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第1章-11

外から差し込む、暁色の日差し。

夜空を思わす色と、未だ夜でないことを思わす薄い青色とが層になっている空。

そして――朝のような騒がしかった雰囲気が嘘であったかのように、凛とした静けさだけがそこにあった。

「……あれ?まだいたの?」

「あ……あぁ」

自分たちの席が置かれている教室に入ってきたこよみと、そこにいた遙。

「こよみと、一緒に帰ろうかと思ってね」

遙は、微笑みながら言った。

「うん♪」

そして、それに笑顔で答えるこよみ。


校舎内にいる生徒は、遙とこよみだけだった。

だが、校舎からでると、グラウンドで練習している野球部などの運動部の声が響いていた。

一緒に歩く二人の間には――あの時と同じ沈黙だけが漂っていた。

そして、そのまま歩き続け、あの場所まで来てしまった。

色褪せ、本来の色を取り戻した桜の葉は、殆どが堕ち、枝が露出して桜並木道。

中学に入って、遙がこよみに告白した場所。

そして――こよみが遙に自分の答えを言った場所。

二人が付き合いだした場所――

「遙ちゃん?」

突然、隣を歩いていた遙が立ち止まった為、不審に思ったこよみが少し離れた場所で振り向いた。

あの時と――同じように――

「こよみ……」

言わなくてはならない事――

伝えなくてはならない事――

その言葉が、遙の喉につまり声として出すことが出来なかった。

「こよみ……」

ただ出てくるのは、『こよみ』と言う彼女の名前だけ――

「どうしたの?」

そんな遙に不審を思ってか、心配そうな顔でこよみは遙のもとに近づいた。

「……ごめん……」

やっとのことで彼の口から出た言葉は、謝罪の言葉だった。

「……え……」

そして、一体彼が何に対してそんなことを言っているのか理解できないでいる彼女の表情は、更に不審さと心配感を増すだけだった。

「ごめん……ごめん……」

遙は、近づいてきたこよみを抱いた。

優しく――何処となく力強く――

そして――

「遙ちゃん?何で泣いてるの?」

突然、自分に抱きついて来たと思ったら、今度は涙を流しだした遙の心境が分からないでいるこよみ。

今の彼女に出来ることは、ただ彼に訊くことだけ――

「ごめん……ごめん……」

訊いても返ってくるのは、『ごめん』と云う一言だけ。

それは一体何に対してなのか、教えてくれず――

彼は、涙を流しながら――

「遙ちゃん……」

一体、彼は自分に何を伝えたいのか?

そして、彼が流す涙の意味は?

何も分からない自分が、空しく感じてきた。

「こよみ……」

遙は涙を流しながらも真剣な表情で、こよみの顔を見た。

いや―――それは見据えたという表現が妥当だ。

「……別れよう……僕たち」

それを訊いたこよみの瞳は大きく見開かれた。

「え……」

「別れて……前の幼馴染に戻ろう」

潤いながら、揺れるこよみの瞳。

そして――蒼白になった顔色――

「もう……無理なんだ……」

遙の表情は、これ以上にないほど真剣だった。

そして、それが意味することは今起きていることがふざけや冗談なんかじゃなく、真面目や真剣であること。

「……嘘だよね?」

いつもとは違った弱弱しい声で聞き返すこよみ。

それは、今のこと起きているこの事が夢やふざけ・冗談であることを信じて――

「……」

そして、それに返ってくるのは重い沈黙だけ。

夢やふざけ・冗談でないことを語ってる沈黙

「……言ってよ!!嘘だと言ってよ!!」

それに耐え切れず、こよみは強く彼の胸に自分の拳を当てた。

「お願いだから……お願いだからぁ」

バンバンバン……

何度も何度も、彼の胸を叩く。

そして、その音が空しく二人を包み込むように響く。

「……嘘じゃない」

真剣な表情を崩さず、遙は言った。

今のこよみに止めを刺さんばかりの衝撃の一言を――


「飽きたんだ!!」


更に瞳を大きく開いた、こよみ。

全身が震え、今にでもその場に崩れてしまいそうだった。

そして――遙はそれでも、止めてしまうわけには行かなかった。

近いうちに来る可能性が高い『別れ』の為にも――


「お前と一緒にいるのが苦痛なんだよ!!」


限界だった。

遙の心の痛み。

そして――、こよみの痛み。

二人の違ったそれぞれの痛みが限界だった。

それでも……途中でやめるわけには行かなかった……


「邪魔なんだよ!!目障りなんだよ!!」


言いたくなかった言葉。

だけど……伝えないといけない言葉。

あの時流れ出した自分の涙が乾き、その姿を消えたのは――

一体、何時から自分はそうしていたのだろうか?

自分が胸を押さえていたことを――このときになって改めて気付いた。

そして、その言葉がこよみの全てを砕いた。

大きく見開かれた瞳から、見る見るうちに涙流れ出し――


無言で遙は、こよみの脇を抜けるように走り去った。

独り残されたこよみは、その場でしゃっくり上げ、声をあげ泣いた。

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