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渦巻く禍なる緋海の書  作者: 玖里丹
1章 呪われた装飾写本
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呪われた装飾写本

緑の稜線に、棺を掲げた葬列が続いている。


灰色の空は重く垂れ込み、葬列が歩む小高い丘の上には霧が立ち込めていた。

風は無く、霧は倦み疲れた亡霊のように、行く当ての分からぬ魂のように、物憂く漂っている。


何人目だったろう、とエイダンは思った。

強大な《本国》との戦いに志願し、物言わぬ帰郷を果たした若者たち。


初めは悲劇だったはずのそれは、十、二十と数を重ねるうち、悲劇の面貌は保ったままに"慣れ"へ、そして諦観へと変わっていく。


「ブラザー・エイダン。雨が近いです、急いでください」


先を歩く助祭に促され、エイダンは黒衣を翻して再び歩を進める。

彼もまた修道士であり、丘の上に立つ修道院へ派遣された学僧だった。



「私の手で……写本を燃やすのですか?」


エイダンは思わず聞き直した。


修道院書庫に収められた、数百年前の貴重な写本たち。

この孤島が《本国》の手に落ちる前に、どこかへ隠匿し守れというなら分かる。宗教者自らの手で焚書にしろという指示に、耳を疑ったのだ。


修道院書庫は写本を守るためにほとんど採光が無く、昼でも暗い。助祭の横顔は、燭台の揺れる光に照らされている。


「閉鎖書架の"鎖付き"だけです。他は……いかに《本国》の護国卿が苛烈であろうと、同じ創世の神を奉じる身とあらば、神の家に火を放つまではしない。……と、祈らざるを得ません」


助祭は、努めて平静を保つようにしながら、「今朝方、伝令船が訪れました」と言葉を続けた。


「……先日の海戦で、旧教の盟主たる帝国は大敗したそうです。この戦争に、彼らからの救援は望めません」


エイダンは絶句した。


同じ旧教を奉じる帝国の救援。

絶望的な戦力差の戦いを続ける《島》にあって、それはか細い頼りの綱だった。

しかし、今やそれも失われた。


「中央島の防衛線は崩れつつあります。……あちらが総崩れとなれば、この北の島に《本国》の軍勢が上陸するのも時間の問題。その前に、"鎖付き"を焼かなければなりません」


助祭はエイダンの目を見て低く、しかし断固とした強制力のある声で言った。


「あれには、この島で最も古く、呪われたものが記されているのです」


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