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第五話「Destroy Enemy's Fuel」(後篇)

 完全下校時刻の直前、部活動帰りの遥は部活仲間たちと仲良く談笑していた。

「ねねね!!ちょっと聞いてよみもじーー!!」

「なぁにぃ?」

「今日敬二くんに一緒に帰らないかって誘われちゃった!!」

「えええええ!?ほんとに!?」

「うん!なんかさ、話したいことがあるんだって。告白かも!!きゃーーー!!」

「いや全然ある!だってはるか可愛いんだもーん!」

「え、それな?うち可愛いよね!」

「...でもさ、拓海いるんでしょ?拓海のことどーすんの?」

「あー...アイツ最近どうでもいいわ。最近特に変なことしか言わないし。」

「まぁアイツそういうとこあるから。絶対敬二と一緒に帰ったほうがいいよ!」

「そうだよね〜!ついでに敬二くんに拓海の愚痴聞いてもらおーっと。じゃ、待ち合わせ場所西門だから!またね!!」

「うん!!結果楽しみにしてるねーー!」

「ちょwwまだ告白かどうかもわからないってのwww」


「....遥、来ないな....勘付かれたかなぁ?」


 翌日から、翡翠遥は学校に姿を現さなくなった。遥は風邪を引いても学校へ来て、さらに部活までこなしてしまうほどの強靭な体の持ち主であるため、彼女の知り合いからは彼女の身になにかあったのではないかと心配する声が多く上がった。そして休み始めて1週間が経つ頃には、その話題は敬二や拓海など関係者たちにも届いたようだった。

