ユキナへのご褒美の件3
「へぇ〜、近くで見るとメテオラックドラゴンって結構大きいんだね。それになんかこう…おかしな力を感じる気がするな」
先程聞こえた、あの巨大な生物が近くの地面に着地した音の確認のため、僕ら二人はフルの住処であった巨大樹の根の隙間を出て音がした方向へと歩みを進めた。
すると案の定、僕の読み通りいました。
僕らの前方10メートルほどの場所には1匹の巨大な竜が鎮座していたのである。
体長は3メートルといったところだろうか?竜種にしては決して大きくはない方なのだろう。だが、それでも目の前でみると3メートルというのはここまで大きなものなんだと感じるし、平均より小さい方というそんな言葉も覆る。
『安心しろ、この世界において一番獰猛でかつ、凶暴な種族である竜種を前にそれだけ余裕をこいていられるエデルも十二分におかしいのだ!』
両手で僕にお腹の前で抱きしめられているフルがそう言う。え?その状況を弁解しろと?
いや、これはあれだよ?ほら、フルの体長が小さくなっちゃったこともあり、歩きにくいだろうからこうして抱えてあげているだけだからね!?決して肌身離さずモフっていたいとかそんなわけではないぞ。
それはそうと…フルのセリフは、もはや褒められているのか貶されているのか分からないね。だってこんな状況でも心に余裕を持っているのは勿論良いことだけど、逆を返せば危機管理能力を持っていないことになるもんね。うーん。
それは冒険者としては…うん、よくない、絶対よくないな。改善の余地あり!
『えーっと。はじめまして〜、それとこんばんは〜。…う〜ん?あれ〜?おかいしいな〜?さっきから確かにボクの玩具の魔力しか感じなかったのに…何故か人間までもいる〜』
それまでこちらを観察するようにジロジロと見ていたメテオラックドラゴンが口を開いた。
それにしても獰猛な竜種のくせにこちらの緊張感を削いでくるような間延びした声を発するな。
しっかしどうしてこのドラゴンが希少価値が高いと言われているかがすぐに分かったよ。まるでこの冬の空の中央に堂々と輝く金星ではないかと錯覚してしまうほどに綺麗な純白の鱗を持っているからだ。
…さて、そんなことより、初対面の相手だ。確かに僕らは【メテオラックドラゴンの捕獲作戦】などと、謳ってそれなりに物騒な事を言ってはいるけど僕たちの交渉と相手の対応次第では実力行使ではなくとも穏便に話を進められるのだ。
…だからこそここはファーストコンタクトが鍵を握るかもしれないな。ここは慎重にいかなくては…。
そう心に刻んで頭で瞬間的にイメージトレーニングをしてから僕が口を開こうとした時であった。そんな僕の気持ちを嘲笑うかのように遮り、別の者がとんでもないファーストコンタクトをとってしまう。
『おいメテオラックドラゴン…。貴様は今、我のことを【玩具】と、そう比喩したのか?
フン!全く嘆かわしい。自分の力の無さも知らず、相手の力量すらも測ることができない小物に馬鹿にされてしまうとは…我も落ちぶれたものだ。』
「なっ!?ちょ!フルさん!?」
フルが僕の腕から逃げ、大きな怒りを秘めた瞳でメテオラックドラゴンを睨みつけながら体を大きな元の状態に戻した。
そして僕は両手を頭に抱えて地面に蹲る。
…やってしまったー!フルがやってしまったー!穏便に話を進めるどころかとんでもない大きな爆弾を投げたー!あー!!
さらにフルが身体を大きくさせてしまったせいでもう、抱きしめモフモフを楽しめなくなってしまったー!最悪だー!
