特別な約束
今夜泊まる宿に着いて、クロードとリコは一緒に夕食を取っていた
食べ終わったお皿を下げようと白髪の白い髭をはやした優しそうな熟練支配人が入ってきた
リコはお腹いっぱいと座って休んでいると
「お客様、この地域で愛されている丘の上にある月光草はご存知ですか?」
熟練支配人が優しい声でリコに話しかける
「えっ!なんですかそれ!」
楽しそうにリコが食いつく
その様子を見たクロードがピクリと眉毛を動かして眉間にシワを寄せる
「月の光を浴びてそれはそれは綺麗に光る小さな花なんですが…」
「誰の許可を得て話している、気安くその女に話しかけるな」
支配人の言葉を遮るように冷たい声でクロードが言う
「も、申し訳ございません…」
すぐに静かになる支配人
「ちょっと!少し話すくらいいいじゃん!」
リコがムッとしてクロードを見る
――おじいちゃんが相手でも容赦ないんだから…
「それで、それで!その月光草はどこに咲いているんですか!?」
キラキラした目で使用人を見るリコ
「うちの宿のすぐ後ろの丘に咲いているので、お時間があればぜひと思いまして…今日は月が綺麗なので、いつもより綺麗に光るんですよ」
クロードを気にしながら話す支配人
「えっ!行きたい!すごくすごく行きたい!」
バッとキラキラした目でクロードを見るリコ
「余計な事を…」
クロードは予想通り過ぎるリコの反応に呆れてため息を吐く
機嫌が悪そうなクロードを見て支配人はそそくさと部屋から出て行った
ジーッとクロードを見つめるリコ
「ダメだ、明日も朝早い。それにお前は皇女だぞ?こんな夜更けに出歩いて何人の護衛をつけて行くつもりだ」
腕を組んで立ってるクロードが座るリコ見て言う
「えっ、クロード来てくれないの!?」
当たり前にクロードが来てくれると思っていたリコが驚く
「俺は明日の移動の指示をする、そんな暇はない」
「じゃあいい、一人で見に行ってもつまんないし」
あーあー残念の頭の後ろに手を組んで諦めるリコ
リコの意外な反応に驚き考え直すクロード
「俺はお前に心底甘い…」
クロードがため息をついて呟く
「えっ?なに?」
クロードの言葉が全然聞こえなくて聞き返すリコ
「………少しだけだ」
「えっ!!ほんと!?」
リコが立ち上がってクロードに駆け寄る
「見たらすぐ戻ってくる」
「えー!やったー!クロード優しい!」
無邪気に喜んで嬉しそうに笑うリコ
その、愛らしい笑顔を見てクロードの口元が緩む
「そうやっていつも素直でいろ」
スッとリコの手を握りクロードが優しく笑う
「い、いつも素直だよ!///」
――今まで手を握られる以上の事なんて散々やられてきたけど、逆に優しく手なんて握られた事ないからちょっとドキドキするんだけど…///
そのままクロードに手を引かれて歩く
「クロード!場所わかるの!?」
手を引かれて歩くリコ
「ああ、この宿の地形は全て把握してる」
当たり前のように答えるクロード
――姫の護衛って大変なのね…
外に出て暗い夜道を歩く
「気をつけろ」
暗くて歩きにくい場所をクロードが強く手を握りリコが危なくないように手を引く
「う、うん…」
――な、なにこれ…///なんか照れるんだけど…///
手を繋いで支えられながら夜道を歩くとか…なんか恋人ぽくて…なんだかくすぐったい気持ちになる…
顔が赤いのが自分でもわかったので暗い夜道でよかったと安心するリコ
丘を上がって行くと…
「うわぁぁ…!!」
地面が青白く光り優しい光が広がっていた
「綺麗ー!!」
リコが走り出そうとしたが
グッと途中でクロードの手に引き戻された
「走るな」
「そんな子どもじゃないんだから」
思わず笑うリコ
今度はリコがクロードの手を引いてどんどん前に進む
「すごく綺麗だよクロード!!まるで空から星が落ちてきて地面に散らばってるみたい!」
よく見ると背の低い草に小さな白い花が咲いていてその花が青白い綺麗な光を放っていた
花よりも目を輝かせて嬉しそうに笑うリコを見ているクロード
クロードが急にリコの手を離し着ていた黒いローブを脱ぎ、花が咲いていないところに敷いた
「座って見ろ、転ぶ」
クロードが馬鹿にしたように言う
「転ばないよ!!…ありがとう」
クロードの紳士的な行動になんだかソワソワしながらリコがローブの上に座る
優しい夜風が吹いて花がキラキラと揺れる
クロードはリコの横で胡座で触り、リコが隣で体育座りで月光草を見ていた
――な、なんだこれ…
今までにないこのくすぐったいようなドキドキする気持ちは…
こんな綺麗な場所に2人きりって…ロマンチックでなんだか恥ずかしいし…
けど幸せ…この気持ち…
自分の大好きな人が隣にいてこんな綺麗な風景を見れて…
リコが穏やかな気持ちで微笑む
優しい夜風が吹く
「リコ」
クロードの低い綺麗な声が静かな夜に響く
「ん?」
穏やかな気持ちで月光草を見ながら答える
「ルージャルダを出る時なんでも言う事を聞くと言ったのを覚えているか?」
「あっ…そっか…そんなこと言ったね、なんでもって言ってもアタシにできることにしてね」
リコはクロードに無理矢理連れて帰られそうになった時、ルイに手紙を残したいが為になんでも言う事を聞くという条件で少し時間を貰った事を思い出す
スッとクロードがリコの後ろに手をついてグッと近づく
リコは顔だけクロードの方を向く
――な、なに…ち、近い…
いつもと違う雰囲気に、クロードの真剣な顔に身構えるリコ
「帰るな…」
「えっ?」
「元の世界に帰るな」
クロードがはっきりとリコを真っ直ぐ見て言った
「それは…」
――元いた世界に帰るなってそんな…
優しい夜風が二人の髪を揺らす
クロードの青い瞳が真っ直ぐリコを捉える
「お前はこの世界で暮らしていくのが不安で、元の世界に戻りたいのだろう?」
「けど…」
――正直迷っていた…非現実的なこの世界でたくさん刺激を受けて、色々な人に出会ってみんなと離れるのもどこか寂しい…
そして、
目の前のクロードと離れるのが何よりも寂しい。
揺れるリコの瞳
「俺が戻りたくなるくらい甘やかして、なに不自由ない生活を送らせてやる」
クロードがフッと笑いリコを見る
「なんでも言うこと聞くのだろう?だから帰るな」
「ずるいよクロード…」
――ずるいずるいよ…そんなのずるい。
これからもずっと一緒にいてくれるって思っていいの?