「おい眞琴。ちょっと相談があるんだが...」

「なんだ、拓海。」

「げっ、なんでお前そんな...いつにもまして目つき悪くしやがって...」

「元はといえばお前のせいだがな。」

「え?」

「まぁいい。で、何があった?」

「遥が1週間くらい前からずっと学校に来てないんだよ!アイツに何かあったらと思うと俺はどうにも心配で...」

「この時期だし、インフルエンザに罹ったっていう可能性もあると思うが...」

「お前もそう思うだろ?でもな、Triumphaの奴らから聞いた話だと、いくらLINEやDMを送っても全く返信が来ないらしい。こんなことは初めてだ...」

「わかった。だいぶ事件性を感じるな。で、俺に何をしてほしいんだ?」

「あー...んーとね。学校の監視カメラとか...見れたりしないか?ほら、お前生徒会だろ?生徒会ならそれくらいできるんじゃ...」

「待て待て。冗談じゃない。流石に俺の権限でもそこまでは...」

「頼む!!俺にはもうお前しかいないんだ!!」

「...わかったよ。」

ここで断れないのが大嶋眞琴である。


「...あのさ。」

「はい。」

「少しは断る勇気を持ったほうがいいと思うよ?」

「そうですよね颯太さん....」

「で、なんで僕なの?」

「貴方様は風紀委員としても立派なご活躍をされておりまして....」

「敬語はいいから。」

「もしかしたら監視カメラに対して何らかの権限があるかもしれないと...」

「あ〜....ないんだなそれが。」

「駄目かぁ...」

「当たり前でしょ。」

「どうしよう本当に。」

「僕としては助ける必要はないんじゃないかなって思うんだけど。いじめの濡れ衣も眞琴に着せてるし。」

「確かにな。しかし、遥が居なくなってもいじめは続いてるんだな。」

伊代へのいじめは更にエスカレートし始めており、伊代は頻繁に物がなくなったり、ロッカーの中に虫が入っていたりしているようだった。

「あんだけされても伊代は心を折らずに学校に来てる。流石、学校の女王様といったところか。」

「他にいじめてる人がいるのかな...拓海だけじゃあそこまではやれないでしょ...」

「そうだよなぁ...恐らく別のTriumphaの誰かだろ。拓海と仲がいい奴を洗い出してほしい。」

「わかったけど...今はそこじゃないでしょ?」

「うーん...」

2人は様々な案を考えたが、はっきりとした解決策は何一つ思い浮かばなかった。そんな中、彼らのいる生徒会室に一人の男が入ってきた。

「敬二....」

「久しぶりだね颯太。あれ、眞琴もいるのか。」

「居ちゃ悪いかよ...」

「ごめんごめん笑笑言い方が悪かったね。」

「そういえば敬二さぁ、1週間前に遥さんの件はこっちでなんとかするーみたいなこと言ってたけど、あれどうなったの?」

「いやー君たちの察しのとおりだよ。全然ダメ。一緒に帰れなかったからね。これから復帰してくるかどうかもわからないし、これからどうしようか迷ってる。」

「そっか...」

「と言いたいところなんだけど。」

「ん?何かあるのか?」

「一応ね。遥さんが僕との約束を破って勝手に逃げたときのために、僕が居た西門以外の全ての門に小型の隠しカメラを設置しておいたんだ。」

「...お前っ!またそんな危険なことを...」

「大丈夫だって眞琴〜僕はその辺しっかりしてるんだから!」

「ならいいが...あまり無駄打ちはするなよ?」

「わかってるって!明日でちょうど10日分の記録が撮り終わる。僕が使ってるカメラは面白くてね、隠し撮りしてることがバレないように10日分撮り終わると全データをこのパソコンに送ってくれて、転送が終わると勝手に故障してくれるんだ。レンズの部分が破損して吹っ飛ぶ仕組みになってるからこれがカメラだとはバレない。世界一安全な隠しカメラだよ!」

「え、そんなカメラ売っていいの!?」

「いや駄目でしょ笑笑」

「でも、なんでわざわざこんな面倒なことをしたんだ?」

「なにかに使えるんじゃないかって思ってね。最近この学校では色々なことが起こってるから、これ以外になにか別の問題が起こったとき、もしこのカメラが録画してくれてたら証拠として出せるようにしておこうとしたんだ。」


「そっか...やっぱり敬二は頭が切れるなー...」

「まぁね笑笑そうだ、颯太さ、明日一緒に映像確認してくれない?僕だけじゃなくてもう一人いたほうが頼もしいからね!」

「え、いいけど...」

「おいちょっと待て。俺は駄目なのか?」

「眞琴は伊代のいじめの件の容疑者になってるから、録画データを改竄されないように念の為ね?」

「いや、だから俺はやってないってお前も知ってるだろ...あと俺にそんな技術はない。」

「ははは笑笑そうだったね。でも、現に遥が来てなくてもいじめは続いてるんだ。僕としても君を疑わずにはいられない。申し訳ないね。」

「...わかった。じゃ、後で教えてくれよ。」

「了解。じゃ、颯太はまた明日ね!」

「はーい。」


 翌日、颯太は敬二に小講義室に連れて行かれた。講義室は内側から施錠され、さらにカーテンも全て締め切られていた。完全な密室空間が完成している状況に、颯太は少し不安そうな表情を見せた。

「そんなに怯えなくても大丈夫だよー」

「いやでもさ、こんな使い方してると先生たちにめっちゃ怪しまれると思うんだけど...」

「真柴先生に使用許可出してもらったから大丈夫!!あの人事情さえ伝えれば基本は許してくれるんだよねー」

「え、意外。僕の中では結構厳しいイメージだよ?」

「まぁ颯太にはそう見えるかもね。」

「どういうこと?」

「まぁいいや!とりあえず、そろそろデータの転送が完了する。そこから今回の遥を連れ出した犯人を突き止めよう。」

「連れ出した....?」

「あいつの中学校を人伝てに聞いたんだけど、あの人の出身は西谷中っぽくてね。」

「西谷中...?」

「そ。山堂くんとか酉都くんと同じ。」

「あ、そうなの?」

「にしても遥、やっぱりなかなかの悪女みたいだよ〜?山堂くん怯えてたもん。」

「山堂が?なんて言ってたの?」

「えーなんかね?」

『最近、伊代のいじめが酷くなってる気がするんだ。伊代にはついにずっと家に居てほしいみたいなことも言われるようになった。お願いだ助けてくれ敬二...もう俺は限界だ。いつ伊代に監禁されるかわからない。いじめの犯人も大体は見当がついてる。』