さらにさらにだ!顔を上げてふと、メテオラックドラゴン視線を移すとそれはまぁビックリするほど瞳が真っ赤っかなんだよね。はいそうです。
つまるところ先程のフルのセリフによって怒りのあまりどうやら暴走個体になったみたいです。
『そうかそうか〜。さっき空を飛んでいた最中チラッと見えたあの巨大オオカミはきみだったんだね〜。
見たところ、君たちはボクに何かしらの用があるみたいだけど…』
『ほう。小物でも鈍感では無いようだな。その通り、我々は貴様に用がある。付いてきてもらうぞ!』
『え〜。せっかく来たんだから遊んでよ〜』
そういうや否やメテオラックドラゴンの周りに直径50センチほどの光の玉を3つ出現させた。
なんだアレ?あっ!ステータスを見ればいいか。
⚫︎名前 メテオラックドラゴン
⚫︎HP 99/99 SP99/99
⚫︎レベル2
⚫︎スキル 大型メテオ3連
うわー、なんか低いステータスが逆に怖い。二桁とかなんか久しぶりに見た気がするよ。思い返せば僕のステータスがインフレしているのって98%はフルのせいだもんね。それに付け加え、スキル名のところ、怪しい。実に怪しい臭いしかしないんだけど…。
それはそうと、僕はこれから戦闘を開始しようとしているフルに一言だけ告げた。
「遊ぶのもいいけど、あんま時間あんまりないからね」
…ご主人、大丈夫だろうか。いや、ご主人やフル様が強いことなどもちろん知っている。正直な話、眷属である私が心配などすること自体が間違っていると言われても仕方がない。
しかし…何かモヤモヤするような…。
「はぁ…」
「ドレイク?どうしたの?」
「あ…!いえ、なんでもありません」
私が作った渾身のフルコースを食べ終えたユキナ様がこちらの顔を覗き込み心配した表情でそう尋ねてきた。
最近になりユキナ様は、私やフル様を君付けで呼ぶことが減ってきた。これは、ユキナ様なりの家族としての振る舞いなんだそうだ。
…と、いけないいけない!私はご主人からユキナ様の事を頼まれているのだ。しっかりしなくては。
「それにしても、ドレイクは料理すらもあっという間に私を抜いちゃったね。すごく美味しかったよ、このカレーっていう料理!このバケットのパンととってもよく合うし」
「最近、東の国からここら辺に伝わった料理とのことらしいです。本当はスパイスとしてフラマメなどを使用してこのルーを辛くさせて頂くようなのですが…女性であるユキナ様にアレは口にするのはおススメできなかったので、近くの森で取れた素材を代用しました」
「す、すごいね」
ドレイク自身はあまり気がついていないが、実は彼は作る料理は全て一級品だ。事実、彼が森から取ってきたと言っていた素材というのも中級冒険者以上、それもかなりの経験を積んだ者でなければ採取することすらままならないほど森の深い位置にて低確率でしか入手できないものばかりがふんだんに使われていたりする。
もちろん、味付けも完璧で申し分ないレベルであると同時に、さらに今日のように日に日に新しいメニューに挑戦するという冒険心も兼ね揃えていたりもする。
「それはそうと…エデルとフルも遅いなぁ。どこをほっつき歩いているのかしら?」
ユキナ様は、可愛らしく頰を膨らませながら二人のことを心配している。
確かに何も知らなかったら心配するのも無理はない話だ。
さて、もう予定の時間が差し迫ってきているし、そろそろユキナ様をあの場所へとご案内するとしよう。
そう考え、私は食卓の椅子から立ち上がると、ちょうど向かいに位置するユキナ様が座っている椅子の横へと移動する。
「あら?どうしたのドレイク?」
「これからユキナ様が身を案じておられる私がフル様、そしてご主人の元へとご案内いたしょう。しかし、1つだけ条件があります。」
「えっ?じょ…条件?」
「はい、別に難しいことではありません。1分間の間だけでいいのでその目を閉じて、私の先導についてきてもらいたいのです」
私は片膝を折り、右手をユキナ様に差し出した。
ユキナ様は少しだけ困惑の表情を浮かべたものの、すぐに優しく私の手を握り一言。
「うん。それじゃあお願いしようかしら、我が家の小さな紳士くん」
「この先、地面の形状が悪くつまずきやすくなっているのでゆっくり進みましょう」
「ありがとう。それにしても少し肌寒いね。もう少しだけ厚着をしてした方がよかったかも。ドレイクは大丈夫なの?」
「ご心配ありがとうございます。私は身も心も頑丈なので大丈夫です!」
と、ドレイクは優しい声で私に返してきてくれた。
私、ユキナは目を瞑ったままドレイクの両肩に両手を置き、どこかへと誘われている真っ最中だ。
