10本目
その後3日くらいは、特に事件もなく滞りなくパンゲアに向けて馬車を進めていた。
しかし、のどかだ。
草木が豊かで、日差しも穏やか。
他の場所を見たわけではないが、2000年後の地球はとても美しく感じた。
人口が少なくなって、環境を汚さなくなったからだろうか…?
そういえば、俺は何となく人類は種の限界が来て数を減らしているのだと漠然と考えていたが、その思考は科学的ではないことに気付いた。
人類のDNAに限界などあるのだろうか…?
「なあ、マミム。何で人類はこんなに数が減っちゃったんだ?」
「わたしもよく知らない。博士に訊いてみたら?」
「お前は何でもそれな」
「だって教わってないんだもん」
「歴史の授業とかで教わってないのか?」
「授業? わたしは博士に色々教わったの」
この世界では、学校みたいな教育機関がないのかもしれないな。
人類が減ってしまった理由は気になるが、まあマミムの言うように後で博士に訊けばわかるだろう。
「む、人がいる」
マミムが前方を見てそう言った。
俺にはそのときには見えなかったが、進んで行くうちに確かに俺たちの進む先に人影のようなものがポツンと見える。
「ゾンビじゃないだろうな?」
「ううん、あれは…わたしのお母さんだ!」
「なぬ!?」
マミムとマミムの母親は2000年後の地球において唯一残された日本人だという。
ということは、彼女も日本語が出来るということか。
マミムの父親はどうなったんだろう…?
まあ、色々あるだろうし、特に訊くこともないだろう。
そんなことを考えながら近づいて行くと、俺は心臓が止まるかと思うほどの衝撃に見舞われた。
マミムの母親はロボットだったのだ。
「お母さ~~~ん!!」
マミムが嬉しそうに手を振る。
ロボットもぎこちない動きで手を振った。
おいおい、何の悪夢だ?
マミムはロボットを母親と思い込んでいるのだろうか?
こいつのどこかズレている行動は、ロボットに育てられたからなのか?
馬車を近づけて、俺たちは降りてロボットに近づいた。
ロボットは全身錆だらけで、デザインも美しいとは言えない。
なんか昭和のブリキのロボットのオモチャみたいな感じだ。
顔の部分には、確かに笑みを浮かべた女性っぽいデザインの仮面のようなものが取り付けてある。
が、仮面も錆だらけで、ホラー映画に出てくるようなピエロみたいな不気味さを感じる。
「マミム、ガガッ…ブ、無事に戻ってきてキテキテ嬉しいわ」
ラジオから出てくる中年の女性のような声で喋りかけてきた。
「うん! お母さん迎えに来てくれたのね」
「ピーガガッ、オオオ遅いから心配してたのよ」
「もう、お母さんったら。わたしはもう大人だから大丈夫だっていつも言ってるのに」
「そちらの方がガガガッ、トオル様ね?」
「ううん、こいつはハゲ。トオルじゃないよ」
「ハゲじゃねぇ! ほんのちょっと人よりも髪の毛のボリュームが少ないだけだ!!」
こいつ俺の名前覚える気全くないよね…。
「初めまして、お母さん。俺の名はハ…サトルと申します。よろしくお願い申し上げます」
あぶねー。
危うくハゲって名乗るところだったわ。
「ピーガガッ、ト、トトト、トオルじゃない…トオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトトトオオオオオオガーーーーピーーーーーーッ!!!」
お母さんのあちこちから煙が出てる。
何かヤバい感じで熱いぞ!
え、何これ?
とにかく本能が命の危機を告げている。
「マ、マミム、お前のお母さんヤバいんじゃないか?」
正直ダッシュで逃げたいんですけど…。
「ハゲ! 取りあえずトオルって名乗って!! 早く!」
「あ、す、すいません!! さっきのは嘘で俺はトオルです!!」
「ピッ!?」
プシュ~~~。
「救世主、トトトトオルと認証しました。ピガッ、ようこそ、パンゲゲゲアへ」
ハァハァ、危なかった…。
すれすれで命が助かった感じにおののく。
一体何だってんだ?
俺がトオルを名乗らなかったらどうなっていたんだろうか…?
そもそもトオルって誰なんだよ?
俺は人違いで連れて来られただけなんだから、早く元の地球に帰して欲しい。
凄く…凄く帰りたい。
「先にトトト、トオル様のDNAコードをピーガガッ、解析したいので血を少しガガッ、いただきます」
お母さんの口辺りがバクンと開く。
「え、あのどうすればいいんですか?」
「指をガガッ、私の口に入れてください」
こえー。
噛み千切られないだろうな?
