呪われた装飾写本
緑の稜線に、棺を掲げた葬列が続いている。
灰色の空は重く垂れ込み、葬列が歩む小高い丘の上には霧が立ち込めていた。
風は無く、霧は倦み疲れた亡霊のように、行く当ての分からぬ魂のように、物憂く漂っている。
何人目だったろう、とエイダンは思った。
強大な《本国》との戦いに志願し、物言わぬ帰郷を果たした若者たち。
初めは悲劇だったはずのそれは、十、二十と数を重ねるうち、悲劇の面貌は保ったままに"慣れ"へ、そして諦観へと変わっていく。
「ブラザー・エイダン。雨が近いです、急いでください」
先を歩く助祭に促され、エイダンは黒衣を翻して再び歩を進める。
彼もまた修道士であり、丘の上に立つ修道院へ派遣された学僧だった。
※
「私の手で……写本を燃やすのですか?」
エイダンは思わず聞き直した。
修道院書庫に収められた、数百年前の貴重な写本たち。
この孤島が《本国》の手に落ちる前に、どこかへ隠匿し守れというなら分かる。宗教者自らの手で焚書にしろという指示に、耳を疑ったのだ。
修道院書庫は写本を守るためにほとんど採光が無く、昼でも暗い。助祭の横顔は、燭台の揺れる光に照らされている。
「閉鎖書架の"鎖付き"だけです。他は……いかに《本国》の護国卿が苛烈であろうと、同じ創世の神を奉じる身とあらば、神の家に火を放つまではしない。……と、祈らざるを得ません」
助祭は、努めて平静を保つようにしながら、「今朝方、伝令船が訪れました」と言葉を続けた。
「……先日の海戦で、旧教の盟主たる帝国は大敗したそうです。この戦争に、彼らからの救援は望めません」
エイダンは絶句した。
同じ旧教を奉じる帝国の救援。
絶望的な戦力差の戦いを続ける《島》にあって、それはか細い頼りの綱だった。
しかし、今やそれも失われた。
「中央島の防衛線は崩れつつあります。……あちらが総崩れとなれば、この北の島に《本国》の軍勢が上陸するのも時間の問題。その前に、"鎖付き"を焼かなければなりません」
助祭はエイダンの目を見て低く、しかし断固とした強制力のある声で言った。
「あれには、この島で最も古く、呪われたものが記されているのです」