今は季節の変わり目、しかもあれほど長かった夏が終わりを告げて秋へと移行させていることもあり、夕方からはとても冷え込むのだ。
…私の体内時計だと、あと20秒でエデルに会える。多分、確証はないけど。
最近、私は何かおかしなモヤモヤとした気持ちを心の奥底に隠していたりする。バスパの街中で女の人にエデルが話掛けられていたりすると、とても悔しい気持ちが溢れてどうしようもなくなることがあったり。そのくせ自分から積極的にエデルに話しかけられるというわけでもなく、エデルの方から話かけてもらえないだろうかと常にまっていたりする。
というより、みればわかるだろうがいつもエデルのことばかり考えている。
ボンヤリと自分のことを客観的に見ていると、それまで私の前を先導してくれていたドレイクがゆっくりと歩みのスピードを落としたかと思うと、数秒後には完全に停止させた。
「ユキナ様、到着いたしました。ですが、目を開ける前に1つ。
その場に腰を下ろしてください」
「え?この場に腰を下ろせばいいの?」
私は少しだけ疑問を抱えながらも目を瞑ったままで、言われた通りその場に腰を下ろした。
しかし、目を瞑ったままだと当たり前だといえば当たり前だが、平衡感覚が取れないのでバランスを崩して後ろに体重がいってしまう。
「ひゃ!」
しかしその後、なぜか私の予想に反して背中から地面に着地することは無く、代わりにモフっとした何かが私を支えてくれたのである。
「何かしら?」
すっと目を開き、私の後方を確認してみると、真紅の毛皮を見にまとった獣が目に映った。
『どうだ。我のモフモフ毛皮は温かいであろう?』
「あ、ありがと」
どうやら私はフルの胴体に寄っ掛かっている状態だったようだ。
確かにフルの毛皮は温かい。それに不思議と安心感に包まれるような、そんな気持ちにもしてくれる代物だ。
「うん、とってもあったかいよ」
そして、ふと隣に何者かの気配を感じ取った。瞬時に横に視線を移動させると、そこには…私の夫であるエデルがこれまたフワフワの毛布を両手に担いで現れたのである。
「よし、時間ピッタリだ!さてこれからユキナの為に僕らが用意したショーを開始するよ!」
彼は、そう言いながら指を1つ鳴らした。
すると、上空でキラキラと輝く星を引っ付けていた星空のちょうどど真ん中に一瞬だけ、一筋の光が横切っていった。
「あ!エデル、流れ星が」
私はそれを見て思わず興奮した様子でエデルに話かけた。
「まだまだこれからさ!」
彼はそういうと、フルに寄っ掛かっている私の右側のスペースに同じようにして寄っ掛かっり手に持った毛布を私にかけてくれた。
そうしている間にも、1つ、また一つと満点の星空に細い線が横切っていった。
私はその光景を見て胸を踊らせながらも少し後ろで一人、立ったままその夜空を見上げているドレイクに私の左側に空いているスペースに来て、座るように手で促した。
ドレイクは頭に疑問符を浮かべながらも、座ってくれた。
「ほーら、みんなも風邪引いちゃいけないよ!」
私はそう言い、二人に大きな毛布の端と端をそれぞれ肩にかけるように促した。
それからしばらく、3人と1匹は満点の星空の間をすり抜けていく、とてもドラマチックな無数の流れ星をただ無言で眺めていた。私はそのうちの一つに先程思いついたある【願い事】を唱えた。
「綺麗だね。本当に」
「えっ!?」
彼がいきなり、綺麗だなんて言うものだから私は反射的に彼の顔を見てしまった。とは言っても、あまり明るいわけではないから彼が星か、私のどちらの事を言ったのかがわからなかった。しかし、逆にそれはあちらから私の現在真っ赤っかに染まった顔も同様に見られていないということだ。
「もぅ、いじわる」
私は頭の整理がついた後、そう小さく聞こえないくらいの声で呟いて、深呼吸を一つしてから彼の大きな肩に頭を預けた。
左側と後方からは小さな寝息が聞こえているため、おそらく既に寝てしまっているのであろう。
今は二人の時間なのだ。今しかない!
「あのねエデル、私あなたに一つだけ言いたいことがあるの…」
「偶然だね。実は僕もユキナに一つだけ伝えたいことがあったんだよ」
顔はしっかりとは見えないが、普段は子供っぽいところがある彼が、不思議と今はとても大人に見えた。
「それじゃあ、悔いが残らないように二人同時に言いましょう」
私の提案に彼は首を縦に一つ振った。
…あぁ、ドキドキする。
「それじゃあ言うよ。せーの」
「あなた【君】といるだけで私【僕】はとっても幸せです【だ】!
どうかこれからもよろしくお願いします!」
私は今日という日、そして彼からもらったサプライズを決して忘れてしまうことはないだろう。
これから、決して。そう、絶対にだ。
【ユキナへのご褒美の件 終】