『一応聞くけど、誰?』

『翡翠だ!翡翠遥だ!お前も知ってるだろ!!あいつは昔っからいじめっ子でな...自分にとって都合の悪い存在を徹底的に排除しようとするやつなんだ!一回チクられて大人しくなったと思ってたけど...ただこのやり方でいじめるのは間違いなく遥だ!!』

『...わかった。後はこっちでなんとかするよ。山堂くんは伊代ちゃんをしっかり面倒見てあげてね!もう少しの辛抱だから!!』

「って言ってたんだよねぇ〜」

「なるほど。」

「それ聞いてさ、僕思ったんだよ。遥が居なくなって、連絡がつかなくなったのも、もしかしたら監禁されてるからなのかもしれないな...ってね。」

「....!!確かにそれだと色々辻褄が合うかも!」

「颯太もそう思うよね!!よぉし、監禁説をメインで考えて、この事件を解き明かしていくかぁ。」

「そっかー...この高校っていじめっ子多いんだね...」

「基本Triumphaに密集してる気がするけどね。」

「そうだね。」

「あ、そうだ。軽音のキーボーディスト...名前忘れちゃったけど、一人やばいやつがいると思うから、そいつのことも気をつけておいて?」

「え、相生さん...?」

「んーそんな名前だったかなぁ?そんな名前じゃなかったかな....いや...ごめん今はわかんないや!!」

「そっかごめんね。気をつけとく。」

「ありがとう!お、データの転送が全部終わったみたいだね。じゃ、早速確認していくか!!」

「じゃあ1日目から...」

「いや10日目から逆再生で行くよ!!」

「え、なんで笑笑」

「いや普通に考えたらわかるでしょ。逆再生で遡っていくと、最初に写ったのが遥が最後に学校に居た時間ってことになるでしょ?そのほうが遥かに効率的だよ。」

「確かに。やっぱり僕頭が弱いな笑笑」

「そんなこと言ってないで早く確認始めるよ!!んじゃ颯太は...裏門と東門の2つをお願い!!僕は西門と正門を見るよ。」

ここから小一時間、2人は過去の映像を逆再生で見漁ることとなった。

「これは?」

「違う!!遥はもう少し体型ががっしりとしている!!」

「8日目には写ってない!!」

「7日目もだ!クッソ...あんまり時間がない!もう少し巻いていくぞ!!」

「あぁーもう!!どこにいるんだよ!!!」

「弱気なことを言うな颯太!!!!!これは、己との戦いなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

こうしているうちに1時間半が経過。そんな中、颯太がある映像を見つけた。

「敬二....?これ....」

「何?どれどれ...あっ....」

写っていたのは遥が最後に学校に登校した日である2日目の19:10分頃。完全下校時刻を10分ほど過ぎてからだった。

「暗くてよく見えないけど、これは間違いなく遥だ。一人か....監禁の可能性も疑ってたけど、学校を出た時点で一人ってなると、探りようがないな...遥...一体どこに...」

