合わせたかのように、部屋の隅を守っている。

そんな中、シンシア団長――静かなる烈火の女が壇上に現れると、室内は一瞬で静寂に包まれた。


左右にフレデリックと、面識のない男性の少年騎士が立っていた。

髪は白く、黒い肌。

そしてとがった耳。

ダークエルフだという事はすぐ分かったが、肩を並べて立つ他の二人とは雰囲気が異なっていた。

濃紺の軍服はだらしなく着崩され、とても退屈そうにしていたんだ。


早く帰りたいと顔に大きく書かれている。



「――傾聴。」シンシアが短く発した言葉で、団員は一斉に姿勢を正し、目線を前に向けた。

相変わらず、"白い梟"は彼女の肩に図々しく留まっている。


「日々の任務、鍛錬、ご苦労。今日は諸君に重要な報告がある。ゴア帝国との戦況についてだ」


張り詰めた空気を、シンシアの声が貫いていく。

部屋の隅々まで響き渡る声を耳にすると、セラも自然と背を正した。


「北部戦線において、我が軍は大幅な後退を余儀なくされた。敵の未知の攻撃により、向かった王国軍はほぼ全滅。およそ千人の同志達を失う結果となってしまった」


どよめきは起こらない。

ただ沈痛な雰囲気だけが広がっていく。

次は自分かもしれないという恐怖、そして動揺。


悲壮という名の蛇が彼女らの首をゆっくりと絞めていく。

どうやらこのフェナンブルク王国騎士団に所属する者達には、敗北する母国しか見えていないらしい。


「報告によると、敵は我々の常識を超えた魔法を使用してきた。信じられないほど巨大な竜巻が突如として戦場に出現し、その内部には拳大の雹が無数に漂っていたという。」


私の知る戦争でもこのような事態は珍しくなかった。

歩兵が前線を押し上げても、重戦術級の魔法によって崩され、難なく押し戻される。

カルラと私だったら、打開出来たと思う。

過信と思うかい?


シンシアの話を聞きながら、私は恐らく複数の術者によって発動させたのだろうと思った。

が―――ことは、そう簡単ではなかった。


「直撃を受けた兵士は空中に舞い上げられながら、激しい打撃によって意識を奪われる。そのまま地面にに打ち付けられ、絶命した。驚くことにこの魔法を発動したのは、"たった一人"の魔術師だったということだ」


今度こそ、兵士達に動揺が走った。

「ありえないっ!」「嘘...」「もうどうやっても勝てないのか...」


...断じて、ありえない。

理を捻じ曲げている。

魔法は魂に結び付くもの。

生まれつき使える属性は必ず限定される。


風を操る者は、その生を全うする迄――風と共に生きる。

もし仮にそんなことが出来る者がいるとしたら...

それは悍ましい闇の中に棲む怪物であることは疑いようがない。


「風と水の複合属性魔法、我々の知る魔法体系には存在しない技術だ。ゴア帝国が何を成し遂げたのか、現時点では不明だが――今王国騎士団は、未曽有の脅威に直面していると言える。」






「しかし、我々も手をこまねいているわけにはいかない。南部戦線から大規模な攻勢を仕掛けると誤認させ、敵の注意を南に向けさせる。その隙に北部戦線で決定的な反撃を行い、一気に前線を押し上げる」


作戦の概要が明らかになるにつれ、騎士たちの表情がさらに険しくなった。

陽動作戦ということは、南部に派遣される部隊は囮になるということだった。

当然にして敵に悟られぬよう、全力で攻める必要があるだろう。

危険な任務であることは誰の目にも明らかだった。


「南部戦線への派遣部隊は、主に初級騎士で構成する。陣頭指揮はフレデリック副団長だ。一ヶ月後の作戦開始に向けて、準備を進めてもらう」


その言葉を聞いた瞬間、セラの心臓が大きく跳ねた。

初級騎士ということは、自分も含まれるということだった。

入団したばかりで、

いきなり実戦、

しかも囮作戦に投入されるとは――


この王国がどれほど追い詰められているのか、幼い彼にはまだ理解できていない。

隣のアムも緊張した表情でシンシアを見ていた。

彼女もまた初級騎士であり、この作戦に参加することになるのだろう。


「詳細については、後日各部隊長から説明がある。それまでは鍛錬に励み、万全の準備を整えておけ。以上、解散せよ」


集会の後も会議室内は重苦しい沈黙に包まれていた。

一ヶ月後の運命を思って不安に駆られていたのだろう。

未知の魔法を使う敵との戦いという要素が、恐怖をさらに増大させていた。

思い思いに会議室を後にする騎士達の足取りは重く、先ほどまでの日常が一変してしまったことを物語る。




しかしそんな中で、心に灯を宿した者が二人。


「陽動だけなんてまっぴら。セラ、あんたは背中に隠れてなさい。あたしが敵将の首を刎ねてあげるから」

「こっちのセリフだ!オレの方が先に刎ね――るます!」


アムなりの気遣いだったのか、はたまた自分を奮い立たせる為だったのかは分からない。

しかしセラもいい具合に気持ちを高められたようだ。

二人は騎士団本部を後にし、それぞれの宿舎へ向かった。

セラは一人で街を歩きながら、一ヶ月後の戦いについて考えていた。

これまでの人生で最も大きな試練が待っているのかもしれない。


しかも、相手は未知の魔法を使う敵だった。


---


家に戻ったセラは、再び鍛錬を始めた。

一ヶ月という時間は長いようで短い。

その間に彼が何を学ぶかによって、生死を分ける事になるだろう。


そもそも、魔法を見たことが無いのだから問題だらけだ。

夕日が窓から差し込む中、セラの槍が空気を切る音が小さな家に響いていた。

彼の影が壁に映り、まるで踊っているかのように揺れている。


この時の彼には、戦いを知っていても戦争は理解出来ていなかった。

それはきっと、幸運なことなのだ。


新暦268年の春、この絶望的な状況を前に、


セラという少年の物語が動き始めた。

そして彼は、この日初めて私と邂逅することになる。



『セラ』

私の呼びかけに、彼は手を止めて周囲を見渡す。

当然誰もいない。


『セラ、我が友よ。初めまして――いや、ずっと共にいたのだから、改めて、か』

まだ彼は気づかない。

自分の槍から話しかけられているなど思いもしないだろう。

致し方ない。


『私は、君の槍に宿る者。少し、話をしないか』

ゆっくりと――彼は自分の手で握る"私"を見る。

少年はいまだかつてない程、目を大きく開けて反応した。


『あー...返事をして欲しいのだが?』

「うおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああ!!!!!!」


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