そんなこと言われたら、アタシは…アタシは
断れないに決まってるじゃん…
リコの瞳からポロっと涙が流れた
「なんだ、泣くほど嫌なのか?」
クロードがスッとリコから離れて少し悲しそうな顔をした
「…っ、違う。アタシずっと元の世界に戻る方法探してて…けど見つからなくて…ずっと不安でたまらなくて…けど、どんどん時間だけ過ぎていって…そしたら、この世界がだんだん居心地が良くなってきちゃって…あっちの世界に戻るって考えると逆に寂しく思うようになってきて…」
いろんな感情が混ざって溢れるように涙を流しなら話すリコ
クロードが親指でリコの涙をそっと拭う
「このまま帰る方法わからなかったら…諦めてこっちに残れたけど…わかっちゃったの…」
ピタっとクロードの手が止まり、驚いてリコを見る
「確実に帰れるかはまだわからないけど…」
――どういう法則かわからないけど、また満月の夜に願えばきっと叶う…絨毯に乗って満月に祈ったら二回も叶った…こっちに来たのだって満月の夜に祈ったからだった
だから、逆にアタシは迷ってた…逆に苦しかった…
見つからなくて諦めてこっちに残った方がホッとしそうな自分がいる事に気付いたから…
「帰る方法を見つけただと…」
クロードが思い切り引き寄せてリコを強く強く抱きしめした
「ダメだ、俺との約束を守れ。お前の気持ちを聞く余裕などない…」
クロードの始めて聞く弱々しい声に驚くリコ
「行くな、俺のそばにいろ。」
――こんな…アタシにすがるようなクロード始めて見た…
アタシはこんな弱ったクロードを見るとアタシが居なくなると本当に寂しいのかなって思っちゃうよ…
自分の素直な気持ちを伝えたくなってしまう…
「アタシの気持ちもちゃんと聞いてよ」
リコもクロードを抱きしめ返した
「クロードがいつまでもアタシの面倒見てくれるならここにいてもいいかもって思ったのに」
流れていた涙はいつのまにか止まり、少し嬉しそうに笑うリコ
「本当か?」
バッとクロードがリコの肩を掴み引き剥がす
クロードは驚いたようにリコを真っ直ぐ見つめる
「だって、寂しいもん。ずっとそばにいて守ってくれた人とから離れるのは…それにクロードといるの楽しいし」
優しく笑うリコ
――きっとこのまま帰った方が辛いよ…後悔する。
異世界とはいえ、こんなに思える人ができて離れたくなくて…そばにいたくて…
「今回の件といい、離れていくのはいつもお前だが?」
「今回はクロードのせいだよ!」
――もういいや、意地を張るのをやめるよ。
素直になる。クロードだってここにいて欲しいって言ってくれたから…
フッとリコも意地悪く笑う
「王とシアン宛に書いた手紙に、お前を襲った犯人が城いるかもしれないから怖くていれない、と聞いたが俺のせいなのかそれは?それに嫌がらせのように俺には手紙は無かったしな」
少しイラッとしながら笑顔で言うクロード
「本当の本当の理由は違うよ」
――アンタが言う通り勘違いをしてやるんだから
リコが真っ直ぐクロードを見る
月の光に照らされたクロードの青い瞳が輝く
サラサラと優しい風が青白く光る月光草を揺らす
「クロードが第四皇女とキスしてるの見た時、クロードが嬉しそうな顔してて…2人はそういう関係なんだと思ったの、それがすごくショックで、顔も見たくないし会いたくもなかったから家出したんだよ、アンタの事を忘れたかったの…」
クロードが真っ直ぐリコを見つめる
「その時に気付いちゃったの…自分の気持ちに」
リコは決意をした顔でクロードの目を見る
「クロードが好き…」
――アタシは…
ここに残る。
クロードと一緒にいる道を選ぶ。
だから自分の気持ちを伝えたいって思った。
前にいた世界に未練が無いわけではないけど…
それよりもここに居たいって理由ができてしまったから…
これからどうなるかだって不安だけど…
けど、これからもクロードがアタシのそばに居てくれるって言ってくれたから
だから、なにも怖くないよ
リコはそのままクロードに引き寄せられた