颯太がなにかに気づく。

「いや、待って!敬二!!奥に自転車が見えない?これ。しかも、遥さんはその方向を向いてる気がするよ?そこに人がいるんじゃ...」

「...!!確かに!!確かめてみるよ。」

敬二はこのシーンを切り取り、拡大し高画質化を試みた。しかし、肝心の相手の顔はわからなかった。

「くそ....ここまで来たってのに...まぁでも、監禁してるかもしれない男は自転車に乗ってるっていう情報は掴めたから、あとはそこから候補を絞っていくしか...」

「...待って!!自転車ナンバーのラベルがくっきり写ってる!!ナンバーは"1756"だ!!」

「あ、ほんとだ!!これは決定的な証拠につながるぞ!!ありがとう颯太!!ほんとに君のおかげだよ。」

「こんな僕でも役に立てたなら嬉しいよ。」

「よし、これからこいつを特定する。すぐに下に降りるぞ!!」

「うん!わかった!」

こうして、二人はすぐに部屋を片付け、急ぎ足で部屋を飛び出し階段を駆け下りていった。誰も居なくなった講義室。そこに迫る足音に、彼らは気づいていなかった。


 颯太と敬二は駐輪場にたどり着いた。早速彼らは自転車のナンバーを確認し始めた。しかし、どんなに探しても一致するナンバープレートは見つからなかった。

「いやー。部活がなかったのかな。いや、帰宅部って可能性も無きにしもあらず...」

「あのさ、駐輪場の様子がカメラに収められてるとかって...」

「いや、それはない。門しか撮らないように配置してあるからね。あと、これ以上カメラを使って探す作業はしたくない。」

「まぁそりゃそうだ。」

「明日、放課後になったら僕はすぐに駐輪場へ向かう。そこで、2つ颯太にお願いがある。1つは、君も駐輪場までついてきてほしい。そしてもう1つは、犯人を追いかけるために自転車を貸してほしい。いい?」

「了解。じゃあ明日は僕は電車で帰るよ。」

「協力ありがとね。じゃ、また明日!!」

 そして翌日。6限が終わるとすぐに2人は駐輪場へ向かった。

「1756番。あった!!犯人は間違いなく現れる。ここから出てくるまで隠れて待つぞ。自転車の特徴は青、カゴの形は網目状で黒く塗られている。鍵が既についてて鍵のキーホルダーは小さいカエル...よし覚えた。隣の外国語棟の影に隠れよう。」

2人が待ち始めて30分、ついに犯人と思われる男が姿を現した。

「お、来たんじゃない?あの自転車の前に立って....あ、荷物を入れ始めた。よし、今から君の自転車を借りる。僕は平静を装ってゆっくり君の自転車の方へ向かうから、君はずっとそこに隠れていてね。」

「わかった。頑張ってね、敬二!!」

「ありがとう颯太。じゃ、行くね。」

そう言うと、敬二は颯太の自転車にゆっくりと近づき、自分の荷物を入れて自転車に乗り込んだ。颯太は犯人の正体が気になっていたため、気づかれないようにこっそり棟の影から顔を出し犯人の顔を覗いた。

「...あっ。」

思わず声が出てしまい焦る颯太。それもそのはず、この自転車の持ち主の正体こそ、自分がこんな事になっている原因。そして、飛鳥や眞琴に直接接触していた人物だったからだ。


「....拓海....??」


 諸武拓海。現在は帰宅部。元カノは虎瞳伊代。そして、今彼が恋をしている相手は、翡翠遥。彼は今、人生の幸せの絶頂に居た。なんせ、彼はついに遥を「手に入れた」のだから。彼は満面の笑みで自転車に乗り込み、鼻歌を歌いながら颯爽と自転車を飛ばし始めた。事の発端は8日前。完全下校時刻になるまで勉強をしていた拓海は、下校直前にとある会話を耳にした。

『拓海のことどーすんの?』

『あー...アイツ最近どうでもいいわ。最近特に変なことしか言わないし。』

『まぁアイツそういうとこあるから。絶対敬二と一緒に帰ったほうがいいよ!』

聞こえた瞬間。全身の血の気がサーッと引いていくような気がした。「捨てられる」彼は直感的にそう判断し、遥が三田地と別れたタイミングを見計らって遥に接触した。

『遥!!』

遥は一瞬ビクッとしたような反応を見せたが、何も言わずにそのまま足早に西門へと向かい始めた。強い危機感を覚えた拓海は....


走って翡翠遥に追いつき、後頭部を自身の通学バッグで強打した。何度も。何度も。何度も...