そもそも俺はトオルじゃないし、トオルじゃないってバレたらさっきみたく暴走して殺されるんじゃねーか?
こいつポンコツそうだし、走って逃げれば大丈夫かもしれない。
マミムは母親がいるので、付いて来ないだろうから置いて逃げるしかないか。
マミムと別れるのはサバイバル上問題があるが、ここで殺されるよりは一人になってでも逃げた方がいいに決まってる。
俺がそうやって逡巡していると、またお母さんの様子がおかしくなってきた。
「て、ててて敵認識。ピーガガッ、モード『デストロイ』発動」
お母さんが変形し、腕や腹の中から銃口のようなものや刃物っぽいものが出てきた。
あ、死んだわ。
俺終わった。
俺が指を入れないので、トオルじゃないとバレたのだろう…。
見た目ヤバ過ぎて、絶対に殺されるのがわかる。
こうなったらマミムのおっぱい揉んでから死んでやる!
そう思いマミムを見ると、無表情でレーザー銃を手にしていた。
おっぱいもダメだ!
近づいたら、レーザーで撃ち抜かれる!!
「ガガッ、攻撃開始」
お母さんの全身からレーザーが放たれた。
「ヒエッ!!」
俺は尻餅をつきションベンを漏らす。
あー、服着てなくて良かった!
つーか、レーザーは俺に一切当たらず周辺へ吸い込まれていった。
周りから奇声がいくつも上がる。
あ、またこのパターンか!
よく見ると、俺たちは軍とも言えるくらい大量のゾンビたちに囲まれていた。
慌てて俺も鉄パイプを馬車から取ってくる。
しかし、お母さんの火力はあまりに圧倒的だ。
ざっと見て、3000体くらいいるゾンビたちがどんどん数を減らしていた。
俺たちに近づくことも出来ない。
マミムも負けずにレーザー銃を撃ちまくってる。
俺は鉄パイプしかないので、その様子を見てるだけ。
すると、今度は辺り一面大轟音とともに光に包まれた。
何なに!?
何が起こったのかさっぱりわからないし、俺は怖すぎてションベンをまた漏らした。
あー、服着てなくて良かった!
この世界ではあれね、俺には服はいらないかもね。
光は恐らく何かの攻撃か?
土煙が晴れてくると、俺はまたもやションベンを漏らしそうになるほどの恐怖に駆られた。
俺たちを中心に、巨大なクレーターが出来ていた。
俺たち…というかお母さん中心に半径3メートル以内は何ともない。
きっとお母さんがバリアでも張ってくれたのだろう。
第二第三の光による攻撃が俺たちを襲う。
音と光で頭がおかしくなりそうだ!!
あー、もうダメだ死んだ。
せめて…せめておっぱいだけでも!
「マミムぅ~~~ッ! 無事か~~~ッ!?」
俺はマミムに駆け寄る。
「あ、あんたまたそんなわたしを心配して…」
マミムの顔が赤い気がするが、そんなのはどうだっていい!
死ぬ前におっぱいだ。
これは最優先事項だ!
俺はマミムの両肩を掴み、両目を見る。
「きゃっ! ちょ、こんなときにあんた何考えてるのよ!?」
「バカヤロー! こんなときだからだ!! 俺の正直な気持ちをお前に伝えるぞ!!!」
「う、うん、言って! あなたの気持ち聞きたい!!」
俺が「おっぱい」の「お」を言いかけたときに、お母さんが割って入ってきた。
「ガガッ、トオル様、早くあなたの血を。今のままではテテテ敵の攻撃に耐えられません。封印を解かないと」
え、そんなことよりおっぱいなんですが!!
お母さんは俺の手を強引に取り、指を口の中に入れた。
少し指先に痛みが走る。
俺の血を採取いて、それが一体何になるんだ?
俺がトオルでないとバレれば、何かブチ殺されそうな雰囲気だよね、これ…。
「トトトトオル様のDNAコードを確認。パンドラロック解錠。モード『ハルマゲドン』解放。再構成開始します」
お母さんから輝きだし、体が細かく分解を始めた。
分解したパーツがどんどん収束し、体が再構成されていく。
こんな超テクノロジーがあるなんて、さすが2000年後の地球である。
どのような原理が働いてるのか皆目検討もつかない。
昆虫は幼虫からサナギになると、体をスープ状にして再構成して成虫になるというが、俺の血がきっかけでお母さんも何か別のものに変化するとでも言うのだろうか…?
再構成が終わったお母さんは、世にも美しいサイボーグの女性だった。




