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1話 翼を手にしたけど、自由じゃなかった。 広島 元(1)

「この一時間が無限に続けばいいと思う。」

この瞬間だけ、自由を感じる。何からも縛られない。自分の翼を使って、空を自由に飛べる。誰もいない空は、視線も感じない。


僕がこの翼を手に入れたのは、1月7日だ。

その日は、いつもと同じように、うつ伏せでスマホをいじってた。

背中がぞわぞわした。


「なんでw?」なぜか疑問と笑みがこみ上げた。

これが最初、翼に抱いた印象。

人間、不可解なことが自分に対して起きると、疑問がわくのだとわかった。



なぜ、翼が生えてきたかを考えた。


「あれだ、多分」

初詣のお願いだ。初詣の長いごとなんてかなったことがなかったから、少しふざけてやろうって思って、777円のお賽銭を投げて、お願いをしたわ。「自由にしてくれって」


 大学一年になり、高校という狭い枠から解放されたかった。しかし待っていたのは、また枠組みだった、必修、選択必修、成績、次元、狭いキャンパス。大学が僕に提供してくれたのは、自己責任と少しだけ広がった枠組みだった。



誰かが言った、大学は自分次第でどうにかなる場所だと。


どうすればいいんだ。今まで、受動的な場しか与えられなかった。でも社会は能動的な行動を求める。その状況でどう能動的な行動をしろと。どうすれば、いいのかわからない。だから願ったのだ、自由を。能動的に。



「シャァッ」

小さな空気音とともに、小さなガッツポーズをしていて、

思わず笑ってしまった。


だって、みんなが欲しいものを手に入れた。俺だけがだ。


この日初めて空を飛んだ。飛び回った。何も気にせずに。

この日のことは本当によく覚えている。

今までの人生で、人類で初めて、多くの光を見下ろした。

車は地を這い、人間は認識できなかった。ビルから、光が溢れて、赤、黄色の光が見えた。


今現時点で、人類の頂点に立った。「俺が一番偉い。この世で本当の自由を手にした。」


 しかし、限定的なものだった。半日飛んでいたが、7時10分前、背中に違和感を感じたので、家に戻った。背中から、翼を失った。




スマホを開いた。「っっっっっっっやばい」顔から生気が消えた。

「鳥人間あらわる?!」「宇宙人が地球に来たる!!」テレビをつける、どの局をつけても鳥人間のニュースの話をしていた。


「落ち着け」思わず言葉が溢れた。


「っっっっっっっっやばっっ」、とっさにカーテンを開けた。それは大丈夫だった。特定はされていない。Twitterで、「鳥人間 特定」で検索した。

>俺、見た!!!帰り道に、やけに月が切れだったから、見上げたら、なんか羽の生えた人間がいた!びびったわ。マジかwww

>写真です。場所は、東京の渋谷から。

>CGだろ、どうせ

>まじかー! 俺も翼欲しい! 神様翼をください

特定が始まっていた。



大学を休もうと思った。

だって外に出るのが怖いと思ったのは初めてだったから。

しかし次の瞬間に頭によぎったのは、残り欠席できる回数が0回の必修の授業だった。これを休むと留年が決まる。外に出ることを覚悟した。


 外に出ると、視線が痛かった。

周りを、しかし大げさではなく、見渡した。


誰も僕のことを見てはいない。だけど、「見られてる。」そう感じた。確かにそう感じた。いつものように、友達を待っている小学生たちもそれを一緒に待っている保護者も鳥人間の話をしている。


普通に歩いている、おばさんの、スーツを着てるおじさんも、散歩しているおじいさんも、こっちを見てるように感じる。視線に殺されそうだ。しかし逃げ出したら、余計に目立つ。我慢した。


 いつもより、せこせこと歩き、明らかに早く、駅についた。電車に乗り、寝不足だったので、視線を我慢しながら寝た。



 大学につき、話しかけてきた友達も、鳥人間の話もする。気が気ではない。「うん」「うん」「そうだね」、自分でも相槌が小さくなってるのがわかった。そして、正月にお寺で売ってる、干支の置物のように首を縦に振るしかなくなった。

 「元気ないけど大丈夫かww」と聞かれたけど、「大丈夫、大丈夫」としか返せなかった。


 必修が終わったら、耐えられなくて、「体調が悪いから今日は帰るわ」て言って早々と帰った。「体調気をつけろよ」とマジで心配された。



 そりゃそうだ、寝不足ではっきりとクマが出てて、しかも、一生分の精神的なダメージを半日もたたないうちに受けたのだから。そりゃ、体調も本気で悪くなる。


 家に帰りとりあえず寝た。19時になると、また背中がぞわぞわした。




「マジかよ」最悪だ。元凶の翼なんかいらないと心の中で思いながら、翼が生えてくる違和感で起こされたら、たまったもんじゃない。飯だって喉が通ってないのに、こんな現実突きつけられたら、そうなる。



 みんなが忘れるまで、一週間かかった。さすがに話題には出てこなくなった。その間は必修のためだけに家を出て、すぐに家に帰った。LINEも鳴り止まない。心配してくれているメッセージだったのが幸いだった。特定もまだされてない。


 一週間たって、深夜に空に行きたくなった。一週間の間にわかったことがある。


「19時になると、翼が生える。7時になったら、翼がなくなる。半日だけ。」



 久しぶりに、逃げてきた空は、自由だった。視線を感じなかったから。「このぐらいだったらいいか」とも思った。だから空を飛ぶのは、2時から、3時までと決めた。






 時計を見る2時、また空に出た。「自由だ」


 時計を目にする。2時45分だ。今日も、1日における、唯一の自由の時間が終わった。何からも縛られることはなく、視線を気にする必要はない。生きている間の唯一の自由な時間が。



 誰からも気がつかれないように、いつも、これまでの人生の中で一番注意しながら家に戻る。シャワーを浴び、ベットに向かう。朝を迎えることを憂鬱に思いながら、眠りにつく。



「明るい」オレンジ色の光が窓から差し込む。

この光景を普通だったら、1日の始まりに見えるはず。

今日は昼飯にカレーに食おうとか、何しようとか、いろいろ考えるのだろう。


しかしこの光景は、自由の象徴の翼を持ってる僕の視界に入った瞬間に、「今日も1日が始まってしまった。」という最悪な気分を思い起こさせる景色に見える。



側から観たら、ドラマのエキストラのように、誰の意識の範疇にもどう見ても、モブだ。


 しかし僕の心は、「昨日の僕の翼は見られてないよな」「誰も僕をバケモノのように見えてないよな」「あの男の人、いつも僕のことを見てるけど、気がつかれてしまったのか」視線の矢印に攻撃されて、ズタボロになっている。


 不自由だ、みんな翼があれば、自由になれると思っている。だって、ネットでもし魔法が使えるなら、あなたはどんな力が欲しいと検索したら、絶対に誰かしら、翼が欲しいとか、空を飛びたいとか言ってる。

 僕は、みんなが欲しがっている翼を手にいれた。誰もが望むような、天使とか神様の背中についてるやつ。これが背中から生えてきたら、いかにも空を飛べるってやつをだ。


だけど、世界で一番不自由を感じている。もし翼を見られたら、バケモノのような視線で見られると思う。だから夜は遊べない。外に飲みにいけない。サークルにもやめた。友達もいなくなった。なんか付き合いが悪いと噂されてるらしい。翼と視線に怯えながら生活をしてる。


不自由だ、この世で絶対一番不自由だ。


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