倒れ込む遥。軽い脳震盪を起こす中、遥は拓海に問いかける。

『...何すんだよ。』

『僕と恋愛関係である君が、なんで僕の呼びかけに無視するんだい?』

『...それはあんたには関係ない...』

『質問に答えろアバズレクソ女。こんな簡単な問題にも答えられないなんて、どうせ他の男と付き合っても長続きしねぇよ。』

『あんたの相手すんのがつかれたからだよ。どれだけうちが今まであんたのこと大目に見てきたと思ってんの?』

『は...?別に俺は何もお前を疲れさせることしてねぇ...』

『ほんとに自覚がないんだね。もういいよ。うちは敬二と帰るから。』

居ても立っても居られなくなり、拓海はその場で遥を押し倒し、隠し持っていた鋭利な刃物を首筋に突き立てた。

『俺と一緒に帰ると言え。さもないとこの場でお前に一生癒えない傷をつけてやるよ。』

恐怖を感じた翡翠遥は、大人しく拓海の命令に従わざるを得なかった。そして彼らは敬二の待つ西門とは正反対の方向の東門から学校を出て、拓海の家に誘導した。終始服の下に手を入れられ刃物を突き立てられていたため、遥は指示に従い歩き続けるしかなかった。35分程歩いただろうか。彼らは拓海の自宅に到着した。遥は逃げようとしたが知らない街のため道がわからず、スマホを取り出せる状況でもなかったためで大人しく家に入ることしかできなかった。拓海はそのまま彼女を部屋に通し、二人で部屋に入った途端に内側から鍵をかけた。

『しばらくさ、親、帰ってこないんだよね...』

『前聞いた。しばらく...?』

『うん。だからさ、今日はここに泊まっていかない?しっかり話せば、僕がどれだけ君のことを愛しているかの伝わる気がするんだ。』

『...は?もうやだよお前と関わるのは。最後に言っておくけど、うちはすっごく体が柔らかいんだからな!!詰めが甘いんだよ!!!』

そう言うと、遥は2階の窓を開けそこから飛び降りた。しかし、あと一歩遅かった。拓海に足を掴まれていたのだ。

『詰めが甘いのはどっちだ。お前がこういう行動を取ることも想定済みでこっちは動いてんだよ。大人しく俺の言うことに従え。』

『っ離せっ...!!』

拓海は彼女の足に思い切り刃物を突き立てた。痛みでうめき声を上げる遥。拓海はそのまま遥を窓から自室に引きずり込み、ベッドに持っていって押し倒した。

『...何をする気だ。』

『決まってるだろう?あと1週間くらいしかないんだ。危険日は最初の1週間が終わっていれば妊娠する可能性は50%を切ると聞いてな。』

『....!!』

拓海はその場で自分の身に付けているものを一つ一つ外し始めた。そして、その手は遥にも伸びる。

『待て、やめろ!!このっ....あ...あぁ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ....』


(クッソ...なんて早さだ....さてはもともと運動部だったな?)

敬二は拓海の自転車を漕ぐ速さに圧倒されていた。それもそのはず、拓海はもともとサッカー部なのだ。しかし彼も負けてはいられない。実は彼はもともとラグビーをやっていた経験があるのだ。そのため、スピードは劣るかもしれないが体力、特に持久力は絶対の自信があった。そして遂に、彼は拓海の自宅まで追いかけることに成功した。だが、問題はここからである。今突撃したとして、間違いなく拓海と鉢合わせになってしまう。そうなってしまうと、遥は拓海にどのような危害を加えられるかわからない。

「...待つしかないか....」

敬二は長期戦覚悟で張り込みを開始した。しかし、彼の不安は杞憂に終わることとなる。開始から1時間弱がたったであろう頃、

「...!!出てきた....」

拓海が自転車に乗ってどこかへ走り去っていったのだ。

(エコバッグを持ってることを考えると、恐らく食料品の買い出しだろう。しかし、仮にここに1週間人を監禁させているとして、あいつの両親は一体何をしているんだ?いや、違う。居ないんだ!ということは...侵入が容易になる。)

敬二は拓海が完全に見えなくなったのを確認すると、まずは玄関からの侵入を試みた。

(どうせ鍵がかかっている...諦めて裏口から行ったほうが良さそうか.......!?)

