第2話「最後の選択」
リューヤ・アルデベータは真っ白な空間の中で、扉の前に立っていた。この向こうに疑問をぶつける事が出来る相手が居る事をリューヤは直感的に悟っていた。
扉を開く。
真っ白な背景の中に一人の男がデッキチェアーに座っていた。
「あなたが、創造の主か?」
そう言われた男は静かに頷き、答えた。
「これも仮の姿に過ぎないが、君と話すにはこういう形しか取れなかった。」
「何故?」
「君とはいる空間が違う。」
「????」
「だが、私の本体が君の世界のα(始まり)でありΩ(終わり)である事も事実だ。私にも君達の世界でいう名前がある。また、通り名もある。この世界では月読天舞、arunosuke73などとも呼ばれているが・・・・・・・・君との会話に名前は必要ない事だと思う。」
「随分、俗っぽい名前だな。それが神様の名前なのか?」
「神の手・・・・・・・私の名前をアナグラムで解析するとそうなりはする。だが、何度も言うように、君との会話に名前は必要ない。まず、私は神ではない。君の世界の創造の主ではありはするのだが・・・・・」
男は側にあるコーヒーを手に取った。
「?創造の主の事を神と言うんじゃないのか?」
「私は自分を「神」と呼べる程、つけあがってはいないよ。」
「だが、俺達の世界を構築した。」
「そうだ。それは間違いのない事だ。」
「なら?神でいいんじゃないのか?」
「私はそう呼ばれる事を好まない。」
「そうか・・・・・・・・」
リューヤは目の前の男をジッと見詰めた。
「君は、少し前に三つの世界を旅した。一つは君の大切な人間がいる世界。一つは「干渉者」「眺める者」のいる世界。一つは家族を失った世界。」
「ああ。全て、現実のように感じてる。」
リューヤはあくまで落ち着いた素振りで答えた。
「そう・・・・・全て・・・・どの世界も現実だ・・・・・。私にとっても、君にとってもそうなのだ。しかし、全ての人にとってはそうではない。ただ、世界という物がどのように出来ているか・・・・・・それを描く必要があった・・・・・・・・」
「描く?」
リューヤは表情を変えず、そのまま男を見詰めた。
「君には信じられないかもしれないが、君の世界は我々にとっては「小説」の世界なのだ。」
「!」
「我々の世界でも恐らく、君の事を描く必要があった・・・・・・・私自身の為・・・・・・そして、読者の為にだ・・・・・・・・・」
「ちょっと、待ってくれ・・・・・・・そんな馬鹿な事があるっていうのか?・・・・俺は確かに・・・・・・」
ミハエルに会う為に登った山の気配、一つ一つの葉っぱ。小夜子と抱き合った感触。リーンが死んだ時の感覚。全てをまざまざと思い出せた。そんな馬鹿な事はありえない。そう思えた。
「君にとっては全て現実だ。だが、我々にとってはただの文字の集合であり、それぞれの頭の中に浮かんだ情景しか存在しない。架空の世界なのだ。」
「・・・・・・・待ってくれ・・・・・俺は・・・・・・・・」
「いや、君にとってはあくまで現実なのだ。だが、我々はそういう形でしか君の世界を知りえないという事だ。私が描いた世界とはいえ、君にとっては間違いなく存在する世界だ。そして、君は、あの世界での私の移し身だった。私が悲しい時に君は悲しみ。私が怒る時に君は怒った。」
小夜子の言っていた。物語・・・・・・・・それが現実だったということなのか・・・・・・・・
「待ってください。理解出来ない・・・・いや・・・・・・分かる、分かりはする・・・・・だが・・・・・・」
リューヤは混乱していた。
「座って、コーヒーでも飲んだらどうかね?」
男はそう言った。
「あんたが・・・・・あんたが、運命を操り、世界を作り、好きなようにしたっていうのか!!!!!」
男は少し悲しそうな顔をした。
「そうとられても仕方がないのかもしれない。君達にも自由意志があり、そして、君達自身で運命を織り成した。それも間違いのない事なのだ。だが・・・・・・・・」
「だが?」
「君には本当に厳しい運命を与えてしまったと思っている・・・・・・」
男は本当にすまなそうな顔をしていた。辛かったのかもしれない。そう思えた。だが、怒りの奔流は止まらなかった。
「俺は・・・・・俺は・・・・あんたの操り人形じゃない!!!」
「その通りだ。状況と状態は私が与えた。だが、選んだのはいつも君だ。確かに、私は君が何を選ぶかを知ってはいた。だが、それは、君の自由意志を捻じ曲げたという事ではないはずだ。」
「そんなのは・・・・・・そんなのは詭弁だ!」
創造の主を前にしても言葉は止まらなかった。
「そうかもしれない。だが、そこから先の事は私にも分からないのだ・・・・・・・・・・」
「俺は・・・・・・俺が本当に自分の「道」を選んだのか知りたい。あんたが選んだ運命なんかじゃなく、俺自身が選んだ道が、本当に俺の選んだ道なのか!?」
男は静かにコーヒーを口にした。
「君が選んだ道は私が選んだ道であり、同時に君自身が選んだ道だ。君は私の移し身であり、君は私の雛形だった。私が君と同じ状況で同じ道を選べるという自信はない。だが、君はいつも、私の選びたい道を選んでくれた。」
「きっと・・・・・あんたも辛くて悲しくて・・・・・・時折笑って・・・・・そんな人間なんだろう・・・・・」
リューヤの心は混乱したままだったが、少しだけ相手を思いやる気持ちが湧いていた。
「許してくれとは言わない。だが、君が君自身で選んだ事は。間違いなく、君が選んだ事だ。」
「俺も・・・・・許せるかどうかは分からない。例えあんたが全てを決めていたのだとしても、俺は、やっぱり同じ道しか選べなかったと思う。」
男は静かに頷いた。
「話は尽きない。だが、もう、君は知りたい事を知ったはずだ。」
「分かるんだな?」
男が頷いた。
「そうだ、君がどこに帰ることを選択するかも、私は知っている。だが・・・・・・」
真っ白な空間が消え、目の前に4つの扉が見えた。
一つは病室の扉、一つは実験場の扉、一つは天国への扉、一つは・・・・・・・
「選びたまえ。君はどの世界を選んでもよいくらい必死で生きた。私からのせめてもの贈り物だ。」
声だけが響く中、リューヤが一つの扉を選んだ。
「その扉は最も困難で、最も大変な道だ。分かっている・・・・・・・ね。」
「ああ。分かってる。でも、俺はこの道しか選べない。」
姿はなかったが、男が頷いた気配がした。
リューヤが扉を開ける。見慣れた風景が広がっている。
「おかえり」
そこには・・・・・・・・小夜子がいた・・・・・・・




