最終話「エピローグ」
・・・・・・・あれから5年が過ぎた。俺は軍人を辞め、小夜子と結婚し、二人の子供をもうけていた。暫くの間、要人の間で救世主騒ぎがあったが、それも、アレクシーナの圧力もあり、結局は表に出る事はなかった。草原に小さな家を買い、そこで静かに暮らしている。俺にあったα能力は何故か消えてしまった。あの白い空間で会った男が、この先の俺に必要ないと、俺から力を奪ったのかもしれなかった。だが、本当のところは分からない。
小夜子と二人の子供を得て、心底から奇跡も特別な力もいらないと思うようになった。いや、そんなものなどなくても、この世は奇跡にも特別な力にも満ちている。子供が生まれた時に特にそう感じた記憶がある。特別な「力」など、もはや必要ない。「力」があろうがなかろうが、自分がやれる事を最大限やる。それ以外に道はないはずだと、俺は今はハッキリと知っている。
アレクシーナ女王は平和連合の後見役となり忙しくやっている。ジョー・アルシュの死によって戦争は回避され、世界中からあった誤解も解けていった。世界は緩やかにだが、崩壊の道を建て直し始めている。
リーンは持っていたβ能力を失ったが、アレクシーナの影の相談役となっている。今はお付きの武官と大恋愛の最中だと聞いている。
西城は相変わらず、諜報部で働いている。来年には陽子と結婚する事が決まっている。時折、訪れて来るが、その度に、「見事に捕まっちまったよ。俺も年貢の納め時だな。」などと嘯いている。
紫炎も相変わらずだ。少しずつ世界の崩壊が収まってきているとはいえ、まだまだやる事は多いようだ。世界各地の重要人物から相談を受け、あの調子で御宣託を下しているらしい。
小夜子は日本の諜報員を辞めて、今は俺の側で暮らしている。日本の機密を幾つか知っていたが、アレクシーナ女王の圧力に、結局日本側が折れた。今は、険がとれ、凄く穏やかな顔になっている。きっと、幸せな生活を送らせてやれているのだろうと思う。「私はお前を一生護衛する。」そう言うのが口癖だった。
リッターさんは、アレクシーナ女王の護衛を続けている。美人なのでいいよる男は多いらしいのだが、「碌な男がいない。これなら独身の方がまし。」とリーンに零しているらしい。
世界は変わりつつあった。だが、まだまだ難問を抱えている。その中でα能力を失った俺に何が出来るか、いつも考えていた。小夜子は「お前の人生だ。お前の好きに生きろ。」と言う。全くその通りである事を、俺はあの白い空間に座っていた男から知った。運命に振り回されるのはもうごめんだった。
世界は少しずつ変わりつつある。その中で、俺は、世界の中の一員として・・・・・・・いや、世界に関わっていく為に、小説を書き始めていた。少しは売れていて、生活するには困っていない。今、俺は、自分のライフワークとなる小説を書いている。題は・・・・・仮題「シャングリラ」・・・・・。
「いい天気だぞ。根を詰めずに少しは外に出ろよ。」
執筆していると小夜子の声が聞こえた。
「ああ、たまには少し外に出るか。」
俺はそう答えた。ワープロの手を止め、外へと向かう。
玄関から出た瞬間、暖かな日差しと、草原の心地よい風に包まれた。この世界は幻想や架空の物なんかじゃない。俺は素直にそう思った。
「お前が守ってくれた世界だ。」
小夜子が笑顔で言う。
「いや、皆の力さ。俺一人じゃ、きっと何も出来なかった。」
「いい心掛けだな。だが、お前の力も大きかったさ。」
小夜子はそう言って軽く微笑んだ。小夜子の笑顔、それがあるだけで、戦い続けた意味があったと思う。
この世界がどうなって行くのか、俺には分からない。だが、自分の出来る事を少しずつ続けて行こうと思う。あの白い空間にいた男もそれを俺に望んでいたのだと思う。きっと、その先に理想郷が・・・・・・・「シャングリラ」があるのだから・・・・・・・・・
仮題「シャングリラ4(終局)」了
仮題「シャングリラ」 了