なんと普通に玄関のドアが開いたのだ。

「なんて迂闊な...」

この男には防犯という概念がないのかと思いつつ、敬二はゆっくりと中に入った。家からは誰の声もしない、ということは、この家には現時点で両親が居ないことは確定だろう。敬二は少し安堵し、拓海の寝室と思われる部屋へ進んでいった。2階に上がると、一つだけドアが閉まっている部屋がある。ここに遥がいると確信した彼は、彼は恐る恐るドアノブを回した。しかし、鍵がかかっており回らない。

(クソ...流石にここは鍵を締めていたか....こうなったら...)

彼はラグビー部時代に習っていた渾身のタックルをドアにぶつけた。5,6発ほど当てると、ドアはバキッと音を立て、ドアノブが回るようになった。敬二は鍵を破壊することに成功したのだ。

「...遥!!!」

「....敬二....」

彼の予想した通り、そこには遥が居た。しかし、彼女の状況は彼が想像したよりも酷いものだった。首、両手両足を縛られており、制服は着用していたものの、女性にとって最も大事な部分はさらけ出されるように加工が施されていた。更に足には包帯が巻かれており、大量の血が滲んでいた。染み込んだ血の色を見るに、それがまだ新しい傷によるものであることは間違いない。...違う。彼は茶色くなった血が染み込んでいる大量の包帯の山があるのを見つけてしまった。彼女の傷は一つ。つまりこれは、1週間前から断続的に出血していることを意味した。しかし彼は考える。同じ箇所から1週間血が流れ続けることがあるだろうか?いや、今はそんなことはどうでもいい。彼はすぐに彼女の拘束を解いた。

「...助けて...」

「大丈夫...じゃないね。とりあえず僕の制服を着て。怖かったね...もう大丈夫だよ。」

「...うっ...怖かったよぉ....ひぐっ...」

「大丈夫大丈夫....今は僕がついてるよ。」

「....殺してやりたい....」

「ん?」

「アイツを、拓海を殺したい。うちのことを散々いいようにしてきて...この恨みはアイツを殺さないと晴れない気がする....」

「遥、それは駄目だ。君も犯罪者になってしまう。あいつと同格に成り下がっちゃうよ?」

「それでも構わない。とにかくアイツを殺したい...ねぇお願い...敬二...」

「...わかった。じゃあ選択肢は2つになるね。帰ってきた拓海を襲うか、拓海を警察に引き渡すか。」

「警察...?そこは信用できない。」

「いや大丈夫だよ。実は警察には特殊事案の専門の機関があってね、そこならきっと正当に彼を裁いてくれるはずだ。もちろん、精神的、肉体的苦痛を与えながらね。」

「あぁ...秘密警察ってやつ?でもそれはただの都市伝説でしょ?日本にはまだ特高警察がある、みたいな。」

 特高警察。戦前の日本に存在した、治安維持を目的とした特殊警察。最初は過激なテロリストを取り締まる目的で組織されたものだが、第二次世界大戦、太平洋戦争開戦に近づくにつれ当時の政治体制に反発する人々も捕まえるようになり、終戦後にGHQに問題視されたことで解体された。しかし、一部には特高警察は名称を変えて未だに残っていると信じる人もいるのだとか。

「信じるも信じないも遥次第だけど、僕はそういうの結構信じるタイプでね。趣味で色々調べてるんだ。」

「....」

「そろそろその男の人が帰ってくるよね。」

「...多分。」

「とりあえず遥は1階のキッチンの方に隠れておいて。あ、はい、これ。遥のだよね?」

「あ、スマホ...ほんとにありがとね。」

「お安い御用だよこれくらい。で、これも渡しておく。僕が護身用に持ってたナイフ。僕は一旦外に出るから、男の人が帰ってきたら君にとってベストな判断だと思う行動を取ってね。まぁ2つのうちの1つだと思うけど。」

「...」

「決めるのは自分自身だよ、遥。」

「...うん。終わったら連絡するね。」

「わかった。じゃ、またね、遥。」

 敬二が家を出て3分頃、拓海が帰宅してきた。彼は自宅の鍵が空いていたことに今更気づいたようだ。

「あ、やっべ。俺としたことが...」

彼は何も気にせずに自宅に戻り、2階へ上がり遥を監禁していたドアのノブに鍵を差し込んだ。しかし、うまく回らない。

「...あれ。」

おかしいと思いつつも、もしかしてという不安がよぎり、そのままドアノブを回した。すると、ドアが明き、誰も居なくなった部屋が拓海の目に飛び込んできた。

「...は?....は?は!?はぁ!?はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!...ああああああぁぁぁぁぁぁぁあ...遥ァ!!!!どこに行きやがった!!!どこに....」

