最終話 王の帰還と星の杖――ファウスト
鎧を脱いでなめらかなドレスに身を包んだアリアドネは、見違えて綺麗だった。涙が星にきらめく。陛下の愛の深さがかえって彼女を遠ざけたのを知ってはいたが、俺にはそれを非難することはできない。それが愛する人の命を守るという、女王陛下のご決断だから。
使命を果たした末に待っていたのがこの結末だった。彼女は愛を失い、俺は親友を失った。
涙が俺の手を動かし、アリアドネを抱き締めさせた。予想外に細くしなやかな体。いつも守ってくれる人のものとも思えない。
「ファウスト、貴殿はいつからこうしたいと――」
「いやなら殺せ。できるだろ」
腕の中でアリアドネが身を震わせて笑うのを感じる。「陛下の処刑命令第一号にする気か?」
「陛下はそうしないさ、知ってるだろ」
少し体を離すと、アリアドネのはしばみ色の瞳が揺れている。突然、手が伸びてきて頭を引き寄せられ、唇に噛みつかれる。今夜お互いが必要だった。ローブが床に落ちた。
数時間後、恐れていた朝が来た。朝日の中、ベッドの隣に彼女の姿はなかった。槍もなかった。彼女が再び旅に出たことを人づてに知ったのは、それから数日後のことだ。
これが起こったことの全てだ。
女王陛下は君臨し、隅々までその栄華は満ちわたる。ガリア王国よ、永遠なれ。
だけど、ああ、俺は人知れぬ洞穴に散ったかつての戦友を思い、失った輝かしい日々を思い、ひとり静かに祈り続ける。願わくば御霊に救いがあらんことを。