半狂乱になりながら彼は階段を駆け下り、1階を走り回りながらくまなく捜索し始めた。リビングのソファーの下、テレビの後、洗面所の棚の中....他の人から見ても明らかにそこには居ないだろうと思うようなところもくまなく捜査した。やがてキッチンへ到達した時、彼は思わず声を上げた。

「...あ、あっ...あっ....ああぁっ!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 30分後、諸武拓海の自宅の周りはパトカーと救急車に取り囲まれていた。

(...終わったって敬二くんに伝えないと...)

遥は拓海の家から800m以上離れた場所から敬二のスマホに電話をかけた。しかし、遥の電話には

「お掛けになった電話番号は、現在電波の届かないところにあるか、利用できません。」

というコールセンターの声が響くだけだった。


 翌日から、拓海は学校に姿を見せなくなり、伊代へのいじめも収まり始めた。

「なぁ眞琴。」

「なんだ飛鳥。」

「なんか、拓海さ、未成年飲酒と喫煙がバレて捕まったらしいな!まぁあいつはいつか捕まると思ってたよ!!はっはっは笑笑」

「...だといいんだけど。」

「ん?」

「いや、なんか、別の可能性もあるんじゃないかって...」

「例えば?」

「....やっぱなんでもないわ。色々想像してみたけど全部ありえない。」

「そっか。いやーでもしばらくは学校来ないだろうなぁ〜あいつ。」

「...」


「いやーまさか遥が監禁されてたなんて...」

「ねぇ、かすみも驚きだよね!」

「うん...でもこれが分かったのも、全部公俊のおかげだよね!!ありがとね公俊!!」

「おう!!」

「でもさ、なんで監禁されてるってわかったの??」

「あ〜....内緒っ!!!!」

「ねぇ〜なぁにぃ〜そのかいとーwwww」

「いや〜俺も偶然見ちまっただけだからな!!!」

「え、その現場を!?」

「いや、ちょっとね....明らかに講義室で調べてるやつが居たからさ...」

「ふ〜ん...なんかよくわかんない!!」

「別にわかんなくてよくね?もう終わったことだ!!今は遥さんが戻ってきた事を全力で祝おうぜ!!!!」

「そうだねん!!」


「ねぇ敬二?...今回の監禁の件は学校には...」

「言わないよ。言ったところで絶対揉み消されるもん。この学校の内部がやばいのは、生徒会やってれば嫌でもわかるでしょ。」

「そうだけど...」

「まぁもう終わった話だよ。」

「眞琴は知ってるの?」

「いや、まだ教えてない。今日の夜に連絡するよ。あいつも忙しそうだしね。」

「そうだね。いや...今回の件で何が正義で何が悪なのかが分からなくなってきたよ...」

「そりゃそうだ。僕も頭がこんがらがってる。聞いた話だと、今回の犯人、諸武拓海はこの間まで君たちと一緒に伊代を裁く作戦に協力してたみたいじゃないか。」

「人ってなに考えてるかほんとにわからないんだなぁって思ったよ...」


そんな中、二人の携帯に一通のLINEが届いた。

「ん、LINEだ。」

「生徒会だな...誰だ?"Misaki"って...」

「あ、副会長だよ!!生徒会の!!!」


「皆様お久しぶりです。生徒会副会長の金木美咲です。2学期中は療養のためずっと休職をしており、大変申し訳ございませんでした。三学期に入り、主治医の先生から生徒会の仕事への復帰の許可が出たため、来週に控える生徒会副会長が司会を務める予定の生徒総会より生徒会に復帰させていただきます。引退まであと5ヶ月もありませんが、どうぞ宜しくお願い致します。 ー金木美咲ー